猫の垂れ耳は可愛いだけじゃない!複雑な問題と私たちが考えるべきこととは
垂れ耳とは
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耳がペタッと前方または横方向に折れ曲がっていることを、垂れ耳と呼びます。折れ曲がっている角度は、耳の穴が見える軽いものから、根元から折れて耳全体が頭に着いている深いものまで色々あります。
冒頭でもご紹介したように、垂れ耳の猫といえば「スコティッシュフォールド」です。日本においてスコティッシュフォールドは、知名度・人気・飼育数・全てにおいてトップクラスです。
この記事では、「スコティッシュフォールド」を垂れ耳の猫の代表として、垂れ耳の問題点を解説していきます。
猫が垂れ耳になる理由
猫といえば、ピンと立った三角形の耳が一般的で、垂れ耳は非常に珍しいです。それもそのはずです。実は垂れ耳は耳の軟骨の形成異常によって発生するものだからです。遺伝的な骨の異常が原因で、耳の形があるべき姿とは異なってしまった状態です。
異常という言葉にショックを受けた方も多いでしょう。しかし、残念ながら垂れ耳が先天性の骨の異常であることは、獣医や専門家の間では事実として認められています。
垂れ耳の猫(スコティッシュフォールド)が抱える問題
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垂れ耳の猫が遺伝的に骨の異常を抱えているということは、当然ながら、猫の健康や飼育の仕方、繁殖や販売の点で、倫理的にも様々な問題を引き起こします。
猫好きな人が「垂れ耳が可愛い」「垂れ耳のスコティッシュフォールドじゃないと飼いたくない」と無邪気に発言し、無知のままに垂れ耳のスコティッシュフォールドを探すのは問題です。
垂れ耳への過度の関心はスコティッシュフォールドに悪影響を及ぼす可能性があること、命を危険にさらすこともあるのです。
耳の病気になりやすい
垂れ耳だと、耳の中の通気性が悪く蒸れてしまいます。蒸れると、外耳炎になったり耳ダニが発生したり耳の病気にかかりやすくなります。
ですから、垂れ耳のスコティッシュフォールドは、耳のケアをまめに行う必要があります。自宅で毎日、耳のふちや外側を拭いたり定期的に獣医さんに耳の中を掃除してもらわないといけません。特異な耳の形ゆえに、スペシャルケアが求められるのです。
垂れ耳同士の繁殖
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日本でおなじみのスコティッシュフォールドですが、もともとは1960年にスコットランドで偶然見つけられた「スージー」という垂れ耳のスコティッシュフォールドをもとに繁殖が行われました。
スージーは異常遺伝子を持った個体で、耳の形成異常を患っていたがゆえに垂れ耳でした。スコティッシュフォールドはみな垂れ耳の猫だと考えている方もいますが、実は異常遺伝子を受け継いでいないスコティッシュフォールドは立ち耳です。
しかしながら、個性的でチャーミングな垂れ耳のスコティッシュフォールドはあっという間に人気となり、多くの人が垂れ耳のスコティッシュフォールドを求めるようになりました。
その結果、垂れ耳同士の交配が盛んに行われるようになりました。垂れ耳は優性遺伝子なので、垂れ耳同士を交配させるとほぼ100%の確率で垂れ耳の子が生まれます。それは同時に、軟骨異常の遺伝子が色濃く受け継がれるということになります。
骨の異常遺伝子は、垂れ耳だけでなく、全身の骨の形成不全を引き起こします。そのため、上手に歩けなかったり骨の異常が内臓疾患に繋がったり、深刻な病状を一生抱える猫が生まれる可能性が高くなってしまうのです。
そこで、先天的な異常を持つもの同士を交配させ、わざと軟骨の形成異常という病気を持つ猫を生み出すのは、倫理的に正しい事なのかという問題が提起されています。
立ち耳猫の処理
垂れ耳同士ではなく、一般的な交配をした場合、垂れ耳のスコティッシュフォールドが生まれる確率は約30%です。つまりは、70%は立ち耳のスコティッシュフォールドが生まれるということです。
それにも関わらず、ペットショップやブリーダーサイトで大体的に紹介されているスコティッシュフォールドは垂れ耳の子猫ばかりで、立ち耳の子はほぼ見かけません。そのため、「見かけない立ち耳の猫はどこに行ったのか」という疑問が残ります。
別の点として、購入する側の人が立ち耳の猫を冷遇することも珍しくありません。例えば「購入した時点では垂れ耳だったのに、成長とともに立ち耳になってしまったので要らない」とわざわざ猫を返しに来る人も残念ながらいます。
これらの現状を考えると「垂れ耳がいい」という無邪気な考えが、数え切れないほどのスコティッシュフォールドを傷つけていることがよくわかります。この問題から私たちは目を背けるべきではありません。
このような現状を踏まえ、スコティッシュフォールドの繁殖を禁止する動きが世界的に見られたり、実際に登録を禁止している国もあります。
猫にしても犬にしても、生物を飼う時は単なる見た目の可愛さだけで選ぶべきではありません。