新型車種の発売が相次ぎ、活況を呈した昨年の車業界。そんな2023年を振り返りつつ、2024年のトレンドや注目の車種について、カルモマガジン編集長が予測! 開発者インタビューや試乗インプレッションなど、専門家だからこそ知り得たさまざまな情報も踏まえ、今後の展望を語りました。
1月に公開されたYouTube対談の模様を、ダイジェストでお届けします。
※聞き手:今村(「おトクにマイカー 定額カルモくん」広報)
「じゃらん」副編集長、「エイビーロード」編集長などを経て、2005年から2009年まで中古車情報誌「カーセンサー」の編集長に就任。その後、楽天市場自動車ジャンル責任者などを務め独立。現在も車選びとカーライフを応援するWebメディア「カルモマガジン」編集長を務めるなど、自動車メディアの編集者として活躍。
2023年に発売されたおすすめ車種
――2023年の自動車業界を振り返って、新型車がたくさん出ましたが、その中でも特におすすめな車種を教えてください。
馬弓:ホンダ「N BOX」とスズキ「スペーシア」ですね。
――「N BOX」は、「どこが変わったかわからない」といった声もネットに一部ありますが、どのあたりが大きく変わりましたか?
馬弓:今回は基本のプラットフォーム部分、つまりエンジンやシャシーはほぼ使い回しているんです。いろいろ改良は加えていますけど、全体的にデザインがシンプルになりました。
僕が最初にチェックしたのは、リアのコンビネーションランプ。前のトヨタ「プリウス」も日産「セレナ」もそうだったんですが、2代目「N BOX」の後ろライトのデザインは、「ちょっと幅広に見えてかっこよくないよな」と思っていたんです。けれど、スッとスタイリッシュになって、サイドの後ろのほうのデザインも初代の持っていたクリーンな感じに戻りました。
初代のフロントマスクは少しごつい感じがありましたが、シンプルでプレーンになった2代目を継承しているので、全体的なデザインは洗練されたなと感じました。
――確かに、素人目線でもシンプルさをすごく感じました。
馬弓:基本的に洗練されて、走りも良くなりました。特にターボ音が静かになったので高級感が増しました。「乗り心地がいい」という表現って音が結構大事なんですが、今回、ターボは上に吸音シートが入ってすごく静かになったので、乗り心地がいいと感じます。
- 「N BOX」は乗り心地を良くするため運転時にうるさくならない工夫がされている
馬弓:インテリアデザインもすごく良くなりました。後部座席に乗るとわかるんですが、ラウンドした感じがあったり、肘掛けの後席用スペースができていたりして、磨き込んできたなあと。
デザインもシートの色のトーンの使い方も、車内が広く見えるようにしていて、明るいところと暗いところの切り分けの作り方がうまいですよ。
「やっぱり『N BOX』すごいなあ」と思っていたところに「スペーシア」が出てきたんです。セールス的には万年4位だった初代「スペーシア」から、2位に上り詰めたんですよ。そして2022年の5月には1回だけ「N BOX」を抜いたんです。
――あの王者「N BOX」を!
馬弓:雑貨っぽい、スーツケースっぽいデザインという個性が受け入れられたんです。その意味では、2代目はデザインの勝利でしたね。初代と比べると2代目はガラッと変わったので、じゃあ3代目はどうするのかと思ったら、今度はコンテナをモチーフにしたものが出てきました。3代目は「N BOX」とは違い、キープコンセプトに見えるんですが、実は結構変えているんですよ。
- 「スペーシア」はキープコンセプトに見えてかなりの改良が加えられている
馬弓:軽のスーパーハイトワゴンには標準車とカスタムがありますが、「スペーシア」だけカスタムが売れていないという問題があったんです。「N BOX」もダイハツ「タント」もカスタムのほうが売れているんですよ。
なぜ売れていなかったのか。これは僕の推測ですが、前のモデルは後ろも少し雑貨チックだったので、無理やり顔をいかつくしても、全体的には「かわいいな」という印象があったんだと思います。今回は横のリブもカスタムのデザインに合うようになりました。
顔は押しが強い感じか精悍な感じか、どちらだろうと思ったら、割と精悍な「N BOX」系の顔で来ましたね。
個人の感想としては、「スペーシアカスタム」のほうがかっこいいなと。「N BOXカスタム」も悪くないんですが、試乗会で「スペーシア」に乗ってみたら、差が縮まっていました。静かさはほとんど一緒じゃないかと思いましたし、足回りに余裕のあるあたりも割と良かったので、「『N BOX』が断然勝っている」という感じではないですね。
――なるほど。どちらを買おうか、余計に迷いますね。
馬弓:「スペーシア」はやっぱり「逆転してやろう」という気持ちがあるんでしょうね。工夫もいろいろありますし。
オットマンとしても使える「マルチユースフラップ」をリアシートにつけてきたんですが、最初にあれを見たときには「あざといことするなあ」と思ったんですよ(笑) でも、それは浅はかでした。
3つのモードのうち、オットマンになる部分か少し延長される感じになる「レッグリラックスモード」は、もも裏がサポートされてすごく楽なんですよ。
スーパーハイトワゴンは、リアシートを折りたたむなど機能がいっぱいある反面、座面がちょっと短いのですが、それをあれで補うんです。これが本命の機能だなと思いました。
そしてもう1つの「荷物ストッパーモード」。1人で乗っていて買い物に行くとき、後席に荷物を置くこと、ありますよね。そのとき、ブレーキかけると荷物落ちるじゃないですか。
――前にガチャガチャってなります。何度もあります。
馬弓:あれを防ぐために、オットマンになる部分が上に上がって、ストッパーになるんです。さらに、センターアームレストがついているので、これを倒すと横にもいかない。
――いい機能ですね…!
