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ホンダ・シビック タイプRでスーパー耐久に挑戦するホンダ社員チーム。2020年仕様のタイプRでどう戦ったのか?


2020年11月22日、栃木県ツインリンクもてぎで開催されたスーパー耐久第4戦に、ホンダ社員有志チーム「Honda R&D Challenge」の姿があった。マシンは、2020年仕様にアップデートされたシビック・タイプR(FK8)である。ドライバーは、シビック タイプRのチーフエンジニアである柿沼秀樹らホンダ社員+レース経験も豊富な自動車評論家の瀨在仁志さん。レース参戦の目的は、ノーマルのタイプRの可能性を探ること、そしてホンダのレーシングスピリットの継承である。今年も、その戦いぶりを取材した。




PHOTO●小野田 康信(ONODA Yasunobu)/Motor-Fan

2020年仕様にアップデートしたシビック タイプRで再びレースに挑む!

マシンの仕上がりはよく、レースペースは昨年より2〜3秒/Lapも速いタイムを刻んでいた。

Honda R&D Challengeは、2016年にシビック タイプR開発メンバーと社内外でモータースポーツに関わる業務・活動をしていたメンバーが集まって結成されたチームである。2019年も同じスーパー耐久ツインリンクもてぎ戦に参戦していた。

現在のスーパー耐久シリーズは、かつてのようなアマチュアレースというより、完全にプロのレースシリーズとなっている。Honda R&D Challengeが1年ぶりにレースに参戦することになったのは、完全プライベーター(つまりワークス体制ではなく、資金もメンバーとスポンサーに依っているということ)として、シリーズ全戦に参戦することができないためだ。




資金的なバックグランドは心許ないが、それを補って余りあるのは、チームの士気の高さである。開発現場のエンジニア、社内の有志が集まったチームは、ホンダのレーシングスピリットを体現しよう熱い想いをもってレースに臨んでいた。

ライバルは4WDのランエボやWRX。今年はGRヤリスも登場した。

ATJから助っ人に来てくれたピットクルーが手に持つのは
ドライバー交代のたびに差し替える発信器
今季、チームとしては参戦がかなわなかったATJチームの昨年のカーナンバー「63」のステッカーが貼られていた。その想いも乗せてレースを戦った

5時間の耐久レースを戦うドライバーは、望月哲明さん/柿沼秀樹さん/木立純一さんの3人のホンダ社員と自動車評論家の瀨在仁志さんの4人だ。柿沼さんはシビック タイプRのチーフエンジニアでもある。




チームマネジャーの小野田康信さんも含めてみなホンダの社員である。今回は、ATJ(オートテクニックジャパン)のメンバーも応援に駆けつけていた。

参加クラスは「ST-2」:2001~3500ccの4輪駆動及び前輪駆動車両で過給機係数が1.7倍である。


ライバルは、ランサー エボリューションX、スバルWRX、マツダ・アクセラ(SKYACTIV-D搭載モデル)、そしてトヨタGRヤリスである。アクセラ以外はすべて4WDモデルだ。




2019年のレースでは見事に完走を果たした。果たして、今回はどうだったのか?




シビック タイプRは、今年マイナーチェンジをして2020年モデルとなっている。

量産車のシビックタイプRのチーフエンジニアを務める柿沼秀樹さん

とはいえ、プライベートチームなので、今年高くマシンそのものが2020年モデルの新車というわけではない。エンジン開口部の拡大や前後の空力パーツの変更などを反映して「2020年仕様」としたクルマを使っている。


柿沼さんはこう説明してくれた。


「今回のレースカーにも昨年の仕様に対して2020年モデルのタイプRのマイナーチェンジで施した改良を入れ込んで仕様を変えています。タイヤサイズは、昨年の245から265へ2サイズ太くして、同じクラスのほかのクルマが履いているサイズに合わせました。そうすることで車体側への入力がより厳しくなります。あえて負荷を増やして、それをどうバランスをとっていくのか、そして全体のペースを上げていくのかが、今年、自分たちに課した課題です」

