江戸時代に作られた『暦便覧』に「冬の気立ち始めて、いよいよ冷ゆればなり」とあるのが「立冬」です。木枯らし1号が観測され、寒冷地では大地が凍り始める冬の初めですが、春を感じさせるような暖かい小春日にはやさしさとぬくもりを覚えます。すこしずつ、すこしずつ冬へと進むその始まりが今日の「立冬」といえましょう。私たちの生活を見まわしてみると冬というよりは、晩秋を楽しむ時季といった方がしっくりくるかもしれません。色づき始めた木々を見上げると、透けてさしこむ日ざしにまだ眩しさが残っていることを感じ、ホッとすることもあるのではないでしょうか。さあこの季節の風物を探してみましょう。
「吹き寄せ」まだまだ晩秋の風情を感じたい!
吹く風に寄せられた色とりどりの木の実や落ち葉、だれも何もしていないけれど「なんだかきれい!」そんな自然が生み出した美しさを切り取ったことばが「吹き寄せ」。冬の始まりの景色です。紅く染まった楓、黄色くなった公孫樹(いちょう)、緑のままの松葉、転がっている松ぼっくりなどを型で抜いた和三盆糖の干菓子は、季節の手みやげにもぴったりです。お菓子だけではありません、煮物や揚げ物など季節のものをいろどりよく盛り合わせれば、夕食のテーブルに季節の華やぎが加わります。立冬とはいえ、今年は遅くやって来た秋をもっともっと楽しもうではありませんか。
冬を告げる花は? 「山茶花」が咲いていますよ
秋から冬へと向かう季節に、ひときわ華やかな赤い花をつける山茶花は、町行く人を元気にしてくれます。童謡「たきび」には、山茶花の咲いた道でのたき火がうたわれていますね。北風が吹いても元気な子どもの声、たき火にあたって共有するぬくもりの幸福感が、山茶花の明るさとともに感じられます。
「山茶花の金の蕊病癒えしかな」 石田波郷
波郷は戦争中に結核を患いその後は病と対峙しつつ句作を続けました。波郷が山茶花に見た生命力を感じる1句は、ふだん何げなく生活できることをありがたいな、と気づかせてくれるのです。
ところで、山茶花と椿は区別が難しいですよね。現在ではどちらも多くの品種ができて、その区別は一概にはいえないそうですが、通常花ごとポトリと落ちるのが椿、花びらがハラリハラリと散っていくのが山茶花といわれています。そういわれてみると、山茶花の花には柔らかな風情があるような気がしますし、椿は寒さの中に凜とした姿で春を告げる花だな、と感じられます。
ぬくぬくとあったまる「焼き芋」これからの季節の定番です
芋の種類もさまざまに増えて、最近は焼き芋がとても美味しくなっているようです。スーパーでも焼き芋専用機でよい香りを漂わせていることがありますが、気づかれていますか。いつでも手軽に買えてありがたいですね。季節感といえば、やはり煙突から煙を出しながらリヤカーを引いているおじさんの「い~しや~きいも~」の声に走って行って買う焼き芋が懐かしい、という方もいらっしゃるでしょう。リヤカーが小型トラックになり、公園の入口で夕方になると止まっていてくれるいつもの焼き芋やさん、通りすがりについつい買いたくなってしまう、そんなスタイルもまだまだ見られるようです。「寒いね」っていいながら、どれにしようか迷い「ちょっと大きいのを」なんていって焼け焦げのついた軍手で取ってもらう1本。「おまけだよ」と小さいのを1本入れてくれたときの人なつっこいおじさんの顔。やっぱりスーパーやコンビニにはない楽しさ、心もあったまります。
さあ、今日は1本買って帰りましょうか。