秋の夜長に、月を見ながら楽しみたいワインがあります。月の満ち欠けに基づく神秘的な農法「ビオディナミ」を取り入れたワイン造りが、今脚光を浴びています。
世界中で減農薬・有機農法にシフト中のワイン業界。オーガニック認証を取得することがワイナリーのブランド価値を高め、売り上げを左右するほど。日本でも「自然派ワイン」が身近な存在になってきましたね。
ビオディナミは、究極の自然派ワイン造りに欠かせないといわれ、あのロマネ・コンティをはじめ名だたるワイナリーが取り入れています。
「自然派」「オーガニック」「ビオ」。言葉の意味と違いって?
自然派ワイン、ヴァン・ナチュール、オーガニック・ワイン、ビオ・ワイン。有機栽培など自然の力を引き出す製法で造られたワインを指す言葉がいくつか見受けられますが、それぞれどんな違いがあるのでしょうか。まずは、ちょっとわかりにくい、新潮流の用語を整理してみましょう!
◆自然派ワイン(=ヴァン・ナチュール)
化学肥料を使わずに有機栽培したぶどうを使用し、さらに天然酵母で発酵させたワインのこと。亜硫酸塩(SO2)を添加しないか、できるだけ少なく添加。ヨーロッパでは「ヴァン・ナチュール(Vin Nature)」といいます。
◆オーガニック・ワイン
有機栽培で育てたぶどうを使用したワイン。亜硫酸塩の含有量を従来のワインより少なくするなどの規定もありますが、化学物質の使用や工業的生産方法が緩和されている面もあります。
◆ビオ・ワイン
「BIO(ビオ)」と「ワイン」を組み合わせた造語。有機栽培、有機加工食品を指す「ビオ」から、有機栽培のぶどうを使って造られたワインのことを指します。自然派ワイン、オーガニック・ワインの総称として、日本のみで使用されているようです。
有機栽培のぶどうを天然酵母で醗酵させ、極力添加物を排除したワインを表現するには、「自然派ワイン」「ヴァン・ナチュール」が最適といえそうですね。
知っておきたい!自然派ワインの3つの製法
自然派ワイン造りには、主に3つのぶどうの栽培方法があります。ビオディナミはそのひとつにあたります。それぞれの特徴を確認しましょう。
1.リュット・レゾネ(lutte raisonnée 減農薬農法)
化学物質をできるだけ抑制した栽培方法。
2.ビオロジック(biologique 有機農法、オーガニック)
化学的に合成された肥料・農薬・除草剤を使わない農法。鶏糞や羊糞などの有機肥料を使用し、遺伝子組み換えや放射線処理も禁止されています。
3.ビオディナミ(biodynamie 生体力学農法)
英語では、バイオダイナミック(biodynamics)。ビオロジックであることを基本に、天体の運行に合わせ、自然物質を調合した肥料を用いて、自然の潜在能力を引き出す農法。
究極の自然派ワイン!「ビオディナミ」と月の満ち欠けの関係
ビオディナミは、シュタイナー教育で有名なオーストリアの人智学者ルドルフ・シュタイナー(Rudolf Steiner 1861年2月27日 ~1925年3月30日)が提唱した理論に基づいて生まれた農法。月や星座など、宇宙の法則を反映した特別な栽培方法で知られています。
ビオディナミ農法の根底には、「全ての生命は、地球上で完結しているのではなく、地球を含む宇宙の営みからも影響を受け、調和しながら生きている」という思想があります。植物は天体の動きに影響を受けているという考えから、「播種(はしゅ)カレンダー」という星の位置などを記した種まきカレンダーを使用します。そこには、月の満ち欠けに基づいたぶどうの種蒔きや収穫、瓶詰の時期、さらにワインの熟成用に使う樽のオーク材の伐採日などが事細かに記されています。
もうひとつの特徴は、「プレパラシオン(preparation 調合材)」と呼ばれる肥料の使用方法です。牛の角や糞、水晶の粉、たんぽぽの花や樹皮など、数種の素材を独自の方法で調合・加工し、土地に散布することで土壌を活性化させます。その土地が持つ力に働きかけ、本来のエネルギーを最大限に引き出すよう環境を調えるのです。
こうして栽培されたぶどうから造られるワインは、総じてなめらかで穏やかな味わい。みずみずしい果実味があり、淡い色合いが特徴です。生命力にあふれるスピリチュアルなワインを、秋の夜空に輝く月を眺めながら味わってみてはいかがでしょうか。
参考文献
アントワーヌ・ルプティ・ド・ラ・ビーニュ/星埜聡美 訳『ビオディナミ・ワイン 35のQ&A』白水社 2015
参考サイト
神の雫