タイヤはピレリのワンメイク。サイズを昨年の245から265へ上げている。ブレーキはローターもキャリパーもノーマルで、摩擦材だけエンドレス製に換えられている。ノーマルにこだわるのはチームのコンセプトでもある

タイヤは太くしたものの、ブレーキローターやキャリパーは量産のまま。エンジン、トランスミッションも昨年と同じものを使う。


とはいえ、2020年仕様のタイプRは、速くなっていた。予選タイムも昨年より約2秒も速くなった。


エンジンの開口部が拡大したことで冷却性能がアップしたことで、出力が向上したこと。また、サスペンションのばねレートを変更したこと、そして減衰可変ダンパーのセッティングが大きく進化したことで乗りやすく速いマシンに仕上がった。

シャシーセッティングを担当した後藤有也さん。普段は栃木の研究所で仕事しているエンジニアだ。セッティングについては、「こういうのって、きりがないんですよ。やったらやっただけ成果がでるので。どこで納得するかなんですよね」というが、レース仕様の仕上がりには自信を見せていた

シャシーのセッティングを担当した後藤さん(もちろんホンダの社員だ)はこう語った。


「シビックタイプRの減衰可変ダンパーの制御ロジックは、ホンダの内製なんです。ダンパーそのものはZFザックスから買ってきているんですけど、どういうセンサーを使ってどうやって動かすっていうのは、ホンダでやっているんですね。その中身は僕がドイツにいたときに作ったものです。当時僕はドイツに駐在していました。毎日通勤でアウトバーンを走ったり、週末はニュルブルクリンクへ走りに行ったりして、こんなのあったらいいかなと思って作ったのがこれなんです。2020年モデルはグリルの開口部を拡げがったことで空力バランスが変わりました。そこをどうするかも僕の担当でした」




量産車のタイプRとS耐のレース車両の両方を担当した後藤さんは


「自分が開発してきた量産のタイプRが、ここでどれだけ通用するか。次の開発に向けてやりたいこともあるんですけど、全部やれるわけではないので、その取捨選択をするうえで、こういうレースフィールドは、すごくいい実験場になるんですよね」


という。

2020年仕様でもっとも変わったのはフロントグリルの開口部。開口部が拡大したことでえ冷却性能が大きく上がっている

エンジンは、フロントグリルの開口部が拡大したことで、冷却性能が大幅にアップした。ボンネット形状の変更(VARIS製)、ラジエーター(トラスト製)も相まって、エンジンルームの温度は10℃プラスαも下がったという。




土曜日に行なわれた予選は4分20秒500(Aドライバー+Bドライバーのタイム)でクラス5番手だった。

ここでホンダの元気を見せておかなければ、という気持ちでレース活動をしている望月さん。もちろんホンダの社員である

日曜日11時スタートした5時間の耐久レースでスタートドライバー役を担ったのは望月さんだ。1時間強のスティントを終えた望月さんはこう語った。


「スタートドライバーとしては予定どおりで、耐久レースですのでとにかく次につなぐこと、とにかく持って帰ってくる、ことだけ考えて走りました。思った以上にタイヤがたれちゃってペースを上げられなかったんですけどね。もう少しいけると思ったんですけど。レースで走ると、クルマのことがよくわかって仕事に生かせるところがあります。エンジンルームの冷却もシビックだけじゃなくて、こういうタイプのクルマには生かしていけます」

ドライバー交代の前にピットクルーとグータッチする柿沼さん。セカンドドライバーだ

望月さんからバトンを引き継いだ2番手は柿沼さんだ。前述のとおり、柿沼さんはシビックタイプRの生みの親、チーフエンジニアである。


柿沼さんのレースに賭ける想いについては、別のインタビュー記事を参照していただきたい。

3番手は瀨在仁志さんを挟んでドライバーズシートに座ったアンカー・ドライバーは木立さんである。木立さんは、ホンダのニュルブルクリンク検定員。評価ドライバーのスペシャリストだ。




