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スズキ・ジムニー×ジムニーシエラ×日産ジューク×ジープ・レネゲード〈ライバル車比較インプレッション〉


その外観こそ、同じようなカテゴリーに属する類似のフォルムに見えるかもしれないがジムニー/ジムニーシエラ(SUZUKI JIMNY)とほかのモデルは走行性能やユーティリティに関して、実に大きな違いがある。ラダーフレームとモノコック、エンジンレイアウトの違いが生む個性を明らかにしていこう。




REPORT●佐野弘宗(SANO Hiromune)


PHOTO●佐藤宏治(SATO Hiroharu)/平野 陽(HIRANO Akio)/中野幸次(NAKANO Koji)/宮門秀行(MIYAKADO Hideyuki)

ライバル不在とも言える孤高の存在であるジムニー

 世界中を見渡しても、新型ジムニー/ジムニーシエラ(以下、シエラ)と直接競合するクルマは、今はちょっと思い当たらない。事実、今回の商品企画や開発作業で、その性能や機能、商品力を比較検証した他社製品は「一台もありませんでした」と、開発陣も断言している。




 ただ、「同じプロのための道具という意味で、参考に観察・試乗したクルマ」と唯一車名が挙がったのがトヨタ・ランドクルーザー70だった。なるほど、ジムニーとランクル70には技術的共通点も多いし、ともに忠実な支持層を抱える世界屈指のワークホースである。しかし、両車のボディサイズや価格を考えれば、いわゆる競合車とは言い難い。




 もっとも、50年近いジムニー史上ではライバルもいくつか存在した。記憶に新しいのは、1994年から2013年まで販売された三菱パジェロミニ/パジェロジュニア/パジェロイオ、それと同時期のダイハツ・テリオスキッド/テリオス、そしてテリオスの後継たるビーゴ……だが、それらも結局はすべて姿を消し、その後の新規参入もない。




 ジムニー/シエラには先代モデル最末期でもグローバルで年間4万台を売り上げる地盤で支えられているが、かといって今のSUVブームを機にそれ以上に拡大するといった兆候も見られない。昨今のSUVブームを支えているのは、あくまで「大径タイヤでちょっと背高の乗用車」といった雰囲気モノであって、ジムニーのような本物のオフローダーではないのが現実である。軽SUVでも実際の台数がさばけるのは、同じスズキのハスラーである。




 つまり、ジムニー/シエラは軽自動車(以下、軽)界でも国内外SUV界でも、もはや孤高の存在なのだ。その支持基盤は良くも悪くも、発売が古い新しいすら超越して安定しきっている。そこは「今後も継続していくべき堅固な地盤」であるものの、同時に「新しいバリエーションをどんどん増やしたり、他社が積極的に参入できるほど大きくない」とは、今回の開発陣の説明である。




 新型シエラ(海外でのジムニー)のエンジンは選択肢がいくつかあったはずだが、実際は最新の1.5ℓ自然吸気エンジンが選ばれた。発売前のスクープ記事では1.0ℓ3気筒直噴ターボとも囁かれて、近年のダウンサイジングブームや日本の税制を考えれば、1.0ℓターボという選択はとても説得力があるように思えた。しかし、実際は違った。


 これまたスズキの開発陣によると、「先進国市場だけならそれも有力な選択肢でしたが、ジムニーはアフリカや中南米、東南アジアでも普通に使われますので、グローバルでの燃料事情やサービス体制を考えると、現時点では直噴ターボに踏み切れる状況ではありませんでした。それも含めてトータルで考えると現時点では1.5ℓが最良」とのことだ。同時に、ジムニー/シエラの市場が複数のエンジンを取り揃えるのは得策とはいえない程度の規模でしかないのは、前記のとおりである。




 ……というわけで、孤高のジムニー/シエラに対して、今回あえて連れ出したのが日産ジュークの1.5ℓ車と、ジープ・レネゲードの「トレイルホーク」だ。ただ、繰り返しになるが、どちらにしてもジムニーもしくはシエラと一般的な意味で競合車と言い切れるクルマではない。




 まずは日産ジューク。今、日本で正規入手可能な非スズキ車で、軽を除いた最小SUVが実はジュークである。日本で手に入る(白ナンバー登録車の)現行SUVで、ジュークより小さいクルマは3台あるが、そのすべてがスズキなのだ。最小は今も昔も軽の全幅/トレッドを拡大しただけのシエラであり、そこにイグニスとクロスビーが続く。




