starthome-logo 無料ゲーム
starthome-logo

シトロエンC3エアクロスSUV試乗記「最新のシトロエンには、古典的なシトロエンの喜びがあった」


この5月にC5エアクロスSUVを日本に導入させたばかりのシトロエンが、弟分であるC3エアクロスSUVを立て続けに投入してきた。価格は259〜297万円と、兄貴分と比べてかなりリーズナブルだが、PHCのような飛び道具も持たない。だがこのコンパクトSUVは、とんでもなく「シトロエン」だったのだ。




TEXT&PHOTO●小泉建治(KOIZUMI Kenji)

兄貴分のC5エアクロスSUV(右)と、今回の主役であるC3エアクロスSUV。2014年に登場したC4カクタスを源流とするシトロエンの新世代のブランドアイデンティティは、もはや完全に確立され、カスタマーに浸透したと言っていいだろう。

この極上シートのためだけにC3エアクロスを買ってもいい

 グループPSAの日本市場へのニューモデル攻勢が止まらない。今年に入ってからだけを見ても、プジョー508、プジョー508SW、DS3クロスバック、シトロエンC5エアクロスSUV、そして今回取り上げるC3エアクロスSUV(以下C3エアクロス)と、すでにブランニューモデルを5車種も投入している。かつてフランスメーカーがここまで積極的に日本市場に挑んできたことはないだろう。




 もちろんそれは勝算があってこそ。昨今のフランス市場ではコンパクトなクロスオーバーSUVがセールス面で存在感を増してきており、各ブランドが魅力的なモデルを多数ラインナップするようになってきた。




 それが日本のマーケットの嗜好とも合致し、一定の成果を挙げている。とりわけプジョーは2008、3008、そして5008がブランド全体のセールスの底上げに大きく貢献しており、同じグループのシトロエンやDSオートモビルがその流れに追随しようとするのは自然な話だろう。

 前置きはこれくらいにして、いよいよC3エアクロスと対面する。




 簡単に言えばコンパクトハッチバックのC3をそのままSUVにしたようなスタイルだが、先代C3エアクロスはもともと南米市場向けに仕立てられた派生モデルだったのに対し、新型は最初からグローバルモデルとして開発されただけあって、その完成度の高さは比べるまでもない。




 兄貴分のC5エアクロスと共通のアイデンティティをしっかり感じさせながらも、二台を並べて見ればデザインはかなり異なる。




 C5エアクロスの二段構えの灯火類がエレガントさを漂わせているのに対し、C3エアクロスはバンパー側のランプにかなりのボリュームが与えられており、スポーティさを強調している。

リヤサイドウインドウはポリカーボネート製で、このオレンジのストライプはプリントされたもの。
ここ数年のシトロエンのアイデンティティのひとつとなっている特徴的なフロントマスク。


 不思議なのは、近年のシトロエンの最も特徴的なパーツであり、C5エアクロスにも採用されているエアバンプが、なぜかC3エアクロスには採用されていないこと。




 樹脂という特性上、ハイエンドモデルよりもコンパクトモデルに相応しく、なによりアウトドア系のキャラクターを強調してくれそうなアイテムだけに、シトロエンのラインナップのなかでもC3エアクロスこそ最もエアバンプが似合いそうなモデルのような気がするのだが……。




 たまらずプジョー・シトロエン・ジャポン広報マネージャーに不採用の理由を問うと「はい、謎です(キッパリ)」との答え。突っ込んで聞けば、彼も筆者と同じ意見らしい。フランスメーカーらしい不可解さを久々に目の当たりにした気がして、清々しさを覚えた。




 ここでおことわりしておくが、筆者が学生時代にアルバイトしたお金で買った初めての愛車はシトロエンAXであり、現在も他ブランドながらフランス車を所有している。なるべく客観的な視点を持とうとはしているが、そんな個人的嗜好がレポート内容に影響を及ぼしている可能性は否定できない。

エクステリアと同様、角が落とされた楕円のような四角形のアクセントが随所に散見できるインパネ。

さまざまな路面状況に合わせてトラクションを最適化させる「グリップコントロール」。「SHINEパッケージ」に標準装備される。
クルーズコントロール&スピードリミッターの操作スイッチはステアリングコラムの左下側にマウントされている。


左側のAピラーとドアミラーの間には、しっかりと距離が取られ、死角を減らすように配慮されている。
当然ながら運転席側にも死角は少ない。左右の写真はいずれもドライバーの視点から撮影したものだ。


 そしていよいよコクピットに乗り込む。シートに腰を下ろした瞬間、思わずニヤリとしてしまった。




 クッションをたっぷりと使ったふんわり感……これぞシトロエンである。今回の試乗の2週間ほど前に乗ったC5エアクロスのシートもすばらしかったが、あちらはフルレザーだったこともあり、表面に一定の張りを感じさせるものだった。




 一方C3エアクロスはファブリックで、当たりがとても柔らかく、まるでシート表皮と自分の背中が融合してしまうような感覚だ。このシートのためだけにC3エアクロスを買ってもいい、とさえ思うほど。



