いつの間にか木々が枝をのばし、柔らかい葉に太陽の光が透けてキラキラと輝いているのに気づきます。清々しい大気の中に新緑が香り、陽差しがまぶしくなってくる、それが「立夏」という時。旧暦の4月で「清和月」との呼び方もあるとか。まさに晴れた空の和やかさは今の時季を表しています。「五月晴れ」といえば一般的に心地よい晴天をいいますが、もとは五月雨の合間の晴れ間をという意味だったそうです。なにをおいても太陽が輝き青空が広がる日の幸せ感に勝るものはありません。どんな時も季節はかならずめぐってきます。5月のはじまりを楽しく見つめましょう。
まずは身体のやしないから!自然の中から見つけ出した健やかへの道
陰暦で5月5日は「薬の日」ともいわれます。古来薬草を摘みに出かけるという習慣があり、この日の薬草には特別な効能があると伝えられています。『日本書紀』にも薬猟(くすりがり)としての記事が見えますが、先人達がいそいそと山野をめぐったのは、木の芽の勢いのよいこの時期に、植物の生命力を自分たちにも分けていただこうということなのでしょう。菖蒲と蓬を束ねて入り口の廂にさして端午の節供を祝う風習もあります。子供の健やかな成長を祈り、邪気を祓い、災難を除く思いがあったのですね。
この日のお楽しみのひとつ菖蒲湯も忘れてはいけません。湯舟に菖蒲を入れて身体をやしなうという風習です。菖蒲湯に浸かると腰痛や神経痛を和らげてくれるといわれますが、これは菖蒲に含まれるアザロン・オイゲノールという精油成分が、鎮痛や血行改善に働くからということです。この季節は農作業でいえば田植えの下準備、苗の管理や代掻きなどがありますから、菖蒲は重労働の疲れをいやす大切な薬草となったのでしょう。
他にも食のお楽しみに「柏餅」や「粽(ちまき)」があります。どちらも葉っぱにお餅を包んだものですが、ラップやビニールがなかった時代、本当に上手に身の回りの植物を利用しています。免疫力に注目が集まる今ですが、日々ささやかに積み重ねてきたこうした知恵の中で生活していることを、改めて意識したいと思います。
参考:鈴木昶著『身近な「くすり」歳時記』東京書籍
動物たちの声も聞こう!元気に活動を始めています
七十二候は、というと蛙が鳴き始め蚯蚓が姿を見せはじめます。蛙のことを「かわず」ともいいますがこれは、川に住む蛙を「河之蝦(かわづがえる)」といって田圃に住む蛙と区別していたそうです。河の蛙といえば「河鹿蛙(かじかがえる)」はご存じですか。きれいな渓流に住み鳴き声が鹿に似ているので、この名がついたといわれています。鳴き声を聞いたことのある人に伺うと、小鳥が鳴いていると思ってしまったほど美しいということです。
蛙といえば雨蛙や殿様蛙に蟇蛙と思い浮かびますが、それぞれに鳴き声はユニーク。水辺で蛙の声の聞き分けができたら楽しいかもしれません。私事ですが、その昔お寺の庫裏に泊めていただいた時、庭の大きな池のウシガエルが一晩中大合唱をしていて眠れなかった、という懐かしい思い出があります。春になって活動をはじめた動物たちも夏になって、力強いエネルギーを季節に躍動させていると喜びましょう。
こんな楽しい俳句を見つけましたのでお届けします。
「手をついて歌申しあぐる蛙かな」 山崎宗鑑
蛙も見方によっては表情や仕草が豊かで、なんともかわいらしく見えてきたりしませんか。
「子供の日」の次は、何の日? 忘れてはいけないですね
次の日曜は「母の日」ですよ。いつも家族のためにあたりまえのように働いてくれているお母さん。心の中ではいつも感謝していても、あらためて「ありがとう」はなかなか言えませんから、いいチャンスですね。
「母の日」の始まりはアメリカ。フィラデルフィアに住むアンナさんがお母さんの追悼式に一箱のカーネーションを捧げたことから始まったといわれています。5月の第2日曜日に決めたのはアメリカのウィルソン大統領、1914年のことです。アンナさんの「お母さんへの感謝は生きている間に伝えましょう」との運動が実を結んでのことだとか。母が健在ならば赤いカーネーションを、母を失ったものは白いカーネーションを胸に母をたたえましょう、ということからカーネーションを贈る習慣になったそうです。白は少し寂しいなとおもったら、今はピンクもありますから自由に選んでもいいのではないでしょうか、どこにいてもお母さんを思う気持ちは変わりません。
「母の日や母恋ふことに終わりなし」 山崎泰世
ここでひとつ大切なのは、6月にある「父の日」も忘れない、ということです。
「悲壮なる父の為にもその日あり」 相生垣瓜人
強そうに振る舞っていても心の中では、この日に感謝されるのを密かに待っているらしいですよ。初夏の風に吹かれながらのんびりと一緒に過ごす時間が持てたら、それだけで最高の親孝行になることでしょう。
参考:
『ブリタニカ国際百科事典』