秋はしっとりと落ち着いたおとなのたたずまい。秋の味覚はもちろん、読書、芸術、行楽など、秋の深まりとともにいろいろなことを楽しみたいものですね。
11月解禁のボジョレーヌーボーには早いけれど、黒味を帯びた赤……ワインレッドは秋にピッタリの色。秋こそ、芳醇(ほうじゅん)なワインの魅力を満喫しようではありませんか。
そこで今回は、秋こそ楽しみたいワインの魅力、うんちく、裏ワザ……をご紹介します。
「ワインはキリストの血」──奥深いワインの歴史
聖書やギリシア神話に登場する葡萄酒(ぶどうしゅ=ワイン)。
ことに聖書では、イエス・キリストが最後の晩餐(ばんさん)で弟子たちに、葡萄酒を「わたしの血」と言ってふるまいます。そんなわけで中世ヨーロッパでは、ワインは「キリストの血」として神聖で貴重なものとされてきました。
日本に初めてワインが伝わったのは室町時代の後期、「珍蛇(チンタ)」という酒を飲んだと記された文献があります。「珍蛇(チンタ)」とは、スペインやポルトガルの赤ワインを指すようです。
また1549(天文18)年に、キリスト教の布教のため鹿児島に訪れた宣教師フランシスコ・ザビエルがワインを大名に献上しています。キリスト教を受け入れた織田信長も「珍蛇(チンタ)」を喜んだとか。
江戸時代、生食用、加工用のブドウは現在の山梨県を中心に広まっていました。それをワインとして加工し始めたのは、明治政府が殖産興業の一環としてワイン造りを推奨したのがきっかけ。日本で初めて国産ワインを製造したのは1870(明治3)年、山梨県甲府市でした。今も甲府は国産ワインの名産地ですね。
日本のワインブームの変遷。現在は第七次ワインブーム!
拡大を続ける日本のワイン市場ですが、1970年代以降、いくつかのワインブームに区分されます。
•1972年頃 第一次ブーム:外国産ワインの輸入自由化による、本格テーブルワインブーム
•1978年頃 第二次ブーム:「サントリーレゼルブ」などの1000円ワインブーム
•1981年頃 第三次ブーム:低価格一升瓶ワインなどの地ワインブーム
•1987~90年頃 第四次ブーム:バブル期のボジョレーヌーボー、高級ワインブーム
•1994年頃 第五次ブーム:「デリカメゾン」などの500円低価格ワインブーム
•1997~98年頃 第六次ブーム:ポリフェノール効果による赤ワインブーム
そして2012年からは、第七次ワインブームに入ったと言われています。
国税局の「酒類販売(消費)数量」によると、2012年のワイン出荷数量は、第一次ワインブームの約35倍、また最大のワイン消費量を記録した第六次ブームをも超えた数量となっています。
低価格ワインをグンと美味しくする裏ワザをご紹介!
高級ワインとして名を馳(は)せるロマネコンティのビンテージワインが、シングルボトル(750mL)一本、オークションで500万円ほどで落札されるそうです。ワインの魅力ははかり知れませんね。
気取ったワインもいいけれど、コンビニやスーパーでも品数豊富、厳選したワインが手軽に買えるようになりました。ワンコイン(500円)で買えるワインでも、なかなかあなどれません。
高級ワインの売れゆきが停滞しているのに対し、低価格ワインの品質は昔に比べ格段に向上しているそうです。
低価格ワインを、もっと美味しく……!
そんなコンセプトで手軽にトライできる裏ワザをご紹介しましょう。
【低価格ワインを、美味しくするためのポイント】
・買ってから最低、一日は静かな場所で落ちつかせる。
・一度コルクを開けてから再度コルクをしめ、ワインを瓶ごと振ってみる。
・割りばしをビンの中に入れる。木の香りの強い割りばしを1~2本入れてコルクをし、10分待つ。
・温度調整(クッキング温度計があると便利)
・ワイングラスにこだわる。自分好みのグラス、また、ワイングラスの飲み口の縁(ふち)の部分が薄いもの。
上記に〈低価格ワインを、美味しくするためのポイント〉をご紹介しましたが、ワインには次の特性があります。それを理解していると、美味しく飲むコツがわかるはずです!
【ワインの特性を知ると、もっと美味しくなる!】
・ボトルが揺れた後だとワインそのものが荒れていて、本来とは別物のワインになっている。
・ワインは空気に触れることで酸化が進み、旨味が高まる。
・ワインは樽(たる)の中で熟成させるので、美味しく熟成されたワインはほんのりと樽の木の香りがする。ならば、木の香りを割りばしでつけてやろうというもの。
・ワインは温度がわずかに変化しても、味も香りも大きく変化する。
・ワイングラスとはワイン自体のパワーを花開かせ、より美味しくより味わい深く感じさせる効果を持つ。また飲み口の縁(ふち)の部分が薄いほど、摩擦が少なくなり美味しく感じる。
低価格ワインが「こんなに美味しいの!?」と感動できれば、それだけでハッピーになれますね。試してみる価値ありではないでしょうか?
ワインは生き物?〈開く〉〈閉じる〉の言い回しの意味とは?
ワインには〈開く〉〈閉じる〉という言い回しがあります。
まず、〈閉じる〉についてですが、熟成が足りていないワインは、コルクを抜栓した直後、
・酸味がきつい
・香りが少ない
・渋みが強い
など、口当たりが悪く、飲みにくい状態のケースがあります。これを〈ワインが閉じている〉と言います。
逆に〈開く〉については、上記のようなワインを酸素(空気)に触れさせると、
・酸味や渋みがまろやかになる
・さまざまな香りが出てくる
といった口当たりのよい、飲みやすい状態に変化します。
ワインではこうしたテイストの違いを〈ワインが開いた(開いてきた)〉と表現します。しかし〈開いている〉状態も長続きせず、閉じている⇒開く⇒終わる(香りも味わいもなくなる)時間が早いので、開封した後に〈開いた〉状態になったら、時間を置かずに(その日のうちに)味わい尽くすことが美味しく飲むコツになります。
飲み口・テイストごとの「ワインの美味しい温度」とは?
ワインには、その魅力を最大限に引き出す飲み頃の温度があります。
それを最後にご紹介しましょう。
【飲み口・テイストごとの「ワインの美味しい温度」】
・飲み口が軽いタイプの赤ワイン → 14℃から16℃くらい
・しっかりとしたコクがある重いタイプの赤ワイン → 16℃から18℃くらい
・白ワイン → 10℃くらい
まるで生き物であるかのようなワインの底知れぬ魅力は、知れば知るほど面白いもの。多くの人を惹き付けてやまないのも納得ですね。
ただし、ワインの適量は、アルコール14度の場合、1日180mL。ビールや酎ハイのようにゴクゴク……とはいきません。ワインを適量飲むことによって寿命が延びるという研究結果もありますが、過ぎたるはなお及ばざるがごとし。できれば週に2日の休肝日を設けるなどしてくださいね。
── ワインをグラスに注ぐ音……色、香り、味わい……。
コルクを抜く手間……さえも楽しみながら、この秋、ゆったりと時間を紡(つむ)いでみるのはいかがでしょう。