バスなのに電車のような架線がある「トロリーバス」とはなんなのでしょうか?
その歴史と、日本唯一となる立山トンネルトロリーバスを紹介します。
そもそもトロリーバスって何? しくみと歴史
トロリーバスとは、架線から電気をとって、それを動力として走るバスのこと。電気自動車のように充電する必要はありません。
通常のバスのような車体で、タイヤがゴム製なので、路面電車の鉄製の車輪よりもグリップ力があり、急勾配も走れます。レールを使わないので初期費用も抑えられます。電気で動くため排気ガスが出ず、動作音も静かです。
19世紀にドイツで生まれたトロリーバスが、日本に入ってきたのは1928(昭和3)年。普及が進んだのは、戦後の石油不足な時代。動力に石油を使用せず、路面電車より安く建設できることから、東京・神奈川・大阪など都市部を中心に発達していきます。
その後、高度経済成長を経て自動車が増加し、架線の下しか走れないトロリーバスは渋滞の原因になってしまいました。さらに、地下鉄やバスの製造技術が発達したことにより、だんだんと姿を消していきます。そして1972(昭和47)年に横浜市のトロリーバスが廃業し、街中で姿を見かけることはなくなりました。
32年ぶりのトロリーバス新規路線!
現在も現役で走っている「立山トンネルトロリーバス」。立山連峰に掘られたトンネルを通る区間で活躍しています。
もともとはディーゼルバスで20年ほど運行されていました。しかし観光客が増え、便数を増やしたところ、トンネル内に排気ガスが溜まってしまったのです。換気装置をつけても大して効果はなく、すでに開通していた「関電トンネルトロリーバス」にならう形で、1996(平成8)年にトロリーバスになりました。
このバスしか走らないトンネルの中なら、架線の下しか走れないという唯一の不利な点も、何ら問題ありません。山奥の駅からガソリンを入れるために下山する必要もないし、音も静かで、排気ガスもほとんど出ません。また、山を突っ切っているトンネル内は勾配がきつく、電車の運行はなかなか難しいという点も解決できます。
バスや鉄道だと困ったことが数多く出てくるこの環境が、トロリーバスの運行には最適だったのです。
トロリーバスは、バスなの? 電車なの?
日本の法律だとトロリーバスは、モノレールやケーブルカーと同じく、特殊鉄道とされているので、バスと呼ばれていても分類としては鉄道に属することになります。というのも、トロリーバスはバスと言っても架線が必要。架線から電気を引いて走るとなると、線路がある場合は電車になりますから、トロリーバスはしばしば「無軌条電車」とも呼ばれます。無軌条とは、レールがないということ。つまりトロリーバス=レールがない電車、という括りになるのです。
確かに、立山トンネルトロリーバスの発着場は「駅」と呼ばれます。線路はもちろんありませんが、乗降場は地面から一段高く、プラットフォームのようになっています。運転士は通常バスの運転に必要な大型二種免許とともに、トロリーバス専用の免許を取らなければいけません。一般道を走ることがないので、車体にナンバープレートが付いていないのも特徴です。
2019年からは、日本唯一のトロリーバスへ
現在日本国内で走っているトロリーバスは、この立山トンネルトロリーバスと、関電トンネルトロリーバスの2路線のみ。
関電トンネルトロリーバスは2019年から、充電式電気バスへと生まれ変わります。それ以降は、立山トンネルトロリーバスが日本唯一のトロリーバスとなります。
トロリーバス2路線を一度に楽しめるのは今年度が最後。北アルプスの大自然とともに、他では乗れないバスも楽しんでみては?
文/風来堂
(バスとりっぷ編集部)