今年もインフルエンザが流行中! マスクが手放せない方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。そんななか、医療機関でも利用されているという「ダチョウマスク」をご存じですか? ダチョウの卵から取り出した抗体をマスクに塗ることで、インフルエンザなどのウイルスや細菌の感染予防、また花粉症などにも大きな効果があるのだそうです。ところで、ダチョウのあの大きな卵って、食べて美味しいのでしょうか…大きな卵を料理するといえば、多くのこどもたちの憧れ、『ぐりとぐら』の巨大カステラ! もしや、あれもひょっとして…!?
ダチョウの生命力が不死鳥なみにスゴイらしい‼︎
ダチョウは、現在生きている鳥類のなかでもっとも大きな鳥です。とはいえ、空を飛ぶことはなく、サバンナを高速で走りまわって暮らしています。もはや4本足なのでは…と思うくらい、いろいろ鳥らしくない生活ぶりのようです。
鳥さんは日頃から、熱心に毛繕いしていつも身ぎれいにしているもの。小さな体でも絶滅せず生き残れたのは、こんなふうに本能的に病原菌を排除してきたからだろうといわれています。ところがダチョウさんの場合は、汚れたら汚れっぱなし! 顔に糞がつきっぱなし!「身ぎれいに」などという教えは、重さ40gの脳内にはインプットされていない様子なのです。それどころか、重病や大ケガにさえ無頓着⁉︎
じつはダチョウは、不死鳥なみの回復力と免疫力の持ち主だったのです。ある日グッタリして「これはヤバいかも?」と思われたダチョウが、数日後にはモヤシをもりもりと食べまくっていたり、そのまま死んでもおかしくないほど血だらけ(ダチョウは不注意なのでしょっちゅう大ケガをするようです)なのに、痛そうな素振りも見せず、気づけば自然治癒していたり…ケガをしても、細胞が他の動物よりはるかに速いスピードで増えていくので、傷口の皮膚がみるみる再生してしまうというのです。ウイルスなどの感染にもたいへん強く、「不潔で不注意なのに長寿」という、スーパー鳥類なのでした!(人的には微妙かもしれませんが…)
そんな「ダチョウ力」に注目した塚本康浩博士によって開発されたのが、「ダチョウマスク」です。ダチョウの卵黄から抽出した抗体をマスクに塗ることで、ダチョウの免疫力が炸裂! ウイルスや花粉の侵入を防ぐことができるというわけですね。新型インフルエンザやノロウイルス、エボラ出血熱、アトピー性皮膚炎、またガンの治療薬などをつくる研究も期待されています。長生きしてたくさんの大きな卵を産むダチョウ。ダチョウの卵1個からは、マスク8万枚分もの抗体が精製できるといいます。ラットやウサギでは考えられないほど大量に、リーズナブルに抗体がつくれるのですね。将来、パンデミックなどでピンチになった人類を、ダチョウとその大きな卵が救ってくれる日が来るかもしれません。
ぐりとぐらの家に巨大なお鍋があった理由とは…
「大きな卵」といえば「ぐりとぐらのカステラ」♪ という方も、きっといらっしゃることでしょう。絵本『ぐりとぐら』(1963年)に描かれている、大きな卵で作った巨大な、黄色いふわふわのカステラ。こどもの頃の憧れからレシピやカフェメニューも生まれていて、大人の世界でもなお「憧れの食べもの」になっているようです。
このよでいちばんすきなのは
おりょうりすることたべること
野ネズミの双子兄弟、ぐりとぐら。ある日大きなカゴを持って「ぐり、ぐら、ぐり、ぐら」と歌いながら森を歩いていくと、道の真ん中に大きな卵が落ちていました。2匹は、すぐさまメニューを相談(中にヒナが…などと考える暇はないほど、料理人または野生の血が騒いでいるようです)。カステラをつくることに決めたのですが、卵を持ち帰るのは無理そう。そこで、拾った場所にかまどをつくりアウトドア調理をすることに! 急いで自宅から特大の鍋などを運んでくると、苦労して卵を割り、泡立ててカステラを仕込みます。歌いながら焼けるのを待っていると…匂いにつられて、動物たちがわらわらと集まってきました。2匹はみんなに気前よくごちそうします。そのおいしかったこと! そして残った卵のカラで車をつくり、乗って帰るというお話です。
