沢の水が厚く凍る「大寒」です。新しい年を迎えて心があらたまると同時に訪れる厳しい寒さは、新たな出発へのケジメにもなるようです。各地ではさまざまな寒稽古や寒の修行が行われていることでしょう。降り積もる雪と寒風をやり過ごすだけではない、この寒さをも利用して私たちは多くの素晴らしいものを産みだしてきました。今では工場で作られるようになっている物も多いですが、一つひとつをこの寒さの中で作っていたことを知ると「えっ、これも⁉」とあんがい身近にあるものばかりで驚きます。
「寒仕込み」寒中の今がいい!なぜ?美味しくなるの?
よく耳にしませんか?「寒仕込み○○」。そうです、お味噌やお酒と一緒によく聞かれますね。寒に仕込むと何がいいか? 酒蔵を見学したときに教えていただいたのが、一番は発酵にとっては敵となる雑菌の働きが、寒く乾燥する冬はそれほど活発ではないから、と同時に発酵を担う微生物の活動もゆるやかで、熟成がゆっくりと進むことからなめらかなうま味が生まれるとのこと。なかなか微妙なところです。日本の冬は寒い寒いと思っていましたが、これがあんがいほどよいのかもしれません。
それから大切な要素がもうひとつ、働き手です。お酒造りに欠かせない杜氏の仕事は冬の農閑期の大切な収入源と考えられていたそうです。杜氏でお酒の味が決まるともいわれる大切な仕事。美味しいお米を作り、またそこから美味しいお酒を造る。お米を通して1年の営みがさまざまなものとつながり、広がっていくのを感じます。
雪に閉ざされようと、寒風が吹こうとちゃんと季節を利用していく智恵。快適な部屋で冬を越す現代の私たちもすこし学んでいく必要があるかもしれません。
降り積もった雪、乾燥した空気を大いに利用する智恵があります
軒の下に野菜や果物が吊された里山の家々の風景に郷愁を覚えませんか? 収穫後の豊かさを、それを蓄え保存する智恵に感じます。冬の寒さと乾燥した空気は作物を保存したり、加工するのにまさに適した気候です。日本各地に美味しい漬け物があるのがその証拠。何に漬けるか、どんな味にするか、発酵させるか否か、と味は地域ごとに、また各家庭での工夫によってさまざま。それぞれの美味しさを作りだしています。
雪の中で気温の下がる夜に凍らせ、昼間の日光の中で解凍し水分を飛ばして乾燥させれば、保存がきく乾物になります。食べたいときは水で戻せば調理ができる。このフリーズドライは自然の中で古来、行われてきた食物の保存方法。和食のお弁当には欠かせない高野豆腐や切り干し大根はよく知られていますね。みつ豆やあんみつに欠かせない寒天は、近年の健康志向で人気が高まっています。この寒天、なかなか手がかかっているのをご存じですか? テングサなどの海藻をよく洗い汚れを落とし、じっくりと時間をかけて煮溶かしてできた液を固め、さらに棒状に切り出してから凍らせて乾燥させる、という多くの工程をかけてできる商品です。昔から普通に食べられてきたものですが、海の養分を凝縮させた先人たちの底力を感じさせます。
スーパーでちょっと乾物のコーナーを覗いてみて下さい。なにげなく棚にならんでいるのを見かけたら、ひとつ手にとって試してみてはいかがでしょうか。水につけてしばらく放っておけばやがてふにゃふにゃに。しっかり絞ったあとは、適量の水でぐつぐつ煮溶かしてお弁当箱にいれて固めれば、みつ豆、あんみつ、心太(ところてん)として食べられる寒天に。お米といっしょに炊いたり、サラダのトッピングにしたりとダイエットの助けにも使えますよ。
冬の寒さが作る身近で便利な食品を使ってみませんか? 昔からの智恵はきっと健康にも役立ってくれそうです。
「春隣」寒い、寒いと言いながらこんな言葉もあるんです
春の字が入ってはいますが「春隣」はれっきとした冬の季語です。「え⁉ なぜ?」って思いますか? なぜなら「春は隣」と冬にいながらうずうずする私たちの気持ちを表しているからです。近づいた春への希望に溢れています。寒いからこそ雪に埋もれているからこそ、この言葉のもつ春を切望する思いがきわだっています。
「春隣吾子の微笑の日日あたらし」 篠原 梵
「灯は窓の形に点り春隣」 石川一歩
「春隣風吹く山の一つ星」 廣瀬直人
1句1句の中にまだ冬だけど春を予感させる言葉や、ぬくもりを期待する言葉がちりばめられています。「大寒」がおわると「節分」となり暦は一気に春へと突入していきます。春立つ前にこの寒さをじっくりと見つめて味わってみませんか? ささやかな植え込みの中に思わぬ花の芽吹きを見つけたり、空の色の変化に気づくこともあるかもしれません。寒さならではの楽しみを工夫して積極的に寒さを味方にしていきましょう。泣いても笑っても春は来ますから!