 つまり、これらスモールスリーに続いて小さな現役SUVがジュークになる。そうはいってもジュークの全長は3番目に小さいクロスビーより約30㎝も長く、全幅は堂々たる3ナンバーサイズである。シエラを含むスズキのスモールスリーは「5ナンバーSUV」という意味でも、今やとても貴重な3台というわけだ。




 もう1台のレネゲードは、ジムニーを含めた世界のオフロード四輪駆動車すべての元ネタにして、「ジムニー=JIMNY」という車名の語源ともいえそうな「JEEP=ジープ」の末っ子である。ジムニー/シエラと並べると圧倒的に立派な体躯だが、それでも輸入SUVでは屈指に小さい部類に入る1台である。




 オフローダーの元祖を自負するジープにおいて、ジムニーに比肩する「ホンモノ」枠を担うのはレネゲードの兄貴分たるラングラーだろう。それと比較すると、横置きFFレイアウトのモノコックボディに四輪ストラットサスペンションを持つレネゲードは、形式的にはいまどき乗用SUVの典型にも見える。ただ、実際の格は最初からSUVを前提とした堅牢設計の「スモールワイド4×4アーキテクチャー」であり、しかも今回の「トレイルホーク」はジープの名に懸けて悪路性能を追求した特別グレードである。トレイルホークの最低地上高はノーマルFFモデルからさらに30㎜増しの200㎜で、ジムニー/シエラとも大差なし。さすがは名門ジープの作だけに、そこいらのカジュアル系SUVとは一線を画す仕立てである。

クロスオーバーSUVとは一線を画すその開発姿勢

大部分の乗用車が独立懸架式サスペンションであるのに対し、ジムニー/ジムニーシエラは古典的とも言えるリジッドアクスル式サスペンションを新型でも踏襲。凹凸路で優れた接地性を誇り、堅牢な構造で過酷な使用環境でも信頼できる耐久性を確保している。

 先代のジムニー/シエラの20年間で、この種のクルマは日本でも「SUV」と呼ばれるようになった。重視されるのは舗装路での快適性や機動性に置き換わり、この種のクルマに無縁だったメーカーもほぼ例外なくSUVを手掛けるようになった。




 そんな時代に刷新された新型ジムニー/シエラだが、その開発目標や商品力アピールに「高級感」や「舗装路での洗練」といったいまどきのお約束的な文言はあまり見当たらない。今回も目指されているのはあくまで現代に必要な安全性や環境性能を満たすことだ。それ以外の本質では、ある意味「先祖返り」した部分すら少なくないのは、ファンや好事家にとって、とても痛快である。




 ただ、そこに投入される技術はあくまで現代の価値基準で構築されているわけで、結果的・必然的に新しく洗練された部分は少なくない。例えば、内外装の仕上がりは今の軽としては平均的だが、先代と比較すると明らかに質感が高く、各部の人間工学も進化している。そして、エンジンも0.66ℓターボ、1.5ℓ自然吸気ともども、従来よりも圧倒的に滑らかで低燃費となり、走行中も明らかに静かになった。




 捻り剛性を大幅向上させたラダーフレームや「横方向に硬く、縦方向に柔らかい」という新開発ボディマウントゴム、キックバック低減に効果的なステアリングダンパーといったシャシー関連の新機軸にしても、その最大の効能が「悪路での接地性や走破性向上」と主張されるあたりはジムニー/シエラならではだ。しかし、技術に詳しい読者のみなさんならお気づきのように、これらはすべて舗装路や高速域での操縦安定性や快適性にも確実に効くものだ。事実、今回のオンロードコースでも、前記の静粛性と同時に高速での「座り」は明らかに改善しており、ステアリングの手応えは清涼になった。




 しかし、ジムニーはジムニーである。先代と改めて乗り較べても、新型がいきなり「乗り心地は2階級アップ!」と驚愕させたり、あるいは「まるでスイフトスポーツのごとき旋回性能」を披露することは……まったくなかった。ラダーフレーム+前後リジッドの味わいは伝統的オフローダーのそれであり、コーナーで走行軌跡が外にはらみ始める臨界点が、ジュークやレネゲードより目に見えて低いことも事実だ。




 新型ジムニー/シエラに搭載されるエンジンの単体性能は2種ともはっきりと上がっている。ただ、実際の動力性能では軽のジムニーでは増加した車重と相殺されて新旧でほぼ同等といったところか。一方の新型シエラの走りは先代より明確にパンチが増して、誰が乗っても軽のジムニーより余裕があると感じられるレベルになった。さらに「5速MTなら、欧州で150㎞/h以上の巡航も問題ありません」とチーフエンジニアも太鼓判を押すものの、今回のような周囲に他車がおらず、しかも先を急ぐ目的地もなく走っていると、80〜90㎞/hあたりで静粛性や振動、乗り心地/操縦性がバランスしていて、いつしかそこに自然と落ち着く。これはジムニーとシエラで大差なく、また先代ジムニーもほぼ同じ。このジムニーならではの快適巡航速度も、もはや伝統の域か?




