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雷を避けて登山しよう!奥秩父に注目した雷発生パターンを解説


山梨県の北部に連なる奥秩父連峰は、山梨百名山のうち25座を占めています。休日ともなれば、金峰山や甲武信ヶ岳周辺は県内外の多くの登山者でにぎわいます。南アルプスに比べると地形はなだらかで標高も低く、年間を通して入山しやすい山域ですが、実は暖候期には雷が多い地域として知られています。どんなときに雷が発生しやすいのか、どうすれば雷を避けることができるのか考えます。


登山中の雷は怖い

なるべくなら登山中に出会いたくないものといえば、生物界ならクマ、天気の世界なら雷様です。遮るもののない稜線で雷雨に見舞われると極めて危険なことは言うまでもありませんし、最近は樹林帯での落雷リスクもよく知られるようになってきました。雷は登山中に遭遇するととにかく恐ろしい存在です。

また、雷が発生するような不安定な気象条件では、短時間強雨や突風といったシビアな現象よって行動が大きく制限されてしまう場合も考えられます。強風と気温低下で、低体温症に陥るリスクもあるでしょう。多少の雨なら想定内という登山者でも、雷雨をもたらす積乱雲には慎重にならざるを得ません。


まずは雷が発生しやすい条件を知る

もっとも有効な雷対策は、雷が多発しそうな気象条件が予想される場合には山に登らないことだと思います。夏の間はちょっとしたことで積乱雲が発生してしまいますから、すべてを避けるのは現実的ではありませんが、とくにひどい雷雨になることが予想される場合は登山を中止することをお勧めします。具体的には、前日から地方気象台の気象情報などで局地的な大雨への注意が呼びかけられている場合です。では、それはどんな気象条件なのでしょうか。

積乱雲が発生するには「きっかけ」と、雲が発達する「土壌」の2点が必要です。まず、「きっかけ」とは風の収束、つまり風が集まってきて上昇気流が発生することです。山岳地帯はもともと地形効果により上昇気流が生まれやすい特徴がありますが、加えて風が収束するとたちまち積乱雲が沸き立ちやすくなってしまいます。

下の図は、太平洋高気圧に覆われたある夏の日の午後6時、地上気圧と風、相当温位の予想図です。

山梨県に雨雲がかかり、ちょうど奥秩父連峰に当たる部分の雨脚が強く予想されていますが、これは奥秩父で風が収束しているためです。左図の風向きを細かく見てみると、駿河湾や相模湾からは南寄りの風が内陸に向かって吹きこんでいる一方で、長野や群馬方面では北寄りの成分を持った風が吹いており、山梨付近に風が集まっています。また、右図では山梨付近でぐるぐる風が回っていて低気圧が発生している様子です。これはヒートローという局地的な低気圧で、日中に気温が上がってくると内陸部に発生し、周辺から風が集まってくる傾向があります。この風が山地を中心に収束するため、奥秩父は積乱雲が発生しやすいエリアです。

以上の例は、静穏な天気の日でも起こる自然発生的な収束ですが、なんらかの力によって強制的に風が収束すると事態はもっと悪くなります。典型的なのが、前線が関東にかかるときです。

また、前線が関東に直接かかっていなくても、潜在的な前線が延びているときも注意が必要です。このような場合には、奥秩父に限らず関東甲信は広い範囲で大規模な雷雨に見舞われる可能性があり、平地でも防災上注意が必要なパターンです。

次に雲を成長させる「土壌」となるのが、上空の寒気が流れ込んだときの大気の状態の不安定さです。こちらは日ごろの天気予報でもおなじみでしょう。ただし通常、上空の寒気といえば500hPa面(高度6000m程)の温度を基準に考えることが多いのですが、盛夏は対流圏界面が高くなるのでもっと高度の高い300hPa(高度9600m程)の気温を見たほうが適切な場合もしばしばあります。いずれにしても、寒気が楔状に落ち込んできているときには全国的に大気の状態が不安定になりやすいことを知っておきましょう。

風の収束が起こる気圧配置と、上空の寒気が結びつくことで、気象台が気象情報を発表するような大規模な雷雨が発生しやすい危険な気象条件になってしまいます。


雷が発生する兆候をつかむ

雷が発生しやすい条件を知ったら、次は雷雨の兆候を事前につかむ練習をしてみましょう。比較的すぐに取り組めるのは、雷発生の「土壌」にあたる寒気の動向を探ることです。こちらは日ごろの天気予報でも注意喚起が行われますし、インターネットの各気象情報にも寒気の予想を閲覧できるものがあります。目安として、地上と上空6000m付近の温度差が40℃になると一般的に大気の状態が不安定とされています。つまり、ふもとの街の最高気温が35℃に届くような真夏には500hPaの-6℃の寒気、ふもとの街が30℃くらいであれば-9℃の寒気が流れ込んでくるかがポイントです。

ただし、先述したように真夏は対流圏界面の高度が高くなるので、500hPaよりも300hPaの寒気を参照した方がいい場合もあり、一般の方が安易に判断するのは難しいかもしれません。tenki.jp登山天気アプリなどの山の天気専門アプリが雷リスクをどのくらい評価しているのかを参考にしてください。

次に、やや難易度が高いですが、「きっかけ」となる風の収束をつかむことも有効です。天気予報を作っている気象会社ではこの作業は行われていて、雷雨が発生しそうな気象条件の日には、予報担当者はこまめにアメダスの風向・風速を読み取って積乱雲が発生するきっかけとなる『風の収束』を探しています。いろいろな方角から風が集まってきていたり、収束している風の風速が強まってきたりすると積乱雲が急速に発達するおそれがあり、警戒する必要があります。奥秩父の雷雨の場合、富士川をさかのぼってくる南風がやや強まるなどの特徴がみられる場合があります。

最近はインターネットによって細かい気象予測を見ることができるようになってきましたが、常に雨雲を追うだけではなく、風向きや風の強さなども併せて確認しておくとより深く天気を知ることができます。

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