ざっくり、こんなバス旅
- ミャンマーにはファーストクラスのバスがある
- ファーストクラスバスは超リッチな空間
- マンダレーからヤンゴンへの夜行バスの旅
世界ところ変わればバス旅のあり方もさまざま。鉄道網が乏しくてバスに頼りきりになるような国もあれば、バスが一番安い移動手段として自由旅行の貴重な足になっている国もあります。
私の場合、東南アジアの旅もバス移動が中心になることが大半。ただ、経済的にあまり豊かではない国のバス移動は、車体が他の国の中古だったり設備が古かったり、さらには道路自体がガタガタだったりとやや過酷な旅になることがしばしばです。
ミャンマーのバス旅も例外ではなく、ヤンゴンからバガンまで移動した時のエコノミーバスも下の写真のようなお世辞にも綺麗とはいえない感じでした。


ところが、ミャンマー一周旅行の帰路でマンダレーからヤンゴンへの移動に利用したJJエクスプレス(Joyous Journey Express)のファーストクラスバスは私の先入観を覆しました。
乗った瞬間に目を疑う、超リッチなVIPシート
ミャンマー第2の都市・マンダレーで、この国の紙幣にも描かれている旧王宮や仏教の聖地であるマンダレーヒルなどを観光した後、街の南にあるバスターミナルに着いたのは夜8時過ぎのこと。いくつかのバス会社の建物が立ち並ぶ中、JJエクスプレスの乗り場兼待合所に向かいます。




ちょうど夜の発着ラッシュの時間。さらにこの日はお正月休みの真っ只中とあってバスターミナルはとても賑やかです。JJエクスプレスのカウンターにも人だかりができていましたが、私は事前に別の街でチケットを取ってあったのでひと安心。スマホに撮ってあった予約情報をスタッフに見せて乗車証明のシールをもらいます。


「ファーストクラスバス」や「VIPバス」といわれるこのバス。
乗車料金は米国ドルで19ドルが基準となっており、現地通貨に換算するとこの時のレートで23,000チャット(日本円で約1,800円)。約600km南にあるヤンゴンまでは「ヤンゴンーマンダレー・エクスプレスウェイ」という高速道を使って約10時間の道のりです。

9時半出発のバスは出発15分前に乗り場に到着。黄色いカラーリングのボディには、先ほど見てきた旧王宮の城壁のシルエットが白い線で描かれています。リアバンパーの近くには、日本では見られない中国メーカー・金龍客車のブランド「HIGER」のエンブレムがキラリ。



近くのミニマーケットで夕食代わりのポテチと水を買って一番乗りでバスに乗り込みます。
人も車も雑多な感じの駐車場から一歩バスに乗り込むと・・・、何だろう、この別の世界に来たかのような感覚は…。視界には外の喧騒とは一転した、静かでリッチな空間が広がっています。
シートは2席+1席×10列による計30席の配置で、3列シートだけに通路の広さも余裕あり。向かって左側の列の前から8番目のシートが私の指定席です。

見るからに広いスペース、ふかふかそうな質感もさることながら、さらに驚きなのは前方を振り返った時に目に飛び込んでくる大きなモニター画面。8インチはあろうかというタッチパネル式のモニターがひとつひとつの席に取り付けられています。




腰をかけた時の沈み込むような感覚や足元の快適さなど、座り心地の良さは申し分なし。さらにアームレストには折りたたみ式のミニテーブルも収納されていて、本当に飛行機の上級クラスのシートを思わせるような造りです。

頭上の棚も飛行機のようにカバーがあるタイプで、私の40Lサイズのリュックがすっぽり入る広さ。電源も各席についていて電圧さえ合えば日本の電気プラグをそのまま使うことも可能です。



あえてマイナスポイントを挙げるとすれば、これだけ設備が充実していながらトイレが付いてないことくらいでしょうか。
サービスの充実ぶりもファーストクラスたる所以
車内サービスが充実しているのもこのバスの特長。第一に、観光バスじゃないのにキャビンアテンダントのような乗務員がいるのがスゴい。
席に着くと、まず初めに民族衣装風の制服を着た乗務員のお姉さんから「ヤンゴンではダウンタウンまで行きますか?」と英語で質問されます。