馬弓:「うちは『スズキ』なので、1つのことをマルチユースするんです」と話していましたね。
――ああ、さすが! スズキが大好きになりました。
馬弓:ユーザーの声を聞いたそうです。めちゃくちゃレベル上がりましたね。
――ズバリ、「N BOX」と「スペーシア」、買うならどちらと聞かれたらどうしますか?
馬弓:標準車同士なら、僕はスタイルが好きなので「N BOX」かな…でもカスタムだったら「スペーシア」を選ぶかもしれないです。
2024年のトレンド車種はズバリこれだ!
――馬弓さんが考える2024年のトレンド車種を教えてください。
馬弓:やはり、まずは軽のスーパーハイトワゴンの「N BOX」と「スペーシア」。それからコンパクトミニバン、トールワゴンですね。
もしかすると、トヨタ「シエンタ」に対してホンダから新型「フリード」が出るかもしれないですし、スズキ「ソリオ」やトヨタ「ルーミー」、ダイハツ「トール」がモデルチェンジするかもしれない。不確定ですけど、この辺の4車種が注目かなと思っています。
「N BOX」と「スペーシア」が新型に切り替わったので、軽のスーパーハイトワゴンが相変わらず市場を引っ張っていくでしょう。ただ、「スペーシアギア」が今回出ていないことにも注目しています。ベースは旧型を継続するという話ですが、あれは多分新型が出てくると思います。
――2024年に出るんじゃないかと。
馬弓:スーパーハイトベースのクロスモデルは、今はダイハツ「タントファンクロス」と三菱「デリカミニ」があって、それぞれ好調なセールスです。ですが元々「スペーシアギア」が最初に作ったマーケットなので、その新型が出るかなと思いますし、「N BOX」にも多分、クロスモデルが出ると思うんですよ。
軽のスーパーハイトワゴンは数が多いので、少し人と違うものに乗りたい方や、アウトドアで使う方に向けた「タントファンクロス」「スペーシアギア」「N BOX」の新モデル、「デリカミニ」、この辺がずっと注目かなと考えています。
個人的に注目しているのは、ホンダ「WR-V」(2024年3月発売)です。「WR-V」は既にインドネシアで発表されていて、最初は全然期待していなかったんです。ところが事前に見せてもらったら、見たことない車があって。「これ『WR-V』じゃないよね?」と聞いたところ、実はインドで作る「エレベイト」という車を、日本では「WR-V」と呼んでいたんです。
――では、全然違うものなんですね。
馬弓:そう。コストを抑えることを徹底している車で、開発者も開き直っていて「いや、割り切って作りましたから」って胸張っていうんですよ。おもしろいなと思いましたね。
フロントシートの下に盛り上がりがあって、これはホンダご自慢のセンタータンクレイアウトの名残なんですが、「WR-V」はセンタータンクレイアウトじゃないんですよ。でも、安く使えるからそのシャシーを利用したと。
そのくらいコストを削っているんですが、割り切って作ったというわりにはパッケージがすごくいいんです。座りやすいし、素の車の良さというか、ゴテゴテといろいろついておらず必要最低限の機能があって、でも先進安全装備などはちゃんとついている。期待値が元々低かったので、実車を見て「あ、これいいかもな」と感じました。これで価格が200万~250万円程度ですから。軽でも最近それくらいの値段になっちゃいますしね。かっこいいんですよ、意外と。
- 「WR-V」は必要最低限の機能がついていて、かなり低コストで購入できる
――写真見ました。かっこよかったですね。
馬弓:ちょっと四角くてデザインもいいと感じました。「レクサス」もコンパクトSUVを出しましたけど、これからしばらくはコンパクトSUVがメインのボディタイプになってくると思うんですよ。さっき話に出た軽のスーパーハイトのSUVクロスモデルは、来年注目ですね。
2024年期待する運転技術
――2024年に期待する車の運転技術を教えてください。
馬弓:自動運転とEV(電気自動車)ですね。今村さんのイメージする自動運転ってどういう状態ですか?