 ……と、ちょっと冷めた書き方になってしまったが、竜洋の砂地コースでのジムニー/シエラの超絶な走破性を見せつけられれば、舗装路におけるいくつかの弱点すら逆に「積極的にこうあるべし」と思えてくるから、好事家はチョロいものだ。




 だから、新型ジムニー/シエラを今回連れ出した2台とダイレクトに比較して、表面的な優劣をつけたところで意味はない。冒頭にもあるようにジムニー/シエラの厳密な意味での競合車は世界に存在しない。




 特にジュークなどは、いまどきの見た目優先SUVの典型といってよく、ある意味ではジムニー/シエラとは正反対の存在である。それでも、今や必須の先進安全装備が標準となる新型シエラの上級「JC」グレードと同じく先進安全装備を備えたジュークの1.5ℓは、価格や排気量でドンピシャの関係になるのが面白い。ジューク1.5ℓには2WDしかないが、ジュークを候補にする時点で、そもそも「街乗りSUV」のクルマ選びなのだから、2WDと4WDは乗り方次第。そこに優劣はない。




 白ナンバーのシエラでも室内空間で軽と異なるところはないのがジムニーの特徴だが、2ドア+4名乗り(ジュークは4ドア+5名)になること以外、各座席の居心地や使い勝手に大きな差がないのは興味深い。フル乗車での荷室容量だけはボディが大きいジュークが優勢だが、1〜2名の普段使いを想定するなら、シエラでも後席を倒したままにしておけばジュークに引けを取らない。逆にいうと、ジュークは室内空間を犠牲にしてまで斬新なスポーツカールックを追求しているのだが、特徴的なサイドマーカーによって、車両感覚でもジムニー/シエラに大きく劣らないのは評価すべきだろう。




 ジュークの走りがジムニー/シエラと比較できないほど乗用車的なのは当然だが、それ以上に小気味いいウォームハッチの風情である。ジムニー/シエラと比較せずとも、その正確な操縦性やしっとりと落ち着いたフットワーク、剛性感は印象的。同じ1.5ℓエンジンで車重もシエラより重いのに、実際の動力性能がシエラより活発なのも好印象だ。




 このように既に8年選手のジュークが今も極端に古びていないのは、斬新なデザインに加えて、これが日産がスモールカー専用Vプラットフォームを開発する以前の作品だからでもあろう。ジュークの土台となっているBプラットフォームは、日産の最新ヒエラルキーでは、良くも悪くも少し贅沢な骨格ともいえる。

唯一無二の価値を手頃な価格で得られるという美点

副変速機で4WDローをセレクトすれば、より大きな駆動力が四輪に配分され、ぬかるんだ路面や滑りやすい急勾配でも力強い走りを実現。200㎜を超える最低地上高に加えて、十分に確保された3アングルが不整地での障害物との接触を防いでくれる。

 ジムニー/シエラの心意気にシンパシーを感じつつも、「自分の使い方では実用性や舗装性能がちょっと物足りない」と感じる向きには、ジープ・レネゲード「トレイルホーク」はまさに打ってつけかもしれない。




 基本構造はいかにも現代風SUVのレネゲードだが、各部のサイズは抑制が効いており、乗員を小高く座らせてボディの四隅がつかみやすいパッケージレイアウトには、さすがオフロード名門ブランドの経験が生きる。それと同時に、車高をさらに上げた今回のトレイルホークでも、高速からワインディングまでストレスフリーに正確な操縦安定性は、さすが現代SUVの美点である。




 トレイルホーク専用となる2.4ℓエンジンも余裕シャクシャク。対するジムニー/シエラの動力性能は、周囲の流れに合わせても思い切りスロットルを踏まざるをえないケースもあり、日常運転の気づかいもレネゲードのほうが少なそうだ。




