今回、人事部人材開発担当の佐々田係長にバス業界を取り巻く実情と阪急バスの取り組みについて、お話を伺いました。
阪急バスについて
Q.まずはじめに、阪急バスについて教えてください。
佐々田さん:当社は1927年(昭和2年)に創立され、おかげさまで2年前に創立90周年を迎えました。主な路線は、鉄道会社である阪急電鉄の沿線を中心に大阪・兵庫・京都の2府1県であり、当社では「ひととまちに優しい阪急バス」を企業理念に、路線バス及び各都市や観光地を結ぶ長距離バスを運行しています。
Q.どのくらいの車両を所有されていますか?
佐々田さん:一般路線の車両が874台、長距離を走る高速路線の車両が59台、貸切バスなどが56台で、合計989台の車両を所有しています。(2019年3月現在)
Q.とても多くの車両がありますが、運転士の方は何名くらいいらっしゃいますか?
佐々田さん:約1,300名の運転士が在籍しています。この中には、運転業務の他に、若手の指導育成からメンタル面のサポートなども行い、後進の育成に努めている指導運転士なども含まれています。
運転士全員を正社員化することになった背景と実情
Q.2019年4月1日より、契約社員制度を廃止されましたが、その経緯をお聞かせ願えますか?
佐々田さん:阪急バスに限ったことではありませんが、少子高齢化、労働者人口の減少による人手不足は、社会的に深刻な問題です。
特にバス業界では、運転士の人材確保が難しい状況が続いています。当社においては、働き方改革が提唱する「同一労働同一賃金」を踏まえて、運転士が安心して働ける環境を整備するとともに、将来的な人材確保を目的として、
運転士の契約社員制度を廃止し、2019年4月1日から正社員として雇用することにいたしました。
Q.改正前、契約社員として乗務していた運転士の方は、何名いらっしゃいましたか?
佐々田さん:約140名の運転士が契約社員でしたが、4月1日より、全員を正社員として雇用いたしました。これまでは契約社員として採用し、勤続3年以上の運転士を対象に正社員として雇用していましたが、今回の取り組みにより、4月以降に入社した方は、採用当初より正社員ということになります。
Q.契約社員と正社員との違いは、どのようなことだったのでしょうか?
佐々田さん:賃金や有休といった面での差がありましたが、こちらも今回の取り組みで是正されました。また、先の見えにくい「契約社員」よりも「正社員」という言葉には、ある種の安心感が伴うでしょう。運転士本人もそうですが、家族の方もそう感じていただいているはずです。
Q.多くの企業では利益を優先するために、人件費を必要最小限に抑える傾向にあります。
すべての運転士を正社員に雇用することで、会社側にとってのデメリットはありませんか?
佐々田さん:たしかに現時点では、デメリットがないわけではありません。しかし、これからさらに運転士不足が加速されることを見越して長期的な視野で考えた結果、運転士の確保を優先しました。
Q.運転士が正社員になったことで、バスを利用するお客様にとってメリットはあるのでしょうか?
佐々田さん:お客様から見れば、どの運転士が契約社員なのか正社員なのかはわかりません。この取り組みが始まり「すべての運転士が正社員になりました」といっても、体感できる点はないでしょう。
しかし、私たち阪急バスの使命は「常にお客様の安全を第一に生活を支えるインフラであり続けること」だと考えています。人手不足がさらに深刻化して運転士の数が不足すれば、路線バスの減便や廃止といったことも起こりえます。
そうならない、そうさせないためにも、長期的な視野で見た「運転士の確保」がお客様にとってのサービスになると確信しています。
Q.安全運行をする上で、会社として運転士に対して行なっていることはありますか?
佐々田さん:安全運行の確保のためには、運転士の健康は欠かせません。
当社では年2回の健康検診に加えて、脳ドック、無呼吸症候群(SAS)などの検査を義務づけています。また、毎日の乗車前点呼では、対面による運転士の体調チェックも行い、万一の場合には予備要員の運転士に交代させます。さらに、メンタルヘルスセミナーなどの心のケアも行なっており、万全の体調で運転できるように取り組んでいます。
私たちは「お客様の安全がなによりも優先」という信念を基に、これからも安心してご乗車いただけるバス会社であり続けたいと考え、現状に満足することなく、さらなる安全を目指してまいります。
まとめ
阪急バスでは、今後のバス業界における運転士不足を見据え、バス業界でいち早く運転士全員の正規雇用を実施しました。今回の取材によって、大切な財産である運転士を守る姿勢を感じました。
次回は、阪急バスの運転士さんに聞いた"バス運転士の裏話"をお届けします。普段は話す機会がないバス運転士の皆さんから、あるある話や職業病、おすすめの絶景路線などを伺いました!
(出雲義和)