「新年明けましておめでとうございます」令和3年スタートです。悲喜こもごもの日々も一夜あければ「元旦」。大晦日からほんの数時間しかたっていないのに、慌ただしい喧騒はどこへやら。穏やかさに溢れた静かな朝は見えてくる風景や心もちが全く違っているのに気づきませんか。これが元旦マジック! 不思議です。いったい「元旦」ってなんなんでしょう? いつもは考えないことをちょっと考えてみませんか? だって今日は元旦ですから。どうぞおつき合いください。


やっぱりみんな不思議に感じていたんですね!

見つけました「去年今年(こぞことし)」俳句の季語です。大晦日の一夜が明けて去年から今年に移り変わることをいいますが、俳句を読むとこの季語にはもう少し深い感慨がこめられているのがわかります。
「去年今年貫く棒の如きもの」高浜虚子
「平凡を大切に生き去年今年」稲畑汀子
この2句には、年が明ければ去年と今年と分けることができますが、そこには切ろうとしても切ることができない変わらない時の流れが厳然とある、と詠われています。時の流れをたとえた「貫く棒」「平凡」という生き方に時間に左右されない作者の潔さが感じられます。
「一打一打鐘を離るる去年今年」伊藤敬子
聞こえてきた除夜の鐘、この一打はまだ今年、と思いながら数えているうちにむかえる午前零時。ここからは新しい年の鐘の音、と思った瞬間から先ほどの鐘の音はもう去年になってしまったんだ、と午前零時を境に去年から今年に一瞬のうちに変わってしまう時に思いを馳せています。
現代では午前零時をはっきり知ることができますが、かつては夜という長い時間が去年と今年を分けていました。そんな時間の長さを詠んだ句もありました。
「ぬぎすての衣の乱れや去年今年」松根東洋城
「籠編むや籠に去年の目今年の目」久米三汀
昨夜脱いだまま朝が来ても変わっていない衣の乱れに、夜なべして作った一つの籠に、去年と今年のふたつの時間の流れている不思議を感じている作者の視線が見えてきませんか。
「元旦」の始まりはどこ? 去年と今年は午前零時という時刻で分かれることは判っていても、心の中では曖昧模糊とした時の流れを強く感じるのかもしれません。


「元旦の人は神なり仏なり」今日だけは、あなたも神さま私も仏さま

言い方はいろいろありますが、お正月を迎えた私たちの心もちをとてもよく表していることばに
「元旦の人は神なり仏なり」
があります。なるほど確かにそうかもしれない、と肯かれた方も多いと思います。普段でしたら意地を張ってしまう場面でもゆったりとした心でお互いに譲り合ったり、ちょっと気前がよくなってお年玉をはずんでしまっても後悔なんかしない、となんだか心をおおらかに広く持っている自分を見つけませんか? これが不思議な元旦マジックです。なぜ私たちの心は一夜にしてこうも変われるものなのでしょう?
その答えはたぶん年末、年の暮れにあると思うのです。みなさんはどんなに忙しくてもお正月が来るから、新年を迎えるのだからとあれこれ準備に追われたのではないですか。気持ち良く過ごせるようにと念入りに掃除をしたり、窓や外回りといった日々の生活の中では目をつぶってきた場所も、きれいにと頑張ったのではないでしょうか。どうしているかしらとは気になりながら、疎遠になっている人を思い出し年賀状も書きましたね。歳神様を迎える松飾りやお供え餅、お正月にいただくお節や家族の好きな料理の用意もしたことでしょう。これらのひとつひとつが実は新しい年を迎えるための心の準備だったのではないでしょうか。お正月を元旦を迎えるにあたって心をこめたからこそ、穏やかで清々しく広い気持ちを元旦に持てるのだと思うのです。じつはマジックには念入りな種がちゃんとあったんですね。
一年の計は元旦にあり、今年こそは「ついつい立ててしまう腹をおさめよう」と誓ったり、新たに目標を定めたりします。これはどんなことも乗り越えようというお正月の新しい力があるからではないでしょうか。みんな今日は神さま仏さまなのですもの。


お正月の天気は?「富正月」ってごぞんじですか

青く澄んだ空に揚がる凧のゆったりとしたさまはお正月の風物詩です。「お正月はだいたいいつも晴れているなぁ」と思われる方は太平洋側に住んでいますね。日本海側へいくと「ほとんど晴れることなんてないなぁ」となるのではないでしょうか。冬型の気圧配置を思い出せば納得です。冬に降水量が多い日本海側は雪や雨のお正月が多くなります。
元日、または正月三が日に降る雨や雪のことを「富正月(とみしょうがつ)」とか「御降り(おさがり)」というそうです。「御降り」は天を離れてさがってきたものという意味で雨や雪をさします。農家では元旦に雨や雪が降るとその年は豊作になると喜びます。そこで「富正月」となるわけです。多くの水を必要とする稲作にとって、雪が多ければ雪解けの水が豊かになり干ばつの心配もなくなるというわけです。古くは万葉集の歌にも
「新しき年の初めに豊の年しるすとならし雪の降れるは」
とあり、雨や雪を天からの恵みと喜んでいたのです。「雪は五穀の精」などといい、元旦や正月に限らず雪は豊年のしるしとされていますが、やはり元旦や正月だからこそ特別な祈りをこめたくなりますね。
いつも顔を合わせている家族でも、ちょっとあらたまって挨拶を交わしてからお雑煮やお節料理をいただきましょう。このように礼儀を正すのも元旦のおまじない。いつもより頼もしいお父さんや優しいお母さんに、言い訳や口答えをしないあなたにもなれますね。心穏やかな時間を大切にしていけばきっと1年だれとでも円満な時を持ち続けられることうけ合いです。どんなことにも負けないよい年にしてまいりましょう。

参考:
『雨のことば辞典』倉嶋厚・原田稔編著、講談社学術文庫

新潟県胎内市の雪景色

新潟県胎内市の雪景色