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ManiaxCars『チューナー酔いどれインタビュー』


ManiaxCars Vol.03にて記事展開した『チューナー酔いどれインタビュー』。


酒を呑みながら、普段は見られないチューナーの素顔に迫る企画だ。


お相手は“奈良の鹿さん”とか“向井侯爵”とかの異名を持つ、


西の重鎮、Kansaiサービス代表の向井さん。


そのダイジェスト版をお届けしよう。

お題『チューナーとしてのルーツをたどる』

――それでは奈良の鹿さん、知られざるエピソードからお願いしまッス!




 コラコラ、誰が鹿やねん! また質問もええ加減やし(笑)。オレ、今までに死にかかったことが3回あるんよ。1回目は免許取り立てだった高校生の時、近所でバイクに乗ってたら、コーナー曲がり切れずに川に落っこちて前歯を全部折っちゃってな。


 2回目は鈴鹿でのバイクレースの時。終盤、入賞圏内を走っててラスト2周、シケインができる前の最終コーナーを全開で回ってたら路面が一部黒くて、白いかたまりが目の前に転がってるのよ。どうも周回遅れのバイクがコケてガソリンタンクが外れたんやろな。でも、こっちは全開で曲がってるからもう避けようがなく、ガソリンタンクに乗り上げてそのまま滑っていって、熱い熱いと思いながらコンクリートウォールにドン! と。そんで気絶して気が付いたら病院やった。




――で、3回目に死にかかったんがクルマで…ってことすか?




 そう。谷田部最高速からの帰りにS14のテストがてら若いのに運転させてオレが助手席に乗って。ところが、その若いのが道を間違えて中央道に入っちゃった。でも、まぁ帰れるわと。時期は11月末くらいだったんやけど、諏訪の手前くらいで初雪が降った日な。オレは助手席を倒して寝てたのよ。目を覚ましたら外が真っ白で、クルマがズズズ…って滑って前に進まん。で、ガードレールが近づいてくるのよ。あぶないからハザードを右手で押そうと思った瞬間にドーン!といって息ができなくなったんよ。




――ガードレールに突っ込んだと。




 いや、後ろからオカマほられた。それもトラックに。そんで追い越し車線に飛ばされて、クルマが反対向きになってるとこにもう1台のトラックが突っ込んできてな。それでシートベルトで肋骨折れて、それが肺を突き破って。衝撃で脳みそも揺れてんじゃん。それで脳みそがずれて。


 ハザードスイッチ押してクルッと回ったあとの記憶がないんよ。いまだにどこの病院に入ってたのかも覚えてない。1ヵ月弱くらい入院してたんだけど、新聞にも「初雪で大事故あり。向井敏之重傷」って出ちゃってな。


 オレは記憶がないんだけど、肺に溜まった血を抜くため脇の下あたりにパイプをつけられて。その頃からヘビースモーカーだったんやけど、姉さんたちが言うには、知らないうちにお金を持ってタバコを買いに行くんだって。で、タバコを吸うとパイプの刺さってるところから煙がプゥ~って出るんよ。




――マンガみたいな話っすね。




 一緒にタバコ吸ってるひとがそれ見て「お前、おもろいオモロイやっちゃな~」と。でも、それを看護婦さんに見つかって病室に連れ戻されて、えらい騒ぎになったらしいわ。覚えてないけど。


 そのあと京都の病院に転院して、そこから徐々に記憶が戻ってきた。でも、事故した直後の記憶はない。その前のことは思い出せるようになったんだけど。「オレだいじょぶか?」と思って圧縮比の計算とかしてみたらできたんで、あぁよかったわ…と。







――向井さんが記憶喪失なの、業界のひとは知ってたんすか?




 事故して記憶がない時、当時はHKS関西だったんでHKSにそのことを伝えたんですよ。そしたら、社長がこの話は一切外に出すなと。記憶が戻ってないんでヤバイと。ということで、とりあえず様子を見ようって。HKSの長谷川社長が箝口令を敷いたんだよ。




――それ、書いてイイんすか?




