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幹細胞から造られた人工胚をサルの子宮に移植し妊娠させることに成功!


人工胚からうまれた命は人工的なものなのでしょうか?

中国科学院で行われた研究によって、サル幹細胞から胚のような構造「胚様体」を作って体外で長期培養すると共に、胚様体をメスザルの子宮に移植して初期の「妊娠状態」へと移行させることに成功しました。

これまで胚様体を使った妊娠実験は主にマウスなどで行われてきましたが、より人間に近いサルで成功したのは今回の研究がはじめてとなります。

残念ながら、子宮内での胚様体の成長は途中で止まってしまいましたが、将来的により精巧な胚様体を作れるようになれば、幹細胞の塊を命に変換し、元気な赤ちゃんサルがうまれてくるかもしれません。

しかし研究者たちはいったいどうやって、命の元ともいうべき胚を人工的に作り出したのでしょうか?

研究内容の詳細は2023年4月6日に『Cell Stem Cell』にて公開されました。

目次

  • 幹細胞の塊を命の模倣物「胚様体」へと変換する
  • 人工的に作られた胚を子宮に移植して妊娠させてみる

幹細胞の塊を命の模倣物「胚様体」へと変換する

材料となる幹細胞は主に胚性幹細胞(ES細胞)と人工多能性幹細胞(iPS細胞)となる。今回は胚性幹細胞(ES細胞)を胚様体に変換した
Credit:Canva . ナゾロジー編集部

近年の幹細胞技術の急速な進歩により、万能性持つ幹細胞からあらゆる種類の細胞を造り出すことが可能になっています。

この「あらゆる種類」の中には生命の元とも言える胚細胞に似たものも含まれており、それらをまとめて塊にすることで疑似的な胚「胚様体」を造ることができます。

またこれまでの研究により胚様体を培養すると、本物の胚のように「体作り」を開始させ、次第に胎児のような形態へと変化していくことが知られています。

たとえば2022年に行われたマウス実験では複数の細胞を組み合わせた人工合成胚を生成して培養を続けたところ、鼓動する心臓や脳、腸、血管など複数の臓器が作られる段階へ到達させることに成功しています。

精子、卵子、子宮を使わずに「マウスの人工合成胚」の作成に成功!

ただマウスで得られた実験結果をそのままヒトに当てはめることはできません。

マウスも人間と同じ哺乳類であり、胚の仕組みの多くが一致しているのは事実ですが、実現させようとする現象が高度であればあるほど、種の違いの影響は大きくなっていきます。

(※胚発生は最も高度な生命現象の1つです)

実際、マウスと同じ方法でヒト胚様体を培養しようとしても「体作り」が上手く進んでくれないことがわかってます。

加えて、ヒト胚様体の成長に適した条件や着床条件を探ることも困難でした。

2023年に採択された国際幹細胞学会のガイドラインでは、ヒト幹細胞から造られたヒト胚様体を人間の女性の子宮に移して妊娠させることは倫理的に許されないとされているからです。

そこで今回、中国科学院の研究者たちは代わりにカニクイザルを実験材料にすることにしました。

カニクイザルはヒトと同じ霊長類であり、カニクイザルの胚様体培養や胚様体を使った妊娠実験を行うことで、ヒトにも応用可能な知識を、倫理的に違反することなく得ることが可能になります。

ただカニクイザルの胚様体にかんする知識は限られており、自然なサル胚を体外で長期培養する方法すら知られていませんでした。

そのため研究者たちは試行錯誤を重ね、適切な培養条件を模索することになります。

(※具体的にはサルの胚性幹細胞(ES細胞)に対してさまざまな成長因子に晒して胚発生が起こる条件を探しました)

結果、幹細胞の塊を妊娠8日目から9日目の胚に類似した胚様体へと、25%の成功率で変換ことに成功します。

胚性幹細胞を胚様体に変化させるレシピが確立された。レシピ通りの操作をすれば誰でも幹細胞から疑似的な胚を作ることができる
Credit:Jie Li et al . Cynomolgus monkey embryo model captures gastrulation and early pregnancy . Cell Stem Cell (2023)