このバスはヤンゴンのアウン・ミンガラー・バスターミナルが終点ですが、ヤンゴンの市街地はターミナルと20kmほど離れているため、希望者は終点の手前でミニバスに乗り換えて市街地のダウンタウンまで運んでくれるそう。ターミナルからダウンタウンまではタクシーで800円ほどかかるので、これは嬉しいサービスといえます。
モニター下のラックにはペットボトルの水が乗車前に準備されていて、ブランケットも清潔感があるもの。モニター用のヘッドホンも貸してくれます。


そして出発から間もなくすると、乗務員による現地語と英語のアナウンスがあり、続いて軽食とドリンクのワゴンサービスが始まります。


軽食の箱の中には、甘塩っぱい味のチキンクロワッサン、ピーナッツバターを挟んだモチブレッド、そしてストロベリーケーキという3種類のパンが入っていました。一緒に頼んだコーヒーはノンシュガーでお願いしたはずなのに出てきたものは甘々……きっとこれがデフォルトなのかな。
やがて22時を過ぎたところで補助灯だけを残して消灯し、車内は何だかスペーシーな空間に。

そして、さらに30分ほど経って全消灯の時間を迎えます。
「ヤンゴンーマンダレー・エクスプレスウェイ」は、南北の大都市とその間にある首都・ネピドーとを結ぶ主要高速道。それでも深夜ともなると車の通行量は少なく道路照明も乏しいため、カーテンを閉めなくとも車内は真っ暗な状態に変わります。
消灯した後もモニターは続けて利用可能になっていて、映画や音楽といったエンタメが楽しめます。残念ながら日本語対応はしていませんが、この時の映画はスターウォーズ、ハリー・ポッター、マーベル作品などのヒット映画のほか、「レオン」「ショーシャンクの空に」といった不朽の名作も選べました。
音楽も洋楽のスタンダードナンバーが揃っています。

シートはリクライニングさせると悠々と体を伸ばせる広さで、これならぐっすりと眠れそう。
なお、日本の道路に慣れていると路面からの振動が気になりそうなところですが、このバスは前2輪&後ろ4輪の6輪車両で走行の安定性や安全性が高いことも売りにしています。

ドライブインで休憩……、そしてヤンゴンへ
深夜1時過ぎにドライブインに停車してここで20分の休憩。唯一の休憩なので、ここで忘れずトイレを済ませておきます。

ちなみにこの日は夜行バスなのでトイレ休憩程度の滞在時間でしたが、ミャンマーのバス旅ではここと同じようなドライブインで休憩を取ることが一般的。日中のバスなら食事できるくらい長い休憩を取ることもあり、別の日の日中にバス移動をした時には下の写真のようなランチを楽しみました。

その後、再び車内に乗り込み、バスはヤンゴン目指して南下を続行。真っ暗な道をただただまっすぐに走っていきます。ここで私にも眠気の限界がやってきます……。
次に目覚めたのは早朝5時過ぎのこと。ヤンゴンに入ってしばらくしたところで、待ち合わせていたミニバスにダウンタウン行きの人たちを乗せ替え。ここでほとんどの乗客が降りていきます。
おや、いつの間にか乗務員のお姉さんも別の人に変わっている模様。

それから間もなくして、予定より1時間半も早くヤンゴンのアウン・ミンガラー・バスターミナルに到着しました。

スマホを開くと時刻は朝6時前。
まだ夜明け間もない時間だというのに、ヤンゴンのバスターミナルは朝から熱気と喧騒が半端ない。どっとやってくるタクシーの客引きをかわしながら歩いていると、まだおぼろげなままの眼に電飾の灯りが眩しく映り込み、それと同時に腹の虫がグ〜と空腹のお知らせ……。近くのインド系食堂で朝食を食べて、このバス旅を終えたのでした。