「啓蟄」少し字が難しいですよね。「啓」はひらく「蟄」は隠れることです。七十二候では第七候「蟄虫啓戸(すごもりむしとをひらく)」と書きます。冬の間土の中にこもっていた虫が戸を開いて外に出てくるようなあたたかさの到来ということですね。まだまだあったかいコートを手放すわけにはいきませんが、脱ぎたくなるような日もときおりあります。そんな日にはいよいよ春がやって来る喜びが湧いてきますよね。外へ! 一歩でてみましょうか。
土の下から出てくるのは虫だけではありません
大地の中で静かに芽を出すのを待っている春野菜たち。繊細な味わいの中に生命力たっぷりの栄養をたくわえているのは、冬の寒さを乗り越えたからこそです。ふき、タラの芽、こごみ等々。なんといってもこの時期にしか食べられない野菜ばかりです。春野菜の特徴はなんといっても「苦味」です。子供の頃「春の苦味をしっかり食べておけば一年元気にすごせるから」といって食べさせられたものです。子供にとっては美味しいものではありませんね。この苦味に春を感じて美味しいと思えるようになったら大人、ということでしょうか。
春野菜の苦味成分は「植物性アルカロイド」が元になっているということです。その働きは老廃物を排出する解毒作用、新陳代謝の促進です。厚着をしていた冬から春の装いへ、虫が土から這い出すように私たちの身体も動きだす時。春の苦味に助けてもらいませんか。
「椿」は寒さの中の華やかないろどりです
艶のある緑の葉の中に咲くあざやかな紅い椿の花は、冬の寒さの中にあたたかさと華やかさを与えてくれます。冬から春をとおして長く楽しませてくれる花ですね。古くから家々の庭に植えられ親しまれてきました。花が首からポトッと落ちることから武士には嫌われていた時代がありましたが、愛らしさから着物や帯の柄に文様として取りいれられたり、平安時代は十二単の襲色目にも「椿」があります。「素襖(すおう)」の表に「赤」の裏を配して色の重なりのグラデーションを楽しんでいたんです。椿の愛らしさや華やかさは上生菓子にも意匠考案され、季節の定番としてお茶席などでもよく見かけます。光にあふれる明るさは嬉しいものですね。
活動開始は虫や野菜だけではありません!
大地からは虫が這い出し、苦味を持った春野菜も芽吹いてきます。そして空からは餌が増えたことを察知した鳥たちが活動を活発にしいてきます。
「雀の子そこのけそこのけ御馬が通る」 一茶
「巣立ちたる雀に初の雨降る日」 上村占魚
「囀りや根雪の上を水流れ」 石原八束
俳人の目と耳は小さな雀の姿や囀りの声を逃しません。春は大地と大空からすこしづつやって来ていますよ!