ミアヘルサHD Research Memo(10):医薬・介護・保育の機能連携による「地域包括ケア」の展開を進める(2)
(2) 成長戦略
ミアヘルサホールディングス<7129>は2025年3月期から始まる新中期経営計画を今後策定する予定にしているが、基本方針や成長戦略については大きく変わらない見通しだ。基本方針については、「市場機会を活かし、高齢化社会に必要な街づくりに向けて、保育・医薬・介護事業の機能連携により『生涯を支える地域包括ケア』を展開する」ことを掲げ、これら社会的ニーズの高い3つの領域を手掛けている強みを生かして事業を拡大する方針だ。
a) 医薬事業
医薬事業では、超高齢化社会の進展とともに在宅医療の市場拡大が見込まれるなかで、病院から地元クリニックに逆紹介される患者を囲い込むため、医療モール型の開発に注力する。また、介護部門との連携によるHIT(在宅輸液療法)等の在宅調剤の対応強化など地域のかかりつけ薬局としての機能強化や、オンライン服薬指導、即日配送等患者の利便性向上につながるサービスの向上にも取り組む方針だ。
また、収益力の強化を図るため、調剤技術料が門前薬局より相対的に高い医療モール型薬局の比率を高めていくほか、仕入原価率の改善に向け、医薬品卸3社に対して後発医薬品や新薬、疾患別などカテゴリー別に再整理して、仕入単価の引き下げに向けた価格交渉を進める。2021年以降、後発医薬品の供給不足が慢性化するなかで原価率の改善が思うように進んでいないが、こうした問題が払しょくされれば改善余地がでてくるものと思われる。
b) 介護事業
介護事業では、サービス付き高齢者向け住宅を基点に通所介護事業所なども併設し、複数のサービスをドミナント戦略で推進することで成長を目指す。特に、今後の需要拡大が見込まれるホスピスを注力事業と位置づけ、取り組みを強化していきたい考えだ。ホスピスの利用者は一般の高齢者と比べても医薬事業とのシナジーが大きくなるためだ。具体的には、ホスピス施設では看護ステーションが併設されるほか薬剤料も含めると、顧客1人当たりの売上高がグループホームなどと比べて約1.5倍の水準になると試算している。2023年8月に開設する3拠点目が順調に立ち上がれば、2025年3月期以降も継続して拠点開設を進めていくものと予想される。
重点施策としては、介護・看護サービスの質の向上、継続的な営業強化と開設準備体制の構築、人事施策の3点を挙げている。介護・看護サービスの質の向上に関しては、事業所ごとにバラつきのあるサービス品質を均一化するため、サービスセグメントごとに運営スキームを標準化していくほか、介護・看護技術や知識の向上に取り組む。また、本部機能を強化して各事業所の運営状況を定期的にチェックする体制を構築し、法令遵守と根拠ある個別ケアの実践によるサービスの質の向上を図る。
営業施策としては介護施設の安定稼働に向けた入居者募集体制の強化に取り組む。入居者の退去日から新規入居者が決定するまでの期間を短縮することで稼働率の維持向上を図る。また、人事施策としては採用力の強化を図るべく福祉系介護育成校とのネットワークを強化し、新卒採用者数の増加を図る。また、管理職(エリア長、管理者、副主任)の育成強化のための研修を充実させる。
高齢化社会の進展により65歳以上の人口は2060年には38.1%まで上昇することが予測されている。なかでも、介護サービスの利用率が高まる75歳以上の人口については2020年の1,872万人から2055年には2,446万人と約1.3倍に増加し、4人に1人が75歳以上という超高齢化社会に突入することになる。このため、今後も介護サービスの市場は安定的に拡大していくことが予想され、特に人口の多い首都圏で入居系から通所・訪問系まで幅広い領域のサービスを展開する同社にとっては、事業を拡大する好機と言える。なお、2024年4月に予定されている介護報酬制度の改定では、介護事業者の経営環境が厳しくなっている現状も踏まえると、業績面でマイナスとなるような改定になる可能性は極めて低いと弊社では見ている。
c) 保育事業
保育事業は、主力サービスエリアとしている東京都においてここ数年で認可保育園の整備が進んだことや、少子化の進展で就学前児童数も2019年をピークに減少に転じていることもあり待機児童数が減少、認可保育園の定員充足率も2018年の95.5%から2022年は90.5%に低下している。こうした状況から今後は認可保育園の新設需要が減少すると見ており、保育事業についてはビジネスモデルを転換する時期にきていると同社では考えている。
具体的には、認可保育園の新設による事業拡大戦略から、公立保育園の民間委託及び民営化の受託※、並びに学童クラブの業務受託事業を強化することで成長を目指す。公立保育園の運営コストは民間よりも約3倍高いと言われており、自治体側が財政面及び人材面から、今後は民間委託及び民営化の受託にシフトしていくものと予想され、こうした需要を取り込んでいく。
※公立保育園の民間委託とは、土地・建物・保育園名すべてが現状と変わらず、運営のみを委託する形態を言う。民営化の受託とは、保育園の名称は変えずに、建物を建て替え、土地も自治体から賃借して運営する形態を言う。
学童クラブとは放課後に児童(小学1~6年生)を預かる施設のことで、共働き世帯の増加により需要が年々増加している。東京都では2022年に1,930施設で127千人の児童が利用しており、待機児童数も3千人を超えるなど、体制がまだ十分に整備されていない地域も残っている。全体の約9割を占める公設の学童クラブの場合、月額利用料は4,000~5,000円、預かり時間は17~19時頃までとなっている。運営はNPO法人や民間企業等に委託しており、3~5年ごとに入札で業務委託先を決定する。政府の新たな子育て支援策において、予算がどのように配分されるかにもよるが、学童クラブに対する需要が旺盛なことから、同分野も注力事業として強化する考えだ。ライフサポートでは2023年3月末時点で東京都内に11施設を運営しており(うち、1施設は自社運営施設)、今後も入札情報の早期収集と提案力の強化により、公設業務受託施設数の拡大を目指す。
保育園の利益率改善施策としては、医薬事業との連携によるお薬相談等のサービス提供を推進※するほか、介護相談等にも対応することで介護事業とのシナジーも創出する考えだ。また、全国の専門学校等採用ルートとの信頼関係をさらに強化し、採用コストの抑制にも取り組む。
※現在はセミナーを開催している程度だが、今後はスマートフォンアプリを活用したサービス提供を検討している。
(3) 財務・資本施策について
財務戦略については、収益性・効率性を重視したアセットライトな投資を継続し、創出したフリーキャッシュ・フローを有利子負債の削減と配当金に充当する方針だ。また、M&Aについては条件に適う案件があれば医薬、介護、保育事業ともに引き続き検討を進める。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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