――いつかは人がハンドルを握らなくても車が運転してくれる…とかですかね。
馬弓:それはもうあるんですよ。
――あるんですね! もう公道を走ってもいいんですか?
馬弓:特定の場所に限られていますけれど。
――もはや、運転席に人が座らないとか。
馬弓:それはだいぶ先ですね。多分、皆さんの自動運転のイメージって2つに分かれていると思うんです。1つは、外を見る必要がなくて、なんなら向かい合って4人でごはん食べながら歌いながら移動したら着いているという、完全にリビングが移動するタイプ。自動運転レベル5といわれるものです。でも多分10年くらい掛けても無理だといわれていて、目処が立っていないんです。
一方、既存の自動運転もあって、アダプティブクルーズコントロール(ACC)、レーンキープアシストはそれぞれレベル1です。
――それも自動運転に入るんですね。
馬弓:前の車に追いついたら車がブレーキをかけてくれて、加速したらついていくとか、車線の中に収まるようにステアリング支援するとか。それも自動運転技術のひとつです。
ただ、自動運転のレベル1、レベル2っていうのはあくまでも「運転支援」、つまりサポートで、メインは人間なんです。レベル1の技術が2つ組み合わされたものがレベル2なので、ACCとレーンキープアシストがついていれば、それはもうレベル2です。
さらにレベル2の中でもちょっと高度なものが、高速道路などで手を離せるハンズオフです。これは日産「セレナ」などについていますね。前を見ている必要はあるし、軽く握っているだけだと「ちゃんと握れ」と怒られるものの、ほぼ運転してくれるので、ここだけで十分なんじゃないかと思っているところです。
レベル3になると突然お金かかってしまうんですよね。レベル3は視線外してもいいという技術なんですけど、そこまでは…。
――1年とかではまだかな、と?
馬弓:1年では無理でしょうね。
- 自動運転レベル3が現実的な価格になるにはまだ数年かかる見込み
「スペーシア」やスズキ「スイフト」に採用されたACCは少し進化して、カーブだと認識したら減速するなど、細かいアップデートがあったんですが、それが結構大きかったんです。
あとはEV。でもEVは少し風向きが変わってきました。やっぱり現状、不便が多いんですよね。例えば、一家で1台しかないという状況だと、例えば旅行に行くとなるとどこかで必ず充電しないとなりませんが、急速充電に30~40分かかって、入る量は5~6割。それで200kmおきに充電するのかというと、ちょっと手間ですよね。
それに、価格は100万円ぐらい高いですから、そもそも補助金がないと。
――そうですね。消費者の方からすると、大きなメリットがまだそこまで感じられないかもしれないですね。
馬弓:日産「サクラ」や三菱「eKクロスEV」のような、軽のEVはありだと思います。地方などで1人1台持っているような場合は、ミニバンやSUVがメインに1台あって、普段自分が通勤・通学で使うやつはせいぜい20kmぐらいしか走らないから、軽のEVはすごく合っていると思うんです。ただ、それ以外だとあまりイメージがわかないですよね。
- EV車と軽自動車の組み合わせが今後有力だと考えられる
馬弓:それよりは、ハイブリッドは2024年も多分進化するだろうと感じます。
――そこの技術が伸びると、燃費もさらに良くなるのでは?
馬弓:燃費はもう頭打ちだと思うんですよね。トヨタ「プリウス」が出たときの衝撃の技術が次にあるかといわれたら、現状聞いている限りでは、2024年は出てこないでしょうね。
――なるほど。「ハイブリッドの良さ」というと、静かさとかでしょうか?
馬弓:昔はハイブリッドの良さっていうと、燃費や環境に優しいところでしたが、日産やホンダのハイブリッドは運転していて楽しいし、制御しやすいですね。運転して楽しいってところも、ハイブリッドが実現している感じがしますね。
ぜひ車買ってください!(笑)
――は、はい(笑)
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※この記事は2024年2月2日時点の情報で制作しています