和菓子は季節感を大切にするお菓子です。3月になると和菓子店には春らしく桜餅が並びます。ところで、桜餅といわれて思い浮かべるのは、ピンクの皮であんこを巻くタイプ? それとも、モチモチの道明寺粉であんこをくるむタイプ? あなたの地域では、どちらを桜餅と呼びますか?
一般的に、関東ではピンクの皮を巻いた長命寺、関西ではツブツブの生地であんこをくるむ道明寺を桜餅と呼んでいて、不思議なことに、どちらにも寺の名前が使われています。ただ、なぜか北海道では、桜餅というと関西の道明寺を指します。なぜ、関東を飛び越えて北の大地が関西風なのでしょうか?
関東風の長命寺桜もちは、水溶きの小麦粉を焼いて巻く。江戸時代からの味
関東で桜餅といえば、小麦粉を水で溶いて焼いたクレープ状の皮であんこを巻く、または挟むタイプを指し、これを「長命寺」と呼びます。そして、関西風の桜餅を桜餅とは呼ばず、「道明寺」と呼んで区別しています。
東京都墨田区の向島には天台宗の長命寺があり、1717年(享保2年)、山本新六という男が長命寺の門前で、桜の葉の塩漬けを使った和菓子を売り出したのが長命寺桜もちの始まりです。今でも向島には山本新六が創業した「長命寺桜もち」という店があり、江戸の味を今に伝えています。
〈参考サイト:長命寺桜もち〉
関西風は、もち米から作られた道明寺粉でくるむ
道明寺粉は、もち米を水に浸した後、蒸して乾燥させ荒く挽いた粉のこと。大阪の藤井寺市にある真言宗の道明寺で最初に作られたことから、道明寺粉と呼ばれています。道明寺粉は1000年以上も前から流通していて、当時は「ほしいい」と呼ばれる携帯食・非常食でした。これを利用して作られた桜餅なので、関西の桜餅は「道明寺」と呼ばれます。
現在では道明寺粉は、桜餅以外ではおはぎや肉団子の皮などにも利用されますが、やはりメインは桜餅です。薄ピンクのツブツブ、ツヤツヤの皮は、餅のような粘りはありませんが、モチモチしていて美味。桜の葉の塩漬けと相性がよく、春らしい和菓子です。
北海道ではなぜか関西風が一般的。その理由は北前船
東京発祥の長命寺桜餅は、東北をはじめ、山梨、静岡、長野などに伝わりました。一方、関西の道明寺桜餅は、近畿をはじめ、北陸、四国、九州へと伝わりました。
ところが、北海道で桜餅といえば、なぜか関西風の道明寺桜餅が一般的です。地理的に考えると、関東風の桜餅が江戸→東北→北海道へと伝わりそうですが、どういうわけか関東と東北を飛び越えて、関西の道明寺が伝わりました。理由は、江戸時代の北前船による流通です。北前船は日本海を通って瀬戸内海と北海道を結ぶ交易手段です。事実、東北でも日本海側の地域では、関西風の道明寺を桜餅と呼んでいるところもあります。
桜餅を指す和菓子が関東と関西で違うとは、日本の歴史の奥深さを感じますね。あなたの住む地域では、関東風と関西風、どちらを桜餅と呼びますか?
桜前線が気になる季節になりました。この冬、大雪に見舞われた北海道では今もなお、道路の脇にうず高い雪山があり、まだまだ春が遠い感じですが、日差しの強さが増してきました。着実に春が近づいています。
桜の葉を使う桜餅は春にぴったりの和菓子。お花見に持って行きたくなりますね。ただ、関東の長命寺桜もちが、もち米も餅も使われていないのに、なぜか「餅」と呼ばれるのかは謎のままです。