作者である中川李枝子さん(文)と大村百合子さん(絵)は、実の姉妹です。
保育園に勤めていた李枝子さんは、こどもたちに『ちびくろさんぼ』のホットケーキよりもっと美味しいものをごちそうしたいと思い、卵の入ったカステラにしたのだそうです。ぐりとぐらは、自分たちが料理されてしまいそうなサイズの鍋を、自宅に備えていました。「自分の体が埋もれるほど」巨大な好物を食べること(たとえば、プリンの中を泳ぎながらチュルチュル吸うとか)は、こどもなら誰もが夢見ることでしょう。2匹は、それを何度も実行済みだったのかもしれませんね。そして、ホットケーキは枚数を競って食べる感じになるけれど、鍋の中身を分け合うカステラは…「同じ釜の飯を食う」日本人(獣)の心情にぴったりのような気もします。
おふたりとも若い頃フランス語を習っていて、「ぐり」「ぐら」の名もフランスの絵本をヒントにしたものなのだとか。当時「野ネズミ」を描いたことがなかった百合子さんは、博物館の研究室の標本から、外国にいるオレンジ色の小さくてきれいなネズミを選んで、絵を描いたのだそうです。「ネズミ色」ではない野ネズミは、こうして生まれたのですね。2匹はそれぞれ青と赤のイメージカラー(パリっぽい?)で持ち物を区別。50年以上前の日本とは信じられないおしゃれさんです。シンプルなスローライフがお好みの方は、ぜひ大人の目で眺め直してみてくださいね!
ダチョウの卵の食べ方は♪ そもそも美味しいの?
ダチョウの卵は、なんとニワトリの卵の約20〜25倍の大きさ。ぐり・ぐらのサイズと比較すると、やっぱりあれはダチョウの卵…⁉︎ ところで、ダチョウの卵ってどんな食材なのでしょうか?
ぐり・ぐらは、割れてしまうのを恐れて卵を持ち帰るのを断念しましたが、ダチョウの卵はかなり頑丈なようです。人間が割るにも、手では無理。ハンマーでトントン叩いてヒビを入れながら上部に穴を開ける必要があります。そんなカラからヒナは出てこれるの⁈ と心配になりますが、内側からは多少割れやすかったり、ヒナの口がそれ仕様(突起つき)になっていたりで、半日くらいがんばって脱出しているようです。ゆで卵にしたら、中まで熱が伝わるのに長い時間が要りそうですね…。
割ると、黄身も大きいですが白身のあまりの大量さにビックリ!! 目玉焼きでは白身が固まるのに数十分かかります(調理器具によって変わります。加熱によってはグミのような食感になることも)。ぐりは、ネズミの手におさまる小さな泡立て器を使って立派なカステラをつくりましたが、お菓子をつくる場合も、粘り気のある白身をしっかり泡立てるのはなかなか大変なようです。
何にせよ、抱えてみたり割ること自体がイベント。混ぜて巨大玉子焼きや巨大オムレツにするだけで充分堪能できますし、分けやすいと思います。もちろん、ぐり・ぐらのように腕に覚えのある方は、ぜひ巨大カステラづくりに挑戦してくださいね♪ 気になる卵のお味は…親鳥のイメージや見た目のインパクトに反して、鶏卵よりあっさり! 大きさを楽しみつつ、お子さんやご高齢の方もペロリと食べやすい優しさなのです。
ダチョウは環境適応力も高いようで、北海道から沖縄まで日本各地で飼育されています。卵とともに、ヘルシーさで話題のダチョウ肉を味わえる牧場もありますよ。通販では、ダチョウの卵はホームパーティーなどのびっくりメニューとしても人気だそうです(卵のカラだけ販売されていることも…車をつくっても乗れないサイズの方には、アート系がおすすめ。陶器のような質感なので、アロマスタンドなどつくると素敵ですね)。食べてみた〜い!という方は、千葉県・茨城県の『ダチョウ王国』や沖縄県の『ダチョウらんど沖縄』など、ダチョウ牧場の公式サイトもぜひチェックしてみてはいかがでしょうか。ダチョウの卵、知られざる魅力がまだまだありそうですね!
《参考文献・サイト》
『ダチョウ力』塚本康浩(朝日新聞出版)
『ダチョウ抗体マスク 公式サイト』
『ぐりとぐら』中川李枝子と大村百合子(福音館書店)
『ぼくらのなまえはぐりとぐら』福音館書店「母の友」編集部 編(福音館書店)
『福音館書店 公式サイト』