残りあと1時間弱となったとき、ピットに緊張が走った。無線でトランスミッションの異常が伝えられたからだ。4速が使えなくなったという。4速なしでゴールの5時間までマシンを導けるか。そうしているうちに、ギヤボックスから漏れたオイルによってマシンは白煙を吹き始めた。

最終ドライバーとして乗り込んだ木立さんだが、残念ながらトランスミッション・トラブルでチェッカードフラッグは受けられなかった

ここで緊急ピットイン。残念ながらリアイアとなってしまった。


無念の表情を見せる木立さんはこう語った。


「5周目くらいだったと思うのですが、急にマシンの前方からカラカラ音がし始めて、4速が入らなくなりました。4速なしでも走れる状態だったので、メカニックとやりとりをして3速と5速を使って走行継続しました。ですが、どうしてもオイルが漏れてきて白煙が上がってしまって、残念ながらピットインしてリアイアしました。クルマ自体はだいぶ仕上がってきていたし、スピードも出ていたので、今度はそれに対するブレーキの容量がちょっと足りなくなってきたという課題はあったものの、アップデートはうまくいっていたので、ちょっと残念な結果ですね。次はそこはしっかり対策して、それにともなって脚周りのセットアップもしっかりやっていけば、ほかのランサーやWRXと同じようなペースでは走れると思っています」

3番ドライバーを担当した瀨在さん。とにかくブレーキを労りながらのドライブだったという

Honda R&D Challengeの2020年のスーパー耐久挑戦はリタイアで終わってしまった。


とはいえ、チームメンバーは俯いてばかりではない。




瀨在さんは


「結果的にギヤボックスが壊れてしまったけれど、私は基本的にはエンジンもミッションもオーバーホールなしで、ホントにタイプRってこんなに丈夫なんだって感心してたんです。ミッションは17年仕様ですから、本当に耐久試験を実証したカタチですかね。誤解を恐れずに言えば、いい耐久テストだったんじゃないかな。全開の耐久テストですからね。次は完全に2020年仕様にして再スタート、次のステップへ行きたいです」とポジティブなコメントを残してくれた。

これだけのレーシングペースでロングランするっていうのは、市販車では考えにくい領域だと望月さんは語ってくれた。まさにレースは走る実験室、である

「これまでマシンを作り上げてきてくれた研究所のメンバー、ターマックプロ、ATJのバックアップによって、最高のコンディションで参加できたこのレースの経験は、必ずや大きく実を結ぶと確信してします。耐久レースでのアクシデントやトラブルは、新チームにとっては通過しなくてはならない大きなハードルとして受け止めて、次へのばねにしていただききたいと思います。また、ノーマルベースで参加するというコンセプトも、今回のトラブルの意義は大きく、次期量産モデルへのフィードバックなど、ホンダ・ファンへ必ずや還元されるものと思います。自己啓発チームではあるものの、レースは走る実験室として語り継がれているホンダらしい活動として、大いに評価されるものと信じています」と話していた。

結果だけ見れば、リタイアだが、得られたものは大きい。


木立さんは


「エンジンの冷却性能が上がって、タイヤも太くなってスピードが上がったしわ寄せがトランスミッションにきてしまった。でも、柿沼も私も含めて、こういうフィールドで経験しないとわからない。だからあえて量産仕様にこだわってきたっていうのはそこにあるんです。こういうフィールドで必要な性能が身をもってわかってきたというもの成果です。成果は充分だったと思います。来年も参戦を継続したいですね」

チームスタッフはみな自ら買って出てくれたホンダ社員有志とATJのメンバーだ。

チームマネジャーの小野田さんは、「こういう活動をちゃんと繋げてこの活動の意義を社内的にも拡げていきたい。地道なことをやるしかないのかな。ここでホンダの元気を見せておかなければ、と思っています」という。




ホンダがホンダらしくあるために、Honda R&D Challengeの挑戦が来年以降も続いていくことを1ファンとして願っている。

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