年末年始、何かと人が集まることの多い時期になってきました。少し気分を変えて、このお正月は着物で過ごしてみるのはいかがでしょうか?「ちょっと億劫だな」と思う方もいるかもしれませんが、所作を知っておくと、案外スムーズに過ごすことができます。今回はそんな着物の立ち居振る舞いに注目してみたいと思います。
所作・マナーを知っておこう
着物には、その形などから発展してきた特有のマナーや所作があります。それらを知っておくことは、意外にも、動きにくさや窮屈さを解消してくれる助けになります。また所作が上手くできていると、動きやすいだけでなく、着崩れしにくいというメリットもあります。
着物は洋服に比べて、着ている人の数が少ない故に、視線が集まることが多いかもしれません。着物の立ち居振る舞いが美しいことは、日本人が古くから育ててきた「奥ゆかしさ」などの内面的な美しさも引き立ててくれます。きちんと覚えてしまえば、自信を持って行動ができ、それだけでも凛とした美しさになりますよ。
Case1. 基本の動作
☆立ち姿
まずは、お腹の下あたり「丹田」と呼ばれる場所に力を入れてみましょう。次に背筋をピンと伸ばしましょう。頭を持ち上げるように首を天に向かって伸ばします。
足は、つま先が開かないように常に意識しておきましょう。片側の足を少し後ろに引くと楽になります。
手は、自然にお腹の前で重なるようにしましょう。
☆歩く
重心がつま先の方に来るようにします。歩幅は小さく、内股を意識して歩きましょう。足を運ぶ時は、まっすぐ前に小さく一歩、とすると裾が乱れにくくなり楽に歩けます。履物を履いた時もつま先に重心があると、履物を引きずらずに脱げにくく、音も立ちにくくなります。
☆座る(正座)
まずは右足を少しだけ後ろに引いて、右手で着物の前側を引き上げます。少し腿のあたりに余裕ができたでしょうか? 次は、太ももの前に左手を添えて腰を落とします。軽くたくし上げていた右手を膝から足首に向かって添うようにしながら床に膝をつけます。膝同士はこぶし一つ分くらい空けておくと楽になります。最後に、膝の裏にある着物がシワにならないよう、両手で着物を左右に引っ張り、すっきりさせましょう。腰は両足の間に落とします。これで痺れにくくなり、座り姿も美しくなります。
☆座る(椅子)
着物の前を少し持ち上げ、背もたれに帯がつかないように、浅めに腰かけましょう。カバンは、帯があるので、背もたれとの間に置いて大丈夫です。膝下の後ろ側の着物は膝裏に軽く押し込むようにしましょう。
袖が長い、振袖などの着物の場合は、袖は手に持って膝の上に重ねて置きましょう。
座っている時は背もたれを使わないので姿勢が崩れやすくなります。意識して背筋を伸ばしておくようにしましょう。
☆立ち上がる
正座から立ち上がる時は、膝をついたまま、つま先で両足のかかとを立てます。かかとは揃えておきましょう。そして揃えたかかとの上にお尻をのせて、片膝を立て、立ち上がります。この時、着物の前に手を添えて、着物が開いてしまわないようにしましょう。
座布団に座った際には、座布団の上に立ち上がるのはNGです。一旦、座布団から降りてから立ち上がるようにしましょう。挨拶なども同様に座布団の下座で。
Case2. 日常動作
☆トイレ
着物を着ていて、一番に着崩れやすく面倒に思われるのがトイレですが、気をつけるべきポイントを覚えてしまえば、さほどではありません。ぜひ、マスターしてしまいましょう。
下着は、帯などに挟まれにくい、股下が浅いタイプが便利です。
まずは袖を、帯の真ん中あたりに上から挟み込みましょう。次に、着物の裾の褄先(つまさき)、長襦袢、裾よけの3枚を左右それぞれ重ねて両手で持ち上げ、袖と同じように、帯にしっかりと挟み込んでしまいます。
用が済んだら、帯に挟んだものをそれぞれすべて下ろして整えましょう。おはしょり(特に帯の下)がめくれ上がっていないように気をつけてくださいね。
☆階段
右手で軽く着物の前を持ち上げましょう。着物の裾が階段に触れないように、また、後ろ足のふくらはぎまで見えないように注意します。少しだけ屈むようにしたり、体を少し斜めに向けて上り下りするようにすると楽になります。
☆手を上げる
うっかり手を上げて、腕が丸出しに、というのは着物を着ている時はできるだけ避けたい行動の一つです。しかし、電話をしたり、電車でつり革などにつかまったり、タクシーを呼んだり、と手を上げることはなかなか多いものですので、注意しておきましょう。手を大きく上げることが多いと、脇が緩んできて着崩れしやすくなります。腕を上げる時には、袖口が下がりすぎないように、反対の手を添えましょう。また肘を軽く曲げるようにすると美しくなります。
Case3. お出かけ
☆荷物
荷物を持つ時は、できるだけ左手で持つようにしましょう。
荷物や物を取る時は、反対の手で袂(たもと)に添えるようにすると、袂が何かを引っ掛けてしまうことを防ぐことができます。床などにある物を取る時には、一旦しゃがんでから取るように心がけましょう。しゃがむ際には、左手で着物の前側を少し持ち上げて、右足を軽く引いてからしゃがむようにするのがポイントです。座敷などでは膝をついた方がスマートに見えます。袂が床につかないように気をつけましょう。
☆車
車は、普段とは違い、お尻から入ると覚えておきましょう。
まずは右手で着物の前側を持ち上げます。裾が乱れないようにお尻から入って、シートに腰を下ろします。次に、片手で袖を持ち、体をくるりと回して正面を向き、最後に足を入れます。
シートに座ったら、帯が潰れないように浅めに腰かけましょう。揺れて体勢を保つのにアシストグリップ(窓の上についているつり革のようなもの)につかまると楽になります。
降りる時は、乗る時と逆の流れになります。袖を忘れて汚してしまわないように注意してくださいね。
参考
一般財団法人 民族衣装文化普及協会