日本精工(NSK)は、東京大学大学院 新領域創成科学研究科の藤本博志准教授らの研究グループ、ブリヂストン、ローム、東洋電機製造と共同で、道路からインホイールモータ(IWM)に直接、走行中給電できる「第3世代 走行中ワイヤレス給電インホイールモータ」を開発し、実車での走行実験に成功した。
二酸化炭素(CO2)の排出量を減らす「低炭素社会」の実現は地球規模の課題となっており、自動車においても排出量削減が強く求められている。こうした事情から、世界中の自動車メーカが車両の電動化の開発・普及を推進している。とくに、内燃機関を搭載せず走行中にCO2を排出しない電気自動車(EV: Electric Vehicle)は、有力な解決手段であると言える。
一方で、EVは充電に伴う利便性の課題や、大量のバッテリを生産するために必要な資源量に対する懸念などが指摘されている。EVの持続可能な普及のためには、少ないバッテリ搭載量で効率的に走ることができるEVが求められている。これを実現する一つの手段として、走行中のEVにエネルギーを送る「走行中給電」が注目されており、実現に向けて世界的に多くの研究が行われている。
NSKは、以前より東大グループらと共同で研究開発を行っており、2017年にはインホイールモータへの直接走行中給電を実現した「第2世代 走行中ワイヤレス給電IWM」を発表した*1。また、東大グループが展開する科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業の研究プロジェクト「電気自動車への走行中直接給電が拓く未来社会」に参画し、産学共同で研究を進めている*2。
今回、当研究グループが開発した「第3世代 走行中ワイヤレス給電IWM」は、実用化に向けて【走行中給電性能】【モータ性能】【車両への搭載性】を大幅に改善した。
開発品の特長
1. すべてをタイヤのなかに
当研究グループは、EVの駆動装置であるモータとインバータに加え、走行中ワイヤレス給電の受電回路のすべてをホイール内の空間に収納するIWMユニットを開発した。駆動モータの性能面では、2017年発表の「第2世代」では軽自動車クラス(1輪あたり12kW)であったのに対し、今回発表の「第3世代」では乗用車クラス(1輪あたり25kW)を実現した。
NSKはこれまでのインホイールモータ開発から得られた知見を活かし、ユニットの機械構造設計と製作を担当している。
2. 充電からの解放
「第2世代」では走行中ワイヤレス給電の能力が1輪あたり10kW程度であったのに対し、今回発表の「第3世代」では20kWへの性能向上を実現した。この性能をもつ走行中ワイヤレス給電システムを、信号機手前の限られた路面にのみ設置したスマートシティが実現された場合、電気自動車のユーザは充電の心配をすることなく移動できるようになり、電気自動車の利便性が飛躍的に高まる。
NSKは、公道での走行データの分析やシミュレーションによって、走行中給電インフラの実装に向けた検討を実施している。
3. 産学オープンイノベーション
当プロジェクトは、東京大学を中心に多くの企業との産学連携により実施されている。当研究グループが提案する走行中ワイヤレス給電システムの実用化をオープンイノベーションによって加速させるため、当プロジェクトに関わる基本特許をオープン化することに合意した。
今後、当プロジェクトでは、今回開発した「第3世代 走行中ワイヤレス給電IWM」の実験と評価を進めつつ、新しいアイデアを盛り込んだ次世代機の提案と試作を意欲的に進めていく。当プロジェクトが提案する「走行中ワイヤレス給電IWM」の実用化に向けて、現在の参画メンバーに留まらず他の組織・企業が持つ様々な領域の知見を広く取り入れながら、2025年に実証実験フェーズへの移行を目指す。