 あぁ、いいよ。




――時代はさかのぼって、どんな幼少期を過ごしてたんすか?




 ウチはおじいちゃんが宮大工やってて、親父も大工。でも、それだけじゃ食えないんで米やお茶もつくってた。いわゆる兼業農家やな。田んぼや畑もけっこう大きかったで。


 で、まだ保育園に通ってる頃、春休みとかおじいちゃんが五重塔の修復に行く時、一緒に現場に連れてってもらってたよ。朝早く、6時何分とかのバスに乗ってな。




――宮大工の現場を見てたと。




 現場も見てたけど、使いっ走りもな。「お前、3時になったらお茶やからな」と、お金もらって茶菓子を買いに行かされて。休憩時間に間に合わせるため、バーッ走って行くわけや。




――『初めてのお使い』状態だ。




 そうやな(笑)。おじいちゃんが五重塔の角の瓦をめくって修理してるんをよく覚えてるんやわ。おじいちゃんがいる時はハシゴを登らせてくれて。今みたいに足場じゃなくてハシゴやで。


 おじいちゃんの仕事は瓦をはいだところに板を貼ってきれいに直すこと。まぁ下地づくりやな。ウチのおじいちゃんは敏朗っていうんやけど、「まぁまぁ、今回もええ出来やわ」と言いながら、貼り終えた板の端っこに“何年何月、マル敏”と筆で書くわけや。


 何書いてんの? と聞くと、「これはオレのした仕事や。マル敏ってひとがここ修理したんやと。それが何百年か経った時にまた修理がある。その時、瓦をめくられて、“なんやこのオッサンの仕事は”と言われるのはカッコ悪いやろ。だから、オレはこんだけいい仕事をしたんやっていう証拠のために、何百年経ってもマル敏がここを修理したんやというのを残すためにサインしてる」と。


 実はそれがウチのカルテの始まりや。




――へぇ~、そうなんすか。




 それが残ってる。だから、オートバイん時も自分でモトクロスやってる時も全部データを残すんですよ。いつガスケット換えてピストンリング換えて…と。で、こんだけ走ったと。




――なるほど、そこにつながると。




 そう、おじいちゃんは仕事をしたことを残せと。それがいちばん印象的だった。サインしたってことは。




――てことは向井さん、おじいちゃん子だったんすか?




 ウチは姉さんが2人いるねん。上が7つ、下が5つ違って最後にできた男の子がオレやねん。だから、おじいちゃんはかわいがってくれたな。宮大工やから道具の手入れとかするやん。でも、カンナとかは宮大工の命やから絶対に触らせてくれん。でも、オレはやりとうてしょうがなかったな。




――向井さんの名前は、おじいちゃんの敏朗からひと文字取ったと?




 そう、おじいちゃんが敏朗、親父が敏次やねん。で、男の子が生まれたら、おじいちゃんが敏之って決めとったみたいやね。後で聞いた話やと。





――クルマのチューニングに興味を持ったのは、やっぱバイクからつながってるんすか?




 うん、きっかけはバイクやね。高校ん時。オレ、3月生まれやん。5月6月生まれのヤツはもう単車乗っとるわけ。オレも乗りたくてアルバイトも結構してたんで、残りはおじいちゃんローンでバイクを買ったんや。ヤマハHT90のベースモデルを内緒で。




――免許を取る前すよね。




 親父には「お前、捕まるぞ」みたいなこと言われたけど、パトカーも少ないし、移動しよう思ったら単車でないとどうしようもない。でも、県道を走ったりすると見つかるかわからんし、ウチに茶園があって農道があるから、そこを往復してたわけや。そのうち近所でゴルフ場の造成が始まってな。そうすると、またええコースができるんや(笑)。だいたい夕方5時半から6時になると工事のひとも帰りよるねん。そのあと走り回ってた。一般道はダメやけど、私有地ならポリにも捕まらんしな。




――向井少年、16歳になってバイクの免許を取ったあとは?




