気象の世界では3月から5月までが春。長野県警の山岳安全対策課のように4月からを「春山」として集計する場合もありますが、3月の山は「冬山」というよりも「春山」だと感じる場面が多くなります。ただ、まだ大量の雪が積もった雪山であることには変わりなく、雪崩のリスクがついてまわります。今回は、登山者を脅かす雪崩のリスクについて解説します。
入山しやすくなる春 注意点は
今年の冬は例年に比べて冬型の気圧配置が持続せず、冬なのに「冬らしくない天気」になることが少なくありませんでした。ただ、例年であれば1月や2月の厳冬期は日本海側の雪山は晴れる日数が少ないため、天候が比較的安定してくる3月以降に入山する登山者が増える傾向があります。
春山という言葉からは、冬山に比べて暖かく、環境も穏やかであるような印象を受けます。日没が日に日に遅くなって行動時間が長くなることや、雪がしまって歩きやすくなることも味方して、雪山を始めたばかりの初心者でも、より山の奥へと踏み込めるチャンスがやってきます。冬山に比べると、入山へのハードルが低いと感じられるでしょう。
ただし、3月はまだまだ積雪が増える可能性がある上、雪崩の発生シーズンであることを忘れてはいけません。国土交通省の資料によると、集落を対象とした雪崩は1月と2月の発生件数が最も多いものの、3月にもたびたび発生しています。人が住んでいないような険しい山地に範囲を広げれば、より多くの雪崩が発生していることが推察できます。
雪崩リスクが高まる条件
深く積もった雪は、よく観察すると地層のようにいくつもの層が積み重なってできています。この層の表面にあたる新雪部分が破壊されて流下するものを「表層雪崩」といい、地面の上に乗っている積雪の層がすべて破壊されてしまったものを「全層雪崩」といいます。気温が上がる春先には、雪解け水や雨水が雪と地面の間に流れることで引き起こされる全層雪崩が多く発生しますが、古い積雪面の上に積もった新雪が崩れる表層雪崩も発生しています。
それでは、どのようなときに雪崩のリスクが高まるのでしょうか。気象庁の雪崩注意報の発表基準を参考にすると、市町村ごとに発表基準が異なることがありますが、雪崩リスクを高めるいくつかの要素が組み合わされていることがわかります。
各地の注意報・警報については、tenki.jpからも確認することができます。ただ、雪崩注意報は人が住む集落を対象としているので、険しい山岳では雪崩注意報の発表の有無にかかわらず雪崩に注意を払う必要があります。今はウェブ上でも、山地の雪を含め直前に降った雪の量が公開されているため、上手く活用ですると良いでしょう。前24時間の降雪が30センチを超えてくると積雪が不安定になっている可能性が高いといわれていますので、ひとつの指標にしてみてください。
また、一度にたくさんの雪が降っていなくても、強い風が吹き続ければ雪が動いて局地的に積雪が深くなる可能性があります。このようにして積もった層が一枚の板のようになったものはウィンドスラブと呼ばれ、雪崩のリスクが高いことが知られています。
「春一番」からリスクの高い天気変化を知ろう
春一番が吹くような気象条件では、先ほど紹介した雪崩リスクを高める要素の多くを満たす確率が高くなるため特に注意が必要です。どのような天気変化をたどるのか、具体的に見てみましょう。今年の2月22日は、低気圧が発達しながら日本海を進む典型的な気圧配置で、関東地方では春一番が吹きました。翌23日には発達した低気圧がオホーツク海に達し、日本付近は等圧線の間隔が狭い冬型の気圧配置になりました。北陸から北の日本海側では暴風雪になった所があります。この間の、山形県の月山や朝日連峰にほど近い大井沢の気温と積雪の深さの推移は次のようになっています。
関東で春一番が吹いた22日は東北南部にも暖気が流れ込み、大井沢の最高気温は9.4度を観測しました。昇温とともに雪が解けていることがわかります。一方、冬型の気圧配置になった翌23日は寒気が流れ込んだ影響で日中も気温が上がらず、今度は新たに雪が積もりました。大井沢の観測点では23日の降雪量は25センチでしたが山の上ではもっと多くの雪が降ったと推察できるため、入山は慎重になるべきです。
気温が急激に上がる
→雨が降る
→気温が急激に下がる
→湿った雪面に新たな雪が降る
春一番が吹くような気圧配置になるときはこのような天気の経過をたどり、雪崩リスクが高まる場合が多いと考えられます。嵐が去った後もしばらくは不安定な状態が続く可能性があり、十分な注意が必要です。このように、ある程度は積雪の状態が不安定になると予想できるケースもありますが、深い層から崩れてしまう場合など、直近の天気からは雪崩のリスクが判断しづらいケースも存在しています。入山前には必ず雪崩に関する情報を確認するようにしてください。