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止まらぬGo To トラベルの混乱、原因は「SNS」と「業界団体」【永山久徳の宿泊業界インサイダー】


Go To トラベル クーポン 延期

Go To トラベルキャンペーンの混乱が止まらない。今回の変更では、通常の宿泊料金を著しく超えるサービス・商品を提供する旅行商品、ヨガライセンス講習、英会話講習付き宿泊プラン、ダイビング免許付き宿泊プラン、免許合宿プラン接待等を伴うコンパニオンサービスを含む商品などがキャンペーン対象外となった。また、出張サイトや法人クレジットカード利用者などを対象としてビジネス利用の制限、支援対象を7泊までとする制限などが次々と発表された。既に長期旅行商品や、上記をセットした商品を造成、販売している業者や施設からは怨嗟の声が聞こえてくる一方で規制前に過度なサービスを「売り逃げ」できた業者や施設は安堵しているなどその受け止め方も様々だ。



このキャンペーンは周知の通り、委託先の選定段階で大幅な遅れが生じたにもかかわらず、大方の予想を裏切り7月に前倒し実施された。制度設計や運用フローのあちこちに矛盾や非効率な要素を残しながらのスタートとなった。このことを疑問視する声も多いが、観光業界救済という待ったなしの課題解決のため、準備不足やそれに伴う混乱を承知の上でスピードを最優先に実施されたものであることは間違いない。なので観光業界は早期の実施に感謝しつつ、運用途中での修正やアップデートもあって当然だと考えなければならない。しかし、度重なる変更に利用者どころか当事者である宿泊業界、旅行業界がパニックを起こし、疲弊してしまっているのが現実だ。





度重なる変更が起こった原因の最も大きな要因は、混乱に乗じて制度の主旨から逸脱した旅行商品、宿泊商品を提供する事業者が存在したことと、それを告発する同業者の存在である。



キャンペーンにおける支援対象はこれまでは地域経済全体に効果を波及させたいという主旨からかなり”おおらかな”ものであった。宿泊地での遊興費や体験も広く対象とされており、対象外とされていたものは「換金性の高いもの」と「事務局が対象商品として適切でないと認めるもの」程度であった。例えば商品券付プランも「期限付き、本人限定」であれば換金性が無いので対象に含まれると早々に事務局が判断した経緯がある。ビジネス利用も同様で、制限どころかむしろワーケーションや長期利用を推奨していたものだ。これは各事業者にとっては知恵の絞りどころであり、キャンペーンの恩恵を最も受ける”40,000円”という高単価を狙ってのアイデア合戦の様相を呈していたのは利用者にとっても決して悪いことではなかった。しかし、それを拡大解釈し、宿泊代の数倍の利用券をつけよう、宿泊費をはるかに超える自動車教習所受講料を含めよう、月単位でホテルを利用し住居費を浮かせよう、利用すればするほど利用者に現金が増える”無限ループ”を完成させようとする事業者が次々と現れることとなった。



同業他社はもちろんその情報をすぐに発見し疑問を呈したのだが、今回はその告発方法が内部リークではなくSNSにおいて直接利用者に広く知らしめ、そうして盛り上がった話題が赤羽国土交通相を筆頭とする行政担当者や事務局の目に留まり、応急措置として個別ケースごとに対応策を発表するというパターンが成立してしまった。



ANAクラウンプラザホテル大阪

今回問題になった3万円利用券付プランも、同業者の何人かがSNS上で「やり過ぎだ」と苦言を呈し、それを見た赤羽国土交通相が「すぐに対応する」と反応、翌日には制度の見直しが発表されたものだ。地域共通クーポンにおいて、宿泊施設や旅行代理店が非効率なゴム印を大量に押さなければならなかった問題もSNS上での声が大きかったことからプリンタ可と修正が成された。これもスピード感のある対応なのだが、問題点の本質を検証する間も無く、全体最適を検討される前に個別に制度が改変される状況は決して好ましいことではない(プリンタ可にしてもらう前に、対象エリア印刷済みのクーポンを納品してもらう方が余程有難いのだが…)。



SNS上で声を上げればすぐに制度が変更されるという現実は単なるモグラ叩きに過ぎず、そのモグラもSNS上で声の大きな人が指摘したもののみになってしまうからだ。追加された指針において、免許取得やコンパニオンなど問題視されたものは対象外であるとして例示されたものの、その他については相変わらず「個別具体的に支援の対象外とするか否かを判断いたします」とあるので、拡大解釈や抜け道ビジネスは今後も際限無く続くだろう。教習所が悪い訳でも、コンパニオンが悪い訳でもない。ビジネス利用も会社ぐるみの補助金奪取でなければ問題は無かっただろう。要は「程度問題」であったはずのものが、あれはOK、これはNGという各論に陥ってしまったのは、行政が現場の声に敏感過ぎたことが一因であったと考えられる。



日本旅行業協会(JATA)

ここで浮かび上がるもう一つの問題は業界団体のガバナンスについてだ。本来行政はこういったキャンペーンに対して枝葉末節に至るまで細かく定義し、遵守させることには長けていない。



抜け道を考えるのは業界内の人間であり、それを先回りして防止するのは至難の業だ。しかも今回のスピード感で、抜け道を一つ一つ封じ込めていくことには相当な労力を要しているはずだ。行政がSNS上の意見に過敏になってしまっているのもその努力の表れでもあるともいえる。しかし、それを防止する役目は本来業界団体側にあるのではないだろうか?旅行業にも宿泊業にも複数の業界団体がある。しかし、業界団体からキャンペーンの運用に関するガイドラインや申し合わせのような文章が発布されたとは思えない。コンパニオンのように感染防止上懸念のあるものにどういう制約を課して対象に含めるか、高額の免許取得を対象に含める場合の指針、行き過ぎたビジネス利用を防ぐための内規、顧客が不正利用しやすいシステムを持つ旅行業者への警告など、内情を理解し、抜け道を察知できる立場の業界団体であれば先回りして組合員に周知、遵守を依頼することも可能だったのではないだろうか。



違反業者や施設に対して、指導し、警告を与え、可能であればペナルティを課し、行政に告発するのも業界団体の役割だ。特に今は官民一体となって観光需要の回復に取り組むべき段階であるのに、制度設計から運用までをすべて行政に押し付けてしまっている構図にはなっていないだろうか?



業界団体が構成員に指針を示さず、モラルを持たない同業者を監視することをしない一方で、苦情と改善要求がSNSでダイレクトに行政に届くのであればもはや業界団体は必要ない。キャンペーンが混乱しているのは確かだが、その責を行政だけに求めていたのでは、この観光業界史上最大の社会実験からは何の教訓も得ることなく、今後に繋がるレガシーも残らず、単なる一過性のイベントに終わってしまうだろう。利用者と業界にとって少しでも良いシステムにするためには、残された時間の中でもまだまだ努力が必要だ。

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