10月も半ばを過ぎました。日が暮れるのが早くなり、これからはますます夜が長くなっていきますね。10月24日からは二十四節気の「降霜」。初霜が降りる頃の意で、「立冬」前の秋の最後の節気です。
さて、今回の俳句の心得は、「小さく詠んで大きく響かせる」です。
ご存じのように俳句は省略の文学ですので、言葉をできるだけ削ります。ここでは〈省くことから美がはじまる。省くほど豊かになる〉。というのです。つまり、小さなものに焦点をあてることによって季語の広がりが描けるというもの。
例句〈パレットに緑の風の溶かれをり 黛まどか〉
俳句をたしなまなくても、知っているとちょっと得意、おまけにボキャブラリーも増える、そんな古語の世界を少しだけご紹介しましょう。
わかると楽しい古語「い 行 動詞・形容詞・副詞編」
前回より動詞・形容動詞など、ワンランク上の古語をご紹介しています。ほぼ日常生活では使わないけれども、どこかで見たことがある、聞いたことがあるという言葉があるかもしれませんよ。
今回は「い 行」の動詞・名詞・副詞です。
最初に例句を挙げますので、意味を感じ取ってみてください。
1 「いくばく」〈副〉
〈余命いくばくかある夜短し〉正岡子規
2 「いさよ・ふ」〈動四〉
〈やすやすと出ていさよふ月の雲〉松尾芭蕉
3 「いつしか」〈副〉
〈いつしかに春の星出てわれに添ひ〉中村汀女
4 「いとけな・し」〈形ク〉
〈遠雷や睡ればいまだいとけなく〉中村汀女
5 「いとど」〈副〉
〈酒飲めばいとど寝られぬ夜の雪〉松尾芭蕉
6 「いとほ・し」〈形シク〉
〈いとほしや人にあらねど小紫〉森 澄雄
7 「いぶかし・む」〈動四〉
〈一粒の種の仔細をいぶかしみ〉中村汀女
8 「いまだ」〈副〉
〈秋いまだ草の根白く水の中〉宇田喜代子
9 「いみ・じ」〈形シク〉
〈いみじくも湧ける水かな芭蕉林〉森田 峠
10 「いよよ」〈副〉
〈星出でていよよ茅の輪の匂ふかに〉永井東門居
答え合わせで言葉の意味を知ろう!
今回は副詞が多かったですね。句と照らし合わすとわかりやすいかもしれません。
1 「いくばく」(幾許)
意味:どのくらい、どれほど、「か」をつけて若干。
〈余命いくばくかある夜短し〉正岡子規
2 「いさよ・ふ」(猶予ふ)
意味:ただよう、ためらう。十六夜(いざよい)の語源。
〈やすやすと出ていさよふ月の雲〉松尾芭蕉
3 「いつしか」(何時しか)
意味:いつのまにか、もう。
〈いつしかに春の星出てわれに添ひ〉中村汀女
4 「いとけな・し」(幼なし)
意味:幼い、あどけない。
〈遠雷や睡ればいまだいとけなく〉中村汀女
5 「いとど」
意味:ますます、いっそう。
〈酒飲めばいとど寝られぬ夜の雪〉松尾芭蕉
6 「いとほ・し」
意味:かわいそうだ、かわいい。
〈いとほしや人にあらねど小紫〉森 澄雄
7 「いぶか・しむ」(訝しむ)
意味:きがかりに想う、不審に思う。
〈一粒の種の仔細をいぶかしみ〉中村汀女
8 「いまだ」(未だ)
意味:まだ、今でも。
〈秋いまだ草の根白く水の中〉宇田喜代子
9 「いみ・じ」
意味:並々でない、すばらしい。
〈いみじくも湧ける水かな芭蕉林〉森田 峠
10 「いよよ」(弥)
意味:いっそう、ますます。
〈星出でていよよ茅の輪の匂ふかに〉永井東門居
(参照:俳句のための古語辞典 株式会社学習研究社/広辞苑/合本俳句歳時記/俳句開眼100の名句 ひらのこぼ・著 草思社)
使い慣れれば便利な古語
いかがでしたか? 言いたいことが明確になり、格調を高めることができるのが古語だと少しはわかっていただけましたでしょうか。
古語を使いこなすのは容易ではありませんが、数年続ければある程度の言葉がわかるようになります。言葉の世界の奥深さを体感できることでしょう。
「かっこ面白い古語と俳句の世界」これからもお付き合いください。