防衛省が、平成28年度防衛予算の概算要求を公表しました。無人機RQ-4「グローバルホーク」や「機動戦闘車」の導入などが予定されていますが、そこにはどんな背景があり、また自衛隊は今後、どうなっていくのでしょうか。
戦車は九州と北海道へ重点配備
去る2015年8月31日(月)、防衛省は平成28年度防衛予算の概算要求を公表しました。その要求額は、特に中国に対する昨今の厳しい安全保障環境から過去最多となる5兆911億円にも達し、初めて5兆円の大台に乗っています。この概算要求は閣議決定を経て来年1月の通常国会において審議され、成立する見込みです。
来年度予算において初めて調達が行われる注目の装備は、まず滞空型無人機RQ-4「グローバルホーク」です。367億円が計上され3機が導入される見込みであり、陸海空自衛隊の共同運用機として三沢基地(青森県)に配備されます。RQ-4は高度約20kmで36時間滞空可能な大型偵察ジェット無人機です。レーダーや各種センサーを搭載し長時間・広範囲を監視可能な能力を有しており、三沢から尖閣諸島上空まで2200kmを進出しても、なお24時間の監視飛行ができます。
陸上自衛隊は、戦車に匹敵する105mmライフル砲を搭載し、8輪のタイヤによって最大100km/hで走行可能な「機動戦闘車」を36両、259億円で調達します。この機動戦闘車は既存の戦車に代わり、主に本州の防衛用として配備されます。そして、これより能力に勝る戦車は北海道や九州へ重点的に配備される予定です。
今年度以前から継続して調達されるものとしては、航空自衛隊の新戦闘機F-35「ライトニングII」の6機1035億円、新輸送機川崎C-2の1機229億円、新早期警戒機E-2D「アドバンスドホークアイ」の1機238億円が計上されています。さらに海上自衛隊は8隻目となるイージス艦1隻を1675億円、そうりゅう型潜水艦1隻を662億円で調達します。
また、航空自衛隊はUH-60J「ブラックホーク」8機354億円、海上自衛隊はSH-60K「シーホーク」17機1032億円を計上しており、「H-60系」を25機一括で調達することで、調達費の圧縮を図ります。
「オスプレイ」導入の陸自、唯一の減額に
過去最大の防衛予算が組まれるなかにあって、陸上自衛隊は陸海空自衛隊で唯一、減額されています。機動戦闘車が新たに配備されるとはいえ、最新鋭の10式戦車はわずか3両39億円の予算しか計上されませんでした。平成27年度では10両を102億円で調達しているので、減数分は調達価格に跳ね返ってしまっています。
陸上自衛隊は厳しい予算状況にもかかわらず、ティルトローター機V-22「オスプレイ」を12機1321億円で調達する予定です。「オスプレイ」は極めて高性能ですがあまりにも高額であり、ほかに必要であったはずの装備を調達する予算を明らかに侵食しています。陸上自衛隊は再来年度以降も、高額すぎる「オスプレイ」によって苦しめられることになるでしょう。
平成28年度防衛予算にはさらに、航空自衛隊の新空中給油機および海上自衛隊の艦載多用途ヘリコプターの選定、新哨戒ヘリコプターの開発295億円、サイバー関連経費193億円なども計上されています。
「国替え」で大きく変わる航空自衛隊
また平成28年度、航空自衛隊は大きく変革します。三沢基地(青森県)の第8飛行隊(F-2A)が築城基地(福岡県)へ移転し、築城基地からは第304飛行隊(F-15J)が那覇基地(沖縄県)へ移転します。さらに新田原基地(にゅうたばるきち、宮崎県)からは第301飛行隊(F-4EJ改)が百里基地(茨城県)へと移転し、百里基地から第305飛行隊(F-15J)が新田原基地へ移転。また仮想敵部隊である飛行教導群(F-15J)が、新田原基地から小松基地(石川県)へ移転します。
これによって那覇基地がF-15J二個飛行隊、新田原基地がF-15J一個飛行隊、築城基地がF-2A二個飛行隊となり、航空自衛隊の実戦飛行隊のおよそ半数、それも性能に優れたF-15とF-2を沖縄・九州に集中配備することになります(一個飛行隊は約20機の戦闘機で編成)。
航空自衛隊戦闘機部隊の「国替え」は、中国空軍の目覚ましい近代化を強く意識したものであり、今後F-35の実用化後に再び大きな再編成が行われるかもしれません。そして再来年度以降もまた防衛予算の過去最高額を更新することになるのか、注目されます。