新米が出まわる時期となり、栗、松茸、さんまなど、日本を象徴する繊細な味わいの食材が次々と旬を迎えています。
食欲の秋本番のいまは、とりわけ和食に心動かされる機会が多くなりますが、今回は一緒にテーブルを囲むの人との調和を図りつつ料理を楽しむための、意外と学ぶ機会の少ない和食のテーブルマナーについてご紹介しましょう。
何気ない「おしぼり」や「箸」の使い方、それはもしかしたら間違った所作かもしれません。自分の所作を振り返りながら、記事を読んでみてくださいね。
奥ゆかしさの美学 意外と多い懐石料理と会席料理の間違い
洋食のレストランでは、お店に入る時や着席時などの場面ではレディーファーストが主流ですが、日本料理店においては「主人」=男性が先に立ち、女性は奥ゆかしくその後ろををついていくのが正しい作法とされています。
ちなみに「懐石料理」「会席料理」ですが、どちらも「かいせきりょうり」と読みますね。でも、それぞれの意味、違いをご存じでしょうか。ここで整理しておきましょう。
●懐石料理
茶道の世界で、お茶を楽しむ前に振る舞われていたものがルーツです。
一汁三菜が基本で、メインであるお茶の邪魔にならないような少量かつシンプルな料理のことを指します。
●会席料理
俳句などの会席で振る舞われていた本膳料理を簡略化したものです。
コース形式で品数が多く、お酒を楽しむために構成された宴会向けの料理です。
「懐石」の漢字のほうが普段使わない物珍しい感覚からか、高級料理店や結婚式のメニューにも「懐石料理」が使用されていることが多いですね。でも、きちんとその意味を知ると、少量かつシンプルな料理でない場合の正しい表記は、「会席料理」であることがわかりますね。
実践的食事マナーあれこれ「おしぼり」「箸」
一般的なコース料理にあたる会席料理のマナーの一部をご紹介します。
ひとつめはおしぼりです。
席に着くとまず置かれているに気づきます。このおしぼりは、手を拭くこと以外に使うのはNGとされています。つまり、顔や首を拭いたり、テーブルなどを拭くのはとても恥ずかしい所作になるため、手を拭いたら元の場所に戻すようにしましょう。
次に箸(はし)です。
会席料理では、出された順に箸をつけ、食べ終わっていなくても運ばれてきた料理にはまず一度箸をつけ、そのあとで、残っているものをゆっくり食します。
また、和食のコース料理につきものである刺身を食す時は、しょうゆにわさびを溶かす所作が美しくないとされるため、わさびは刺身に直接少量をのせてからしょうゆをつけます。
箸に口をつけるときは、箸先の3センチ程度までにとどめることで、美しさの演出につながります。
箸使いについてのタブーにはさまざまなものがありますが、たくさんの料理が並ぶ中、同じ種類ばかりに手をつける「重ね箸」や、食器の上に箸を置く「渡し箸」などは、うっかりやってしまいがちなので注意しましょう。
いちばん大切なマナーとは……
料理に使われているさまざまな食材の数々。これらは一朝一夕にこの世に生まれたものではありません。農家を漁師の人々をはじめ、実にたくさんの人の手によって素晴らしい料理を楽しむことができています。
その食材にかかわった人々に感謝の心を持って、大切に食すことが最大のマナーではないでしょうか。
ちなみに、食事をするときはなるべく多く咀嚼(噛む)することが、体にとってもよいとされていますが、「30回ありがとう咀嚼法」をご存じでしょうか?
「ありがとうございます」は、文字にするとちょうど10文字になりますが、食事中にものを口に入れたら、「あ」で一回咀嚼し、「り」で一回咀嚼し……と続けていき、頭の中で「ありがとうございます」を3回繰り返すと、簡単に30回咀嚼できることになります。
私たちが日常でよく使う「ありがとうございます」の言葉を、毎日の何気ない食事に取り入れれば、食材への感謝につながりますし、食材を提供してくれた人や料理を作ってくれた人への感謝につながります。そう考えると、とても素敵な咀嚼法だと思いませんか。
── おいしいものが盛りだくさんの季節だからこそ、美しいテーブルマナーや所作をさりげなく取り入れながら、素敵な時間を過ごしたいものですね。