 あちこち走り回りながら、イジることにも興味を持ち始めた。単車の雑誌を買ってくるとチューニングの話が出ててくるねん。このパーツを換えると速くなりますみたいな。当時、横浜にヤマハのチューニングで速いバイクをつくる野口モータースってのがあって。そこでダウンチャンバーとか圧縮比の高いヘッドとか売っててたんやけど、それがほしくてほしくてバイトをガンバって買うわけや。で、雑誌見ながら自分で取り付けて。




――見よう見まねでやってたと。




 んで、さっき言ったように交換したパーツをノートに書き留めていく。そうやってチューニングしてた。


 でも、速くはなんねんけど、それがどれくらい速くなってるのかがわからへんのよ。たしかに前より速いで。あんまり変わらんけど、ちょっと速いような気がすんねん…と。キャブのジェット換えてプラグの焼け具合を見て、これでええのかなみたいな。


 で、困ってどうしよか思ってる時に、学校にストップウォッチがあるやん。ヨーイドンで走ってタイムを測るわけやん。これや、これええやん! と。




――突破口を見つけた向井少年。




 ところが、当時ストップウォッチは高価だったんで学校でも体育室の金庫にしまってあった。オレはそれがほしくてな。バイクでレースしてるんは体育の先生も知ってたんで、「実はタイムを計りたいんで貸してくれ」と言ったら、お前こんな大事なもん貸し出しできるか、いくらすると思ってんねん! と。


 ところが、昼休みに体育の先生から呼び出しがあって。また怒られるんかな思って職員室に行ったら、「内緒やぞ」って中古のストップウォッチをくれたんや。お前、ほしい言うてたやろと。タオルでぐるぐる巻きに包んで渡してくれた。大事に使えよ、と。




――いい話じゃないっすか!




 ただ、測れんのよ。オレが走りながら。困ったなと思った時に、そうやそうや、連れがおるやんと。そんでいつも走ってる造成地のある場所に杭を打ってここがスタート。で、学校からこっそり持ち出した巻尺で250mとか測って、そこにも杭を打ってフィニッシュラインにした。そこに連れを立たせて旗を振ると同時にストップウォッチを押して、オレがバイクでゴールした瞬間にもう一度押せと。それを3回やって平均を取るわけ。で、ジェットを換えてさ、連れがもう帰ろうよと言ってるところ、あと1回だけ測って! とかな。




――感覚的に速いと思ってたところを数値化したわけっすね。




 それを続けてくと、たしかに速くなるで。ちょっとずつな。ま、誤差はあるけど3回の平均やからよしとしよう。


 ジェットを交換して燃料を薄くすると、やっぱ速くなったぞと。それをデータとして取っていって、次はポートを拡大。上を削ると速くなるらしいし、吸気の幅を拡げたらええみたいやぞと。奈良まで行ってドリルの先に付ける砥石みたいのを買ってきて、ちょっとずつポートを削るんや。2ストやから作業も早い。ガスケットは毎回換えずに、ま、再使用やなと。それでまたタイムを取ると速くなってる。その繰り返しや。




以下、続きは2018年11月30日発売『ManiaxCars Vol.03』にて掲載。


ManiaxCars Vol.03

2018年11月30日発売のVol.03、特集は『ホンダイズム』。


シティRハイパーシフトやホライゾンハンドリグbyロータス、


アクティクローラなど、試乗を含めて詳しく紹介!


Kansaiサービス向井さんのインタビューも全編掲載だ。


全144ページ、定価1500円(税込)。


ManiaxCars Vol.04

2019年2月28日発売のVol.04、特集は『6発MTのススメ』。


いまやごく少数派となった“6気筒エンジン搭載のMT車”を取り上げる。


もちろん、第2世代GT-Rや80スープラなどのメジャー車種は皆無(笑)。


「え、コレにMTってあったの!?」というクルマが多数出演だ!!


全144ページ、定価1500円(税込)。

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