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いすゞ・NAVi5は本当に失敗作だったのか(その1)世界初のバイ・ワイヤー技術搭載の意義と成果


今から35年前、いすゞ・アスカに搭載され登場を果たしたNAVi5。New Advanced Vehicle with Intelligentの頭文字をとって名付けられた同システムは、先例がなく、概念すら定まっていなかった自動制御に果敢に挑戦した意欲作だった。実現のためにはバイ・ワイヤー技術が不可欠。果たして開発陣はいかにしてNAVi5を仕立て上げたのか。

 フォルクスワーゲンのDSGを端緒に、DCT:デュアルクラッチトランスミッションは一気に世の注目を集め、伝達効率の良さと断続のないトルク感を長所として、欧米勢を中心に普及が進んでいる。それと並行し、主に低廉価車へAMT:オートメーテッドマニュアルトランスミッションの採用がある。AMTとはクラッチの断続とギヤ段選択を自動化したMTであり、つまりDCTはデュアルクラッチAMTとも言える機構である。




 AMTは通常のMTの動作を自動化したトランスミッションなので、クラッチは1組、ギヤセットも通常の平行軸構成の常時噛み合い式である。運転時にエンジン回転が上昇すれば高いギヤ段に架け替える必要が生じ、クラッチ断続の際にはどうしてもトルクが切れる瞬間がある。自身で断続を操作すれば気にならないこのトルク切れは、他者に任せると大きな違和感となってしまう。




 本稿のテーマであるNAVi5の開発と対策も、このトルク切れとの絶え間ない戦いであった。自動でクラッチを断続し変速するためにはシフト・バイ・ワイヤー:SBWは当然不可欠。当時はハードウェアの進化が思想に追いついていなかったため、志半ばでNAVi5は退場を余儀なくされたとされている。あと10年登場が遅ければ──とはよく同システムを語るときに掲げられる前提である。




 しかし、NAVi5の意義はシフト・バイ・ワイヤーだけではなかった。燃料供給システムも、つまりスロットル・バイ・ワイヤー:TBWも成し遂げていたのである。世界で初めて、と言っても差し支えないほどの早期に、SBWとTBWを携え、しかも実用化を果たしたNAVi5とは、どのようなシステムだったのだろうか。




「人間の感性に近い透明の空間ロボットを運転席にすわらせる。通常ドライバーが行っている面倒なクラッチ操作やギヤチェンジ操作は感性ロボットが代行する。運転席の本当のドライバーはアクセルとブレーキを踏んでその意思をロボットに伝えるだけで良い」





 これが、いすゞ・NAVi5の開発チームの立ち上げたコンセプトである。大部分がすでに現実となっている2019年の今ですら荒唐無稽とも思えるこの声明が、当時の人々に与えた衝撃は推して知るべし。果たして、なぜこのようなコンセプトを彼らは打ち立てたのだろうか。



NAVi5(EDS)の制御概念図。実際の機器の動力源はモーター/油圧と異なるものの、NAVi5はこの図に示すようにシフト・バイ・ワイヤーのみならずスロットル・バイ・ワイヤーもシステム成立のためには必須の技術であった。当時の燃料供給システムはキャブレター。噴く燃料の量ではなく、燃料を吸い上げるための空気通路(スロットル)の絞り量の自動調節という離れ業である。

 当時のいすゞ車はFR車とFF車が混在している状況で、特に後者は小排気量・小型車ということもありほぼ全数がMT仕様であった。FF用ATとして、当時の提携先であるGMから3速ATの供給は受けていたものの、このターボハイドラマチック125と称するユニットはギヤ比や変速点の設定などが日本の道路事情に合わず、当時のいすゞのFF車には適合が難しかった。GMに日本仕様の設定を依頼したものの、ラインに連れていかれ「午前中の1時間に流れる量より少ない供給数にどうやって対応しろと?」と返されるのみだったという。




 そして当時のATの効率は、お世辞にもいいものではなかった。スターティングデバイスであるトルクコンバーターはトルク増幅と滑らかな伝達が何よりの美点だが、いっぽうで流体による継手構造のためどうしても伝達損失が大きい。昨今のトルクコンバーターはロックアップクラッチによる機械締結でその損失を最小限に抑えているが、当時にはそのような試みはまだ主流ではなかった。もちろん、GMからの供給品ということで非常に高価という側面もあった。しかし、市場からの自動変速機へのニーズは高く期待も大きい。




 NAVi5は、このような閉塞状況を打破したいという思いから生まれたトランスミッションだったのである。


(続く)

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