海外メディアNext Realityは、フル画面版「Wingnut AR」を紹介した。

ストーリーテリングも可能なARKit

iPhoneを使ったリッチなAR体験を可能にするプラットフォームARKitが発表されたApple主催の開発者会議WWDC2017では、同プラットフォームのポテンシャルを見せるために、映画「ロード・オブ・ザ・リング」「ホビットの冒険」シリーズを監督したピーター・ジャクソン氏に制作を依頼したストーリー作品が披露された。その作品が「Wingnut AR」だ。

同作品は大きな称賛を浴びたのだが、同作品を収録した動画は、(リアルな世界とAR画面を対比させた)分割画面表示のものしか存在せず、単一の画面で閲覧できる「完全版」がなかった。

しかし、このほど同作品をひとつの画面に収録した動画が公開され、同メディアはそれを紹介した。なお、「完全版」動画には、同作品を直接監督したAlasdair Coul氏のコメントも収録されている。なお同氏は、ピーター・ジャクソン氏が設立したARコンテンツ制作スタジオのスタッフのひとりだ。

同作品に登場する人物は、一見するとCGで制作されているように感じられるが、実はリアルな役者が演じているものだと言う。リアルな役者の演技をキャプチャーして、ARコンテンツのなかに取り込んだのだ。

同作品に関して、制作したARスタジオのスポークスマンは、以下のような声明を発表している。

ピーター・ジャクソンとそのパートナーである(と同時に妻でもある)フラン・ウォルシュは、いくつかのARデバイスを使ったデモを見て、ARのクリエイティブな可能性に非常に興奮しています。

優れたストーリーテラーである二人は、さらなるAR体験を望んでおり、彼らのスキルを使ってこの新しいメディアで、もっとストーリーを見せたいと思っております。

以上の声明から、世界的に著名な映画監督の目から見て、ARKitひいてはARテクノロジーはストーリーを語るメディアとして豊かな可能性がある、と解釈できるのではなかろうか。

ストーリーテリングから見たVRとARの違い

ARに先行して市場に現れたVRに関しては、すでに多数のストーリー作品が制作されており、既存メディアとの違いが次第に分かってきている。

本メディア2017年4月10日付の記事では、ストーリーを伝えるメディアとしてのVRは映画よりも演劇に近いという見解を紹介した。

PSVRを開発したソニーのチームに所属するSimon Bensonは、VR動画の特徴に関して以下のように発言している。

VR動画は、映画よりも演劇に似ています。ただし、とても奇妙な劇場です。観客はたった一人なのですから。

VR動画が演劇に似ているのは、観客が舞台のどこを見ているかが分からない点です。特定の要素だけに注目させることはできません

VR動画と2D映画の決定的な違いは、VR動画では鑑賞者に視線の自由が与えられていることである。2D映画では、鑑賞者は基本的に画面の中心を見ていると前提があり、制作者もその前提のもとでカメラアングルを決定し編集を行う。しかし、VR動画では、そもそも「スクリーンの中心点」など存在せず、鑑賞者はどこを見てもよいのだ。

本記事で引用した「Wingnut AR」のようなARストーリー作品を見るとわかるように、ARにもVRと同様に鑑賞者は視線の自由が与えられている。ARデバイスを持った(あるいは装着した)鑑賞者は、眼前に見えるAR作品に対して、見る位置や角度を変えながら見ることが可能だ。

そうは言っても、ストーリーテリングにおけるVRとARの決定的な違いがある。その違いは、ARはストーリーを他の鑑賞者と一緒に見ることができる点だ。対してVRは、Simon Benson氏が言うように、「たった一人で」鑑賞する体験なのだ。この他人と鑑賞体験が共有できる点は、ARが2D映画や演劇と共通している特徴とも言える。

そうなると鑑賞体験を共有できるARには、VRより拡散効果が期待できるかも知れない。そして、ストーリーテリングも可能なのだから、近い将来、ストーリー仕立てのAR動画広告というメディア体験が登場するかも知れない。

もっともARに関しては、実用的なアプリの事例は次第に多くなってきているものも、動画や広告、さらにはアート作品となるとほとんど事例を見ることはない。だが、ARにもVRに匹敵する表現力があると期待してもよいのではなかろうか。

フル画面版「Wingnut AR」を紹介したNext Realityの記事
https://mobile-ar.reality.news/news/apple-ar-new-way-capturing-stories-is-previewed-by-peter-jackson-0179172/

Copyright © 2017 VR Inside All Rights Reserved.

情報提供元:VR Inside
記事名:「WWDC 2017で公開されたARKit活用ストーリー作品「Wingnut AR」のフル画面バージョンが公開