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年間膵炎で5回入院する入院マニアライターが語る『病院のグルメ』~第2回~



なんでもこの水浸しの食事は、膵炎の症状を悪化させないためのメニューらしい。アミラーゼというダダ漏れの膵液(タンパク質を溶解するので、膵臓自身やその周辺の臓器までも溶かしてしまう恐ろしい消化液)が出ないように、刺激物を避ける意味がある。そのために、この水害食なわけだが、重湯に味噌汁、変なジュースってのは、どれがオカズで、どれが主食なのかが定かではない。だって、全部お水以上食事未満なのだから!


にしても、膵炎をやり、絶食して初めての食事じゃないか?

こんな感じでも数日ぶりに口に入る貴重な食事。心していただこう…。

ズズズズズズズズ…。


こ、これは! 間違いなく粥を炊いたときの上澄みだ!! まぎれもないし、身元も保証できるくらいの“重湯”


しかしまぁ、とろりとした水気の奥に潜み、申し訳なさそうに味わいを小出しにしてくるコメの味に、数日間食べ物の味わいとは疎遠だった舌が過剰反応する。う、うめぇ~…。なぜだ、こんなものになんでこんなに感動するんだ! 高級レストランで食べる三大食材を食ったときよりも数段うめえぇ!



これを含んだまま、口中にみそ汁を啜り込んでみよう。ズズズズ…。食事に勘当されていた身として、この塩分はたまらない。


しかしながら、昔から幼馴染みで仲の良かった友人が、みんなに内緒でラーメン屋を開店し、誰にも告げずに細々と客の少ない店をやっているくらい水臭い! 水臭すぎるのだ! 


胃が縮んでいるのか、想像以上に腹に入らない。器の半分くらいの量で充分満腹になる。あれだけの大食漢だったのに、その胃の収縮ぶりに驚いた。


重湯を工夫して食らうということ


「丸野さん、お食事をお持ちしましたよ~」

おっと、やった! は、はひゃ! またか?!

次の日になっても、重湯の洗礼が待っていた。

黄色い声の50代のふくよかな看護師さんが地獄の遣いに見えてくるのは無理もない。


とにかく固形物が皆無なのだ。なんだか、白いか、淡いベージュ色が配膳盆にひしめく。数日続く重湯、重湯のオンパレード!! 京都南座の恒例顔見世興行だったら、この華のなさに座布団が飛んでくるだろう。


ズズズ…ズズ…。味はない、啜り込む喉に虚しさがあるだけだ。


コヤツを何とか工夫して、うまくできないものなのか?

この病院、ちょうどいい具合に階下に大型のコンビニが入っている。やっと食事が解禁になったばかりの俺だったが、食事をうまく食べたいという強い欲求には抗えない。



俺は点滴スタンドを押しながら、息をひそめて、看護師の目を盗み、エレベーターを目指した。


コンビニでは、できるだけ膵炎に悪いといわれる脂質を避けたアイテムを漁ってみる。裏の表示を見ながら、しばし一考。ペテンを利かせて、重湯変身アイテムを揃えたとき、突然店員に肩を叩かれた


「あのう、落ちましたけど…」


ひひひひひぃややぁぁぁ~!

気合を入れすぎて、周りが見えなくなった俺は、あろうことか、看護師が取り忘れた≪絶飲食≫の札を誤って落としてしまったのだ。こ、これは!


札を差し出す店員がショッピングカゴに入れた、美食補助アイテムを怪訝な視線で値踏みしてくるような感じがする。


「い、いや! この札は看護師さんが取り忘れて、あのう…もう食事も出てるし…! 出てるし!


俺、童貞じゃないしってことをアピールする高2男子みたいな口ぶりで釈明しようとするが、


「は、はぁ…」


という店員のまったく気のない返事。なんでもないって感じじゃないか! 俺の被害妄想なのか?


そそくさと会計を済ませて、3重に重ね、中身が見えないように包んだビニール袋を抱え、息を殺して病室へ…。まるで俺は、『メタルギアソリッド』のスネークではないか!

バレないように冷蔵庫に食材をしまい込むと、食事の続きに取りかかった。



これが重湯レベルアップ大作戦アイテムだ!


とにかく、何の味もしない重湯のその風味に、何の恨みもないが鉄槌を下さねばならない!

そこで、海苔の風味が効いた、常備調味料界のアンドレ・ザ・ジャイアント『カツオふりかけ』をかけてみる!

一応、鉄槌を下さないといけないので、親の仇みたいにふりかけてみる。



一口含むと、う、うまい! 他殺体になってしまったカツオには悪いが、高知県に足を向けられないくらい美味だ。申し訳ないが、刺身やタタキなんかよりも味わいは断然上! うますぎる!


昇天するような気持ちで完食してしまった俺は、次の重湯への攻略法を画策した。


謎の調味料の無力さに脱帽


食事でも水分ばかり口にして、さらに1日4リットルの点滴が効き、尿意がヤバい。自分の腎臓のろ過力に驚くほどだ。

なんでこんなにオシッコが出るんだろう。尿瓶が足りないから、看護師さんが2本も常備してくれたのがありがたい。

チョウ・ユンファばりの二丁拳銃を気取った放尿がまた心地いい。



見よ!この尿頻度!


「丸野さん、血液検査の結果良かったですよ! はい、お食事で~す!」

今日は20代のマスクをした看護師さんが配膳してくれたのだが、ここで気になっていたブツに目がいった。

コヤツは、なぜいつも食事に付き添ってくるのだろうか?



ゆかりでおなじみ三島食品の刺客調味料・たいみそ


こいつがいつも、食事にお供でついてくるのだが、重湯への利用方法が今ひとつわからないのだ。これ、入れるの? 塗るの?

ローションでももう少し使い方がわかるってもんだ。



この組み合わせ、ポーカーだったら強そう


どう使うのかがよくわからないので、とりあえず使ってみる。

のり佃煮をチョイス! ニュニュニュニュニュ~っと。

果たして、オシドリ夫婦のような重湯へのベストパートナーになってくれるのだろうか?



のり佃投下!


はい! マズい! 全然うまくない!

もう重湯の抜群の包容力に、のり佃煮が甘やかされすぎてダメ亭主になりさがってしまっている。

ごはんという最良の女房がいれば、のり佃煮のスペックを最大限に発揮できるのに!

これではだめんずを育てる、「私が夜にお店で稼いでくるから、のりちゃんは好きなこととしてて!」っていうヒモ製造機妻じゃないか!


俺はこのとき気がついた。

「もっと入院食はうまくなる!」という、自分には甘く、病院食には厳しく、その美味探求をこだわるために、俺は味への妥協を許せなくなってしまっていたのだ。≫≫続く


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(執筆者: 丸野裕行) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか


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