スーパーカブの発売で国内はもちろん、アメリカでも確固たる地位を確立したホンダは、次なる飛躍の地として1962年(昭和37年)、ヨーロッパのベルギーに「ベルギー・ホンダ」を設立。ホンダ初の海外生産モデルとなる「モペッドC310」をリリースした。ヨーロッパでホンダが躍進するきっかけを作った、スーパーカブ50をベースにした貴重なペダル付きカブをご紹介しよう。
取材協力■ホンダコレクションホール
PHOTO●4ミニ.net https://4-mini.net/
REPORT●北 秀昭(KITA Hideaki)
300万台といわれたヨーロッパのモペッド市場に殴り込み!日本にたった1台!?これが貴重なスーパーカブのペダル付きモペッド
モペッド(自転車にもなるペダル付きのミニバイク)の本場に工場を構えたホンダが、ヨーロッパ市場に向けてリリースした第一号のモデルが、写真のモペッドC310。
このモペッドC310は、日本の自動車産業界において、初めてヨーロッパで生産(現地生産)したモデルであり、しかもホンダ初の海外生産モデルとなる、記念すべき1台でもある。
ヨーロッパでの現地生産をスタートさせたベルギー・ホンダは、日本の自動車産業界初ということもあり、国内外から注目を浴びた。
レッグシールド上に配置されたガソリンタンク、シート下には収納スペースを設置、軽快なイメージのバーハンドル、高級感溢れるツートンカラーのWシートなど、機能面&デザインともヨーロッパ向きにデザイン&設計されているのがポイントだ。
モペッドC310は、「ベルギー・ホンダ」の設立が決まり、工場を立ち上げるまでの限られた期間で、ヨーロッパ諸国の定めるモペッド規制に合うよう、スーパーカブ50(C100)にペダルを装着するなど、改良が加えたモデル。つまり、現地の市場のニーズを十分に反映し、新たに設計・開発された製品ではなかった。
エンジンはスーパーカブ50(C100)用の4サイクル単気筒OHV49ccエンジンをベースに、最大速度40km/hを超えないようにパワーダウン。
当時のヨーロッパにおけるモペッド市場は、300万台ともいわれた。4サイクルエンジンを搭載したモペッドC310は、コンパクトで軽量な2サイクルエンジンを搭載したヨーロッパ製モペッドよりも、大柄でヘビーだった。
その結果、モペッドC310はモペッドではなく、モーターサイクルのカテゴリーに近い乗り物として捉えられた。ホンダはモペッドC310の販促に、多大な労力と時間を費やしたが、残念ながら、大きな売り上げに結び付けることはできなかった。
ホンダはモペッドC310の販売戦略を反省し、その後、4輪車部品の生産や、汎用製品の営業活動などを実施して成功。「ベルギー・ホンダ=モペッドC310」は、ホンダのヨーロッパでの経験の蓄積、また大きな飛躍のきっかけとなったモデルともいえよう。
≪モペッドC310の主要SPEC≫
エンジン:空冷4スト単気筒OHV49cc/最高出力:1.8ps/4500rpm/最大トルク:0.31kgm/4000rpm/ミッション:自動遠心クラッチ3段+マニュアル/重量:71kg