水星って空で見たことないし、どんな星なのか聞いたこともない。そんな方もいらっしゃるかもしれません。誰もがその名を知っている惑星「水星」は、じつはとっても見つけにくくて、とっても観察しにくい星だからです。とはいえ年に何回か、見つけやすくなる時期がきます。5月17日前後の日没後は、今年いちばんの大チャンス! 水星とは、どんな星なのでしょうか。見かけは月そっくり、なのに探査機がなかなか行けないのはなぜ…?
その姿は月そっくり!太陽に近すぎて見つからない小さな惑星
水星は、太陽系のもっとも内側をまわっている、いちばん小さな惑星です。そばにいる太陽があまりにまぶしすぎて、空に現われても地球人にはほぼ見えません。かの有名な天文学者コペルニクスさえ、死の床で「私はとうとう、生涯水星を見ることができなかった」と嘆いたともいわれているほどです。そのため、軌道が太陽から(多少なのですが)離れる「最大離角」の時期は、水星を観測する貴重なチャンスとされてきました。
「水星」という名前から、なんとなく水の惑星→地球っぽい姿を想像しそうになりますが、水星の地表はクレーターだらけで、見た目は月にそっくり! 大昔に小惑星がぶつかってできたという、「カロリス盆地」と呼ばれる巨大クレーターまであります。衝撃を軽減する大気もなく、そのままの大きさで容赦なく降り注いだ隕石の跡が、風化もせずにたくさん残っている姿なのですね。
月に似ているなら、将来は人がちょっと住めたりしそうな気もしてきます。
ところが水星は、月と違って太陽にとても近いため、昼間の地表温度は約430℃、地球のように熱を保つ大気がないので夜間はみるみる冷えて、−170℃くらいに! 日光の当たり具合がそのまま寒暖差に直結するようです。
水星は自転軸の傾きがほとんどないため、季節はありません。そしてまったく日光が当たらない場所もあるのです。極近くにある深いクレーターの底には、なんと大昔にできた水の氷が存在するといいます。それなら、極寒に耐えるシェルターと呼吸の確保、さらに太陽光を活かすことなどできれば…水星観光も夢じゃないかも?
1日が1年より長い!? 探査機がなかなか行けないその理由とは
水星には、ギリシャ神話の「ヘルメス」「マーキュリー」などの呼び名もあります。その意味は「足が速い者」。日没後や日の出前に現われたかと思うとすぐさま姿を消してしまう素早さだけでなく、水星は実際に、太陽のまわりをすごい速さでまわっているようです。
地球が1年365.2日なら、水星はなんと88日で一周! 一方で、水星の1日は地球の176日分なのです。日の出から次の日の出まで、灼熱の昼88日&極寒の夜88日。一日のんびり過ごしていたら、その間に太陽のまわりを2回まわって、2年が経過してしまうなんて…。
地表ギリギリの低空に短時間しか現われない水星は、地上から望遠鏡で観測するのが難しい星です。また宇宙望遠鏡からは、太陽が近すぎて見ることができません。水星を詳しく観測したければ、探査機を飛ばすしかないのです。
ところが、水星の軌道は減速がうまくいかないと乗ることができず、膨大な燃料が必要なうえ、熱で探査機がやられてしまうほど強烈な太陽光…難易度が高すぎて、これまで地球から水星に行った探査機は、たった2機。そんなわけで未知の部分が多い惑星となっているのですね。
しかし現在、日本とヨーロッパが共同で国際水星探査計画「BepiColombo(ベピコロンボ)」を進めているのをご存じでしょうか?
水星は小さいのにとても重いのですが、それは驚くほど巨大な中心核をもっているから。内部の金属は固まっていない状態と思われ、地球と同じように固有の磁場があることがわかっています。これは最初の探査機が行ってみて初めて判明したことなのだそうです。水星の内部と表層を詳細に探査し、地球と比較したりすることによって、宇宙の秘密にせまることができるかもしれません。調査結果がとても楽しみですね。
JAXAが担当する水星磁気圏探査機は「みお」。燃料対策や熱対策も進歩しているようです。ミッションの詳細を知りたい方は、下記リンクもどうぞ。
※ JAXA『国際水星探査計画「BepiColombo」とは』
17日前後の夕方が見ごろ!下旬には大接近した金星が目印に♪
水星は5月17日に太陽からもっとも離れて「東方最大離角」を迎えます。この日前後は、日の入り直後の西の低空で見つけやすくなります。水星を観察できる、今年いちばんのチャンス! 晴れるといいですね。
また5月下旬ごろには、夕方の西北西の低空で、水星と金星が大接近して見えます。水星よりも空の低い位置に見えている金星を目印にすると、水星が見つけやすくなるかもしれません。東方最大離角以降に高度を下げていく水星と、高度を上げていく金星は、徐々に近づき、5月29日ごろ最接近して位置関係が入れ替わります。最接近の数日前のほうが、水星の高度が高くて明るいので見やすいそうです。
低空にある水星や金星を見つけるためには、西の空が開けて見渡せる場所を選びましょう。まだほの明るい空では、双眼鏡を使ってさがすのもおすすめです。その場合はうっかり太陽を見ないよう、くれぐれもご注意を。
初夏の夕方、水星をさがして空を眺めてみてはいかがでしょうか。
※ 国立天文台『水星が東方最大離角(2021年5月)』
<参考サイト・文献>
国立科学博物館
国立天文台
JAXA
アストロアーツ
『惑星MAPS〜太陽系図絵〜』宇宙兄さんズ(誠文堂新光社)
『ネイチャーガイド・シリーズ 恒星と惑星』アンドリュー・K・ジョンストン監修(化学同人)