『一流の人はなぜそこまで、靴にこだわるのか? (Business Life)』
(クロスメディア・パブリッシング)
「一流の人はなぜそこまで、靴にこだわるのか?」(著:渡辺鮮彦)より
スタイルやデザイン、素材、製法…。靴の特徴を決定づけるこれらの要素は、実は国ごとに異なります。
ここからは、各国の紳士靴にみるそれぞれの特徴と、代表的なメーカーについてお話していきます。自分にとっての「核」と照らし合わせながら、靴選びの参考にしてみてください。
イギリス靴の良さについてはこちらの記事「ビジネスシューズはブリティッシュメイドに限る理由。紳士靴の定番・イギリス靴の魅力に迫る!」で紹介しました。その他の国として、イタリア、アメリカ、フランス、日本の紳士靴についてもご紹介したいと思います。
それぞれの良さを知ったうえで、自分にとっての最高、最適な靴をぜひ見つけてみてください。
まずはイタリア靴について。ある種「浮気性」といった見方もできますが、旬や時代性をダイレクトかつ器用に追求したデザインや色使いは定評が高く、今日の紳士靴の流行の指標的な存在と言えるでしょう。
特に「立ち姿の美しさ」を重視する傾向は顕著。メリハリをしっかり効かせた側面や、地面に対しピタッと真っ平らに吸いつく底面などが、その象徴です。
軽快な履き心地が最優先で、比較的雨が少ない気候が影響してか、底付けは既製靴では返りに優れるマッケイ製法が比較的好んで用いられます。
既製靴に関しては、「産業」のレベルにまで発展したのは実は第二次大戦後のことで、アドリア海に面する中部・マルケ州を核にほぼ全土に分散しています。
著名なラグジュアリーブランドやセレクトショップ向けのOEМ生産を地道にこなす小規模メーカーが多い一方で、世界的に有名なメジャーブランドも存在します。
つづいてアメリカ靴。グッドイヤーウェルト製法やマッケイ製法の底付けミシンを開発するなど、19 世紀中後半以降の靴作りの機械化と既製品化に、世界規模での貢献を果たしました。
1970年代頃までは非常に優れた品質の紳士靴を多数製造していたものの、今や本国生産を維持するブランドはほとんどありません。
骨太で素朴なデザインのものが多いのは、移民の増加と共に、 19世紀末までのヨーロッパ各国の紳士靴の伝統が合理主義的に掛け合わされていった結果。
つま先の周辺はやや高めながら、甲から履き口までは低く抑えた側面や、丸みを十分に持たせた底面など、多民族国家らしくどのような形状の足の持ち主でも歩きやすいシルエットに仕上げる傾向があります。
靴づくりの産業化のきっかけは、 19世紀中後半の西部開拓による移民の急拡大や南北戦争による軍需の急増で、既製靴産業は消費者の多い地域ごとに発展しています。
フランス靴について。赤やグレーなどの変わった色合いや、モダンアート的な要素をデザインに採り入れるなど、イタリアの靴以上に時代の先端を牽引する傾向が強いです。
一方で、長年の定番モデルを大事にするなど、イギリスの靴以上に保守的な面も持ち合わせており、同じブランドの中ですら両者が仲良く併存し、それに違和感を覚えないケースも多いように思います。
製法やシルエットはメーカーやブランドでまさにバラバラな一方、アルプスを背後に控えている関係か、天候に左右され難いラバーソールの使い方には、昔から定評があります。
原材料の調達が容易で、底材から完全一貫生産するメーカーが目立つ一方、製造を敢えて他国、しかもイギリスやイタリアで行うところが多いのも特徴です。
玄関で靴を脱いで家屋に入る文化を有する日本では「脱ぎ履きのし易さ」が優先されがちで、さらに甲高幅広な足が主流であったことも重なり、かつては緩慢な靴が好まれるとともに、製造の核でもありました。
しかし、1990年代以降になると、欧米の紳士靴が日本市場に急速に浸透。「自分の足に合わせる」快適さを実感した消費者が増えました。さらに、活環境の変化で西洋人的な細身の足の持ち主も増加。
21世紀以降は従来の設計から方針を転換し、現在の日本人の足形を真摯に捉え、甲・土踏まず・かかとをしっかりフィットさせようとする傾向が漸く出つつあります。
日本の靴産業が始まったのは開国直後の幕末期。ミシンによる底付けが開発された時期と重なった幸運もあり、欧米諸国と同じタイミングでそれが浸透するものの、戦前までは専ら軍靴需要に支えられていました。
民需が爆発的に増えたのは第二次大戦後で、欧米の靴メーカーとの間で技術提携が数多く結ばれ、ライセンス生産品が市場に多く出回りました。
技術力と仕上げの丁寧さでは、日本の紳士既製靴は世界的にトップレベルであり、今後は世界に通じるデザイン力が課題という声もあります。
今回はイタリア、アメリカ、フランス、日本の紳士靴について紹介しました。一概にどの国の靴が優れているとはいえませんが、それぞれ特徴があり、魅力があるのがお分かりいただけたのではないでしょうか。
国別に靴のデザインを意識して選んでみるのも楽しいと思います。靴選びの一つの参考にしてみてください。
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