TKP Research Memo(4):市場創造型の事業展開により高い成長性を実現
1. 空間シェアリングによる市場創造型の事業展開
ティーケーピー<3479>が主力としてきた「貸会議室ビジネス」は、不動産オーナーから遊休資産・低収益物件・不採算資産を割安で借り上げ、会議室や宴会場などに「空間」を「再生」し、シェアリングエコノミーとして付加価値を提供するというものである。不動産オーナーから大口取引で不動産を賃貸などで割安に仕入れ、物件を貸会議室などに利用できるように照明・カーペット・壁紙などリノベーションを行うとともに、ケータリングや宿泊、各種オプションなど周辺サービスを付加する。顧客は主に会議室利用を求める法人であり、顧客側にとっては自社で会議室を保有するのに比べ、費用の削減、業務の集約化、多目的の利用が可能になるなどのメリットが多い。したがって、同社の事業は、大口取引を望む供給側と小口販売・シェアリングを望む需要側をうまくつないでいると言える。さらには、スペースにコンテンツサービス(運営オペレーションやシステム、研修パッケージ等)を付与したソリューション提供により、その時々の需要に機動的に対応していくことで、スペース当たりの収益性を向上させる方向性も描いている。
さらに「持たざる経営」にも特徴がある。仕入れは賃貸契約を主軸としているうえ、変動家賃(売上・利益歩合等)が約47%を占めるため、不動産価格や景気変動による業績への影響は比較的小さく、通常の不動産会社が有するリスクとは異なっていることに注目したい(ただ、安定的に高稼働率が期待できるホテル事業については、あえて一部を自社所有することにより高収益性を確保するとともに、いつでも流動化できるような準備をしている)。
2. 収益モデルの特徴
「貸会議室ビジネス」は、時間貸しによるフロー型の収益モデルである。TKP貸会議室の利用用途は多種多様であり、基本的な会議室の稼働に加え、料飲や企画、備品レンタル等どれだけの周辺サービスを付加できるかが成長のポイントとなるため、同事業は稼働率ではなく「坪当たり売上高」をKPI(重要業績評価指標)としている。コロナ禍の下で料飲が苦戦する一方、ウェビナー案件や試験会場利用による高単価案件のほか、貸会議室を活用した新型コロナワクチン接種の実施など、その時々の需要に機動的に対応することにより、「坪当たり売上高」の確保を図ってきた。今後は、料飲の需要回復に加え、ソフト領域の拡充により、「坪当たり売上高」の拡大を目指す方針である。オープンより平均3ヶ月で損益分岐点に到達し、12ヶ月で巡航速度に乗ることから、比較的早期に収益化が可能な収益モデルと言える。
3. 拠点ネットワーク
TKPは国内の主要都市を中心に237拠点・1,988室(約14万坪)の法人向け貸会議室を展開している(2023年2月末時点)。利用目的や規模、予算などに合わせた6つのグレードに分かれており、単価の高いものから、エスクリ<2196>との共同ブランドである「CIRQ(シルク)」24施設・51室※1、ガーデンシティPREMIUM(GCP)25施設・295室、ガーデンシティ(GC)36施設・381室、カンファレンスセンター(CC)64施設・764室、ビジネスセンター(BC)28施設・207室、スター貸会議室28施設・53室で構成される。また、「レクトーレ」及び「石のや」等の宿泊施設内には32施設・237室※2を有している。
※1 2020年7月に全国で結婚施設を運営するエスクリとの資本業務提携により開始した。平日をメインにエスクリの遊休施設を共同ブランド「CIRQ」に転換し、顧客企業のパーティや懇親会の会場として活用するものである。
※2 そのうち、直営施設は21施設となっている。
4. 周辺事業
ほかの貸会議室ビジネスを行っている企業との差別化要因の1つに周辺サービスの展開が挙げられる。同社は、料飲、オプション、宿泊などの提供を通じて、顧客の幅広いニーズに応えている。料飲については、ケータリング、弁当、カフェ、レストランからなり、特にケータリングや弁当は貸会議室での懇親会など食事を伴う用途展開に欠かせない周辺サービスとなってきた。なお、コロナ禍の影響により苦戦した料飲部門(ケータリング)については一旦縮小(外注化)したが、再度内製化を検討している。
また、同社は幅広いオプションも提供している。一例を挙げると、同時通訳システム・テレビ会議システムの提供、研修コーディネート、映像・音響・照明機材の設置・運用、オフィス家具や機材レンタルのほか、コロナ対策用備品などがあり、顧客の利便性を高める内容となっている。ここ数年は、コロナ禍の下、オンラインイベント需要が増加したことで、ウェビナー案件が伸びてきたようだ。
さらには、顧客からの要望により宿泊研修施設(直営21施設)も提供しており、研修旅行や社員旅行の際などに使用されている。直営施設として、リゾート型セミナーホテル「レクトーレ」(7施設)、ハイクラスなリゾート型セミナー旅館「石のや」(伊豆長岡・熱海の2施設)、都市型リゾート宿泊施設「ベイサイドホテル アジュール竹芝」のほか、新たに開始した自社ブランドの「TKPサンライフホテル」※を運営している。また、フランチャイズ運営施設としては、会議室併設型のハイブリッドホテルとして「アパホテル」(10施設)を展開している(2023年2月末時点)。
※2022年12月1日にオープンした。博多駅直結のロケーションにあり、「TKPガーデンシティ博多筑紫口前」が入居しているビジネスホテル全体を引き継いだものである。同社ではアパホテルブランドによる展開を軸としているが、選択肢を持つことで様々な状況やニーズに柔軟に対応していく方針である。
昨今は大企業であっても、宿泊施設を自社で保有していることは少なく、また保有していてもコスト上、運営が難しいことが多い。同社はそのような企業ニーズを取り込み、リピート率の向上を狙う。また、高級旅館として有名な「石亭」は稼働率の低さから経営不振に陥っていたが、同社が「石のや」としてリブランドし、平日の法人需要を取り込むことで経営を改善するなど、資産の有効活用の観点からもメリットが多い。加えて、貸会議室だけでなく、食事・機器・宿泊場所・交通手配までワンストップで一連のサービスが提供され、顧客にとって利便性の高い内容となっているのが、同社が幅広い顧客に支持されているゆえんと言える。足元では、アフターコロナに向けて、宿泊研修を通じたコミュニケーション活性化や、ワーケーションによる働き方改革を進める企業も出てきており、需要は拡大傾向にあるようだ。
5. 顧客
TKPの顧客基盤は3万社以上に上るが、そのうち約2,000社が上場企業となっており、上場会社の半数以上が利用している。裾野の広い顧客基盤を有する一方、売上上位500社で売上高の半分を構成しており、大手企業を中心とした上位顧客の構成比(利用頻度及び利用単価)が高い構造と言える。ヘビーユーザーに対しては法人営業担当者の積極的な提案・細やかな対応により顧客の深掘りを図る一方、単発利用のライトユーザーについてはコールセンターやTKP貸会議室ネットを活用したオペレーションで効率化を図っている。また、既存顧客が売上高の約85%を占めており、高いリピート率を誇る。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
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