 走り出すと、まずはアイシン・エィ・ダブリュ製6速ATのマナーの良さに感心させられる。小排気量車が苦手とする1速から2速へのシフトアップ時にもショックはなく、これだけでずいぶんと上質感が高まる。




 4年連続でインターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤーを受賞した直列3気筒1.2Lエンジンは必要十分……どころか、6速ATの巧みな制御も相まって、なかなか快活な走りを見せる。




 低負荷時の大人びた変速プログラムとは一転、フルスロットルを与えると、レッドゾーンの始まる5500rpmを越え、6000rpmまでキッチリと回ってからシフトアップされる。「小さなエンジンをブン回して……」とは、フランス車の運転の楽しみを表現する使い古された言葉だが、C3エアクロスでもまさにそんなドライビングが楽しめるのだ。

 一方、高速走行時の静粛性は当然ながら現代基準だ。80km/h巡航時はDレンジではトップギヤの6速に入らず、5速で2000rpmとなり、マニュアルモードで6速に入れると1600rpmとなる。100km/h巡航時は自動で6速にシフトアップされ、タコメーターの針は2000rpmを指す。つまりC3エアクロスにとって、一定の速度での巡航時は2000rpmがスイートスポットということだろう。

「路面の荒れ」すら快感になってしまう……

 だがなんといってもC3エアクロスの白眉は、コンベンショナルな金属ばねながら、どこかふんわりとしていて、しかし腰砕けにはならないシトロエンならではのサスペンションだろう。




 画期的なPHC(プログレッシブ・ハイドローリック・クッションズ)を備えるC5エアクロスを体験した後だと、C3エアクロスの乗り味はごく普通である。街中や高速道路において、C5エアクロスほどソフトでゆったりとした乗り心地を味わえるクルマはそうそうない。

広大な電動グラスルーフは、前側の半分が開閉可能。全面を覆う電動シェードも備わる。

ドアトリムにはシート表皮と同じファブリックが張られる。肘の当たる部分で、ほのかに気持ちがいい。
ダッシュボードにもシート表皮と同じファブリックが張られている。このセンスはさすがと言うほかない。


 しかし5分も走れば、C3エアクロスもクラスの水準と比べるとかなりふんわりとした乗り味であることに気づく。試乗した河口湖周辺は路面が荒れている部分も多い。しかしC3エアクロスの場合、サスペンション、ボディ、そしてシートを通して(あくまでイメージ)、少しずつ衝撃を濾過してくれる。結果的にドライバーには必要な手応えのみが伝わるから不快に感じることがないばかりか、むしろちょっとした路面の荒れが快感になってくるほど。




 それでいて、前述の快活なパワートレインを駆使してハイペースでコーナーに突っ込んでいっても、けっして腰砕けにはならない。ある程度のロールを許容しつつも、そこから不思議と踏ん張ってくれるのだ。




 これぞフランス車ならではの悦楽だ。




 クロスオーバーSUVという極めて現代的なスタイルを得たC3エアクロスだが、これほどまでに古典的なフランス車の味を楽しめるとは思わなかった。うれしい誤算とはこのことである。

リヤシートにはスライド機構が備わり、前方にスライドさせれば5名乗車でも520Lのスペースが得られる。
リヤシートは6:4の分割可倒式で、4名乗車+長尺物を収めたいときはこのようなレイアウトになる。


6:4の分割可倒式とはいえ、後席中央部のみをアームレストのように倒すこともできる。
リヤシートをすべて倒せば、1289Lもの広大なラゲッジスペースが生み出せる。


さらに! 助手席まで倒せば、2.4mものスペースを得ることもできる。
助手席はこのように前方に倒れる。レバーひとつで簡単に操作可能だ。


倒したリヤシートとラゲッジスペースはほぼフラット。フロアボードの下にも収納スペースがある。
ラゲッジスペースのフロアは二段式になっていて、このようにボードを下段にセットすることもできる。


 C3エアクロスは、その商品性から見ても、これまでフランス車にはとくに興味がなかった層を多く取り込める新世代のフランス車と言えるだろう。




 しかし長年フランス車に乗り続けた筆者に言わせれば、熱狂的なマニアにこそ味わっていただきたい一台なのである。

C3エアクロスSUV SHINEパッケージ


全長×全幅×全高:4160×1765×1630mm


ホイールベース:2605mm


車両重量:1310kg


エンジン形式:直列3気筒DOHCターボ


総排気量:1199cc


ボア×ストローク:75.0×90.5mm


圧縮比:10.5


最高出力:81kW(110ps)/5500rpm


最大トルク:205Nm/1750rpm


トランスミッション:6速AT


燃料タンク容量:45L


WLTCモード燃費:14.7km/L


駆動方式:FF


乗車定員:5名


ハンドル位置:右


サスペンション形式(前/後):マクファーソンストラット/トーションビーム


タイヤサイズ:215/50R17


車両価格:297万円
    Loading...
    アクセスランキング
    game_banner
    Starthome

    StartHomeカテゴリー

    Copyright 2024
    ©KINGSOFT JAPAN INC. ALL RIGHTS RESERVED.