また培養実験では胚様体を18日間にわたり生存させることに成功しました。

これらの胚様体は体のさまざまな臓器を作るのに必須である原腸陥入を経て、これまで作成されたどのサル胚様体よりも発達したものとなりました。

(※41個の胚様体のうち5個では原始線条に似た構造も現れていました。この構造は体の前後左右のレイアウトを形成するはじまりとなります)

また胚様体の遺伝子活性を調べたところ、本物の胚にみられるのと同じ遺伝子が働いており、かなり忠実なレプリカとして機能していることが示されました。

これらの結果は、サル幹細胞から疑似的なサル胚を作り出すことに、ある程度の成功を収めたことを意味します。

そうなると気になるのが、この「胚様体」にメスザルの子宮がどのように反応するかです。

胚様体が本物の胚の忠実なレプリカであるならば、子宮との接触によって子宮が勘違いを起こし「妊娠」を引き起こす可能性があるからです。

人工的に作られた胚を子宮に移植して妊娠させてみる

超音波診断により胚様体が子宮を勘違いさせて妊娠を起こしていることがわかる。赤い矢印の部分が妊娠嚢の場所
Credit:Jie Li et al . Cynomolgus monkey embryo model captures gastrulation and early pregnancy . Cell Stem Cell (2023)

人工的に作られたサル胚様体は妊娠を起こせるのか?

答えを得るために研究者たちは8匹のメスザルの子宮に7日間培養したサル胚様体を移植してみました。

するとそのうち3匹のメスにおいて、妊娠を知らせるエストロゲンや絨毛性ゴナドトロビンなどのホルモンが血中に現れ始めていることが判明します。

また超音波検査によって3匹のメスザルの子宮を調べたところ、胚様体が着床して妊娠嚢を形成していることが明らかになりました。

妊娠嚢は妊娠中の超音波検査において最初に確認できる液体で満たされた構造として知られています。

ただ胚様体は本物の胚の完璧なコピーにはなれなかったようで、やがて胚様体は崩壊をはじめ、20日後にはメスザルにみられた妊娠の兆候も消えてしまいました。

ただ研究者たちは妊娠が続かなかったことについて、むしろ安堵を覚えていると述べました。

現時点では、このような研究の倫理的な側面は議論されている最中にあるため、胚様体が順調に成長して赤ちゃんとなって生まれてきた場合、大きな混乱を呼ぶ可能性があります。

胚様体は幹細胞があれば大量生産することが可能なある種のクローンとも言えるものであり、倫理的に許されるものではありません。

研究者たちは今後、サル胚様体の着床が失敗する原因について集中的に調べていくとのこと。

実験では胚様体による妊娠が起きたのは8匹中3匹のみであり、5匹では着床に失敗していました。

研究者たちは胚様体に起きた着床の成功と失敗の理由を探ることができれば、人間の着床率をあげることができるようになると述べています。

着床は人間の妊娠おいてボトルネックとなっている現象であり、着床が上手くいかないことは不妊の大きな原因の1つとなっているからです。

胚様体の研究は今後も倫理的負担と医学的恩恵の両方を天秤にかけながら行われていくでしょう。

本物の胚と全く同じ性能を持つ胚様体が完成するまでに、私たちには「命とは何か」をもう一度考える必要があるのかもしれません。

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参考文献

Researchers create embryo-like structures from monkey embryonic stem cells https://www.sciencedaily.com/releases/2023/04/230406113953.htm

元論文

Cynomolgus monkey embryo model captures gastrulation and early pregnancy https://www.cell.com/cell-stem-cell/fulltext/S1934-5909(23)00080-2?_returnURL=https%3A%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS1934590923000802%3Fshowall%3Dtrue
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