はじめに
台北からMRTで気軽に行ける温泉地・北投。日本統治時代の建物が点在し、どこか懐かしい温泉街の風情が漂うこの街で、注目度上昇中の観光スポットが「少帥禪園(マーシャル ゼン ガーデン)」。この地の歴史を感じながら、季節感あふれる懐石風中華のコース料理がいただけます。
山あいの歴史的建造物で食す、懐石風スローフード
「少帥禪園」は、北投温泉の源泉のひとつ“地熱谷”を登った山の中腹にあります。日本統治時代に高級温泉宿「新高旅社」として建てられたものが、第二次大戦中の末期には神風特攻隊の接待所となり、戦後は国民党と共に台湾に渡った軍人・張学良を幽閉する住居となり……激動の歴史を受け止め、今に至っている建物です。
1980年代にレストランとして一般に開放されましたが、オーナーチェンジなどの紆余曲折を経て、2011年に大幅にリニューアル。レストラン、カフェ、足湯、個室温泉、展示室を擁する観光スポットとして生まれ変わりました。“少帥”とは、張学良の愛称のひとつ。今回紹介するのは、レストラン「漢卿美饌」です。
張学良夫妻を支えた長寿料理をさまざまに再現
波乱に満ちた人生を送りながら、100歳まで長生きした張学良。長寿の秘訣は食生活にあったのでは……との考察から、彼の食生活に関する情報からレシピを再現したり、アレンジを加えるなどして、3タイプの懐石風コース料理を完成させました。
そのひとつ「大帥府傳套餐」は、張学良の父である総帥・張作霖の料理人たちが作っていたレシピを受け継いだ中華料理。「少帥私房套餐」は、張学良の愛称を冠したコース。彼の故郷である中国の東北地方の主食である五穀や雑穀、好物だったという海老をはじめとした海鮮、地元の食材で作った料理を合わせ、当時の食生活をしのばせる構成に。「四小姐鱻食套餐」は、西洋文化の影響を強く受けた名家の令嬢であった妻・趙一荻にちなんだ魚料理。東洋の食材を西洋料理の手法で調理しているのが特徴です。
思わず声が出る、斬新でフォトジェニックな一皿
「大帥府傳套餐」で供される「大帥竹午魚」は、テーブルが一気に華やぐ一皿。お皿の上で跳ねているのは、台湾で獲れる魚“ミナミコノシロ”の丸揚げ。三枚に下ろして揚げてあり、骨はサクサクの歯ごたえ。添えられているのは、同じくミナミコノシロを煮込んで作ったソース。濃厚なソースと脂の旨味とのハーモニーが楽しめる一品です。
シンプルに見える料理ほど、手間隙をかけて
夏の新メニュー「西瓜蝦餅」は、海老、豚肉、イカを混ぜた練り物を揚げた“蝦餅”を特製キンカンソースで食す一品。インスタ映えするスイカボールは、お口直しにも。
ゆったり味わうことも長寿の秘訣!
すべての料理は塩分と油を控えめに調理。さらには、自家栽培した野菜を好んで食したという妻の食生活に由来する野菜プレートを全コースに組み入れるなど、ヘルシー志向が貫かれています。「山に幽され、降る雨に意気消失す」と詠ったという張学良。辛い幽閉生活の唯一の楽しみでもあり、生きる糧でもあった美食の数々は、その背景を知ったうえで口にすると、より味わい深いものに。
これらの物語性あふれる料理は、フランス外務省が発表する世界の最高峰レストラン1000選「La Liste」に2年連続でランクイン。アジア圏以外からの注目度も高まる一方です。歴史上の人物から学ぶ、人を活かす食のあり方とは。張学良が実践したスローフード、あなたも味わってみませんか。
「大帥府傳套餐」2500元、「四小姐鱻食套餐」2000元、「少帥私房套餐」1800元(いずれも別途サービス料10%)
◆少帥禪園(マーシャル ゼン ガーデン)
住所:台北市北投區幽雅路34號
電話:886+2-2893-5336