 その一方で、ストローク豊かなトレイルホークの走りのリズム感には、ジムニー/シエラに似た本格派のオーラがわずかに匂う。今回は取材車の都合でレネゲードを竜洋に持ち込むことはかなわず、オフロードでの「日米最小SUV対決!」は実現せず。しかし、そのトレイルホークの地上高、そしてアプローチ/ディパーチャー/ランプオーバーの各アングルや4WDの内容を見る限り、少なくとも今回の砂地コースでは、新型ジムニー/シエラと好勝負になっていた可能性は高い。




 トレイルホークの4WDは副変速機のない乗用車的オンデマンド型だが、レシオを極端に低めた1速ギヤを活用したアクティブロー制御や、ダイヤルで路面を選ぶだけで積極的にロックするセレクテレイン機能、ブレーキLSDなどを駆使して、私のようなアマチュアが挑戦できる程度の悪路での不足はまるでない。




 輸入車である上に装備もジムニー/シエラより充実したレネゲード「トレイルホーク」の価格はなるほどシエラより150万円以上も高い。しかし、レネゲードはツルシで先進安全機能を標準装備する上に、先日の仕様変更で8.4インチナビも標準化されたので、実質的な価格差はそこまでではない。私も個人的に「セカンドカーとして割り切れるシエラだけど、ファーストカーならレネゲード」と迷うところで、新型ジムニー/シエラとレネゲード「トレイルホーク」は、事前に想像していた以上の好敵手同士だと思った。




 今回はあえて、価格的にシエラと真っ向競合するジュークと、スピリット的な意味で「ジムニーの兄貴分」といえそうなレネゲード「トレイルホーク」を連れ出して、個人的にはそれぞれに「こっちの選択もアリだな」と楽しく迷うことができたが、それもあくまで私個人の好みによるところが大きい。新型ジムニー/シエラを実際に購入する好事家であれば「一点突破の指名買い」が大半だと想像されるし、仮に比較するにしても、並ぶ顔ぶれは人それぞれでまるで異なることだろう。




 ジムニー/シエラは「軽である」だの些末な装備内容などととやかく言わなければ、価格は絶対的に安いことも伝統的な魅力である。世界に類を見ない孤高のカリスマがこれほど手頃に入手できることに、日本の好事家は素直に感謝すべきだと思う。

SUZUKI JIMNNY SIERRA JC(4AT)

海外のマーケットでは販売の中心を占めている登録車のシエラだが、ボディの基本構造やプラットフォ ームは軽自動車のジムニーと共通。そのため乗車定員も4名となる。ノンターボのエンジンは排気量を従来の1.3ℓから1.5ℓに拡大したことで、高速走行時のゆとりは大幅に増した。

直列4気筒DOHC/1460㏄ 最高出力:102㎰/6000rpm 最大トルク:13.3㎏m/4000rpm WLTCモード燃費:13.6㎞/ℓ 車両本体価格:201万9600円

SUZUKI JIMNY XG(5MT)

プロユースを重視した3ドアのボディ、縦置きエンジンならではの長いボンネットにより、一般的な横置きエンジンの軽自動車とは大きく異なるフォルムを見せる。エンジンは全グレードがターボで自然吸気の設定はなく、レバーで操作する副変速機がAT、MTどちらにも備わる。

直列3気筒DOHCターボ/658㏄ 最高出力:64㎰/6000rpm 最大トルク:9.8㎏m/3500rpm WLTCモード燃費:16.2㎞/ℓ 車両本体価格:145万8000円

JEEP RENEGADE TRAILHAWK

フィアットグループと共同開発され、外観デザインは大きく異なるものの500Xとは兄弟車の関係にあるコンパクトSUV。FFモデルとなる他のグレードに対して、4WDの「トレイルホーク」は車高もアップしスキッドプレートも標準装備するなど、悪路での走行性能を高めた仕様だ。

直列4気筒SOHC/2359㏄ 最高出力:175㎰/6400rpm 最大トルク:23.5㎏m/3900rpm JC08モード燃費:10.4㎞/ℓ 車両本体価格:365万円

NISSAN JUKE 15RX V Selection personalization

コンセプトカーのような斬新なエ クステリアを引っ下げ、2010年にデビューした個性派。インテリ アもオートバイのタンクをモチー フとしたセンターコンソールなど見どころ満載だ。1.5ℓエンジン搭載グレードはFFのみの設定で、手頃な価格設定もありロングセラーとなっている。

直列4気筒DOHC/1498㏄ 最高出力:114㎰/6000rpm 最大トルク:15.3㎏m/4000rpm JC08モード燃費:18.0㎞/ℓ 車両本体価格:211万2480円
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