昔から多くの食通たちを魅了してきた高級魚「フグ」。天然フグのシーズンは「秋の彼岸から春の彼岸まで」といわれていますが、とくに身が締まって充実した1~2月が最も美味しい旬の時季とされています。
最近はスーパーやデパ地下の鮮魚店、ネット通販でも、有毒部位を除いた処理済みのフグ(身欠きフグ)が手ごろな価格で購入できますので、ぜひこの機会に家庭でフグを堪能してみてはいかがでしょう。そこで今日は、いまが旬のフグにまつわる豆知識とともに、オウチで簡単に作れるフグ料理のレシピをご紹介します。
江戸時代から長く続いた「フグ禁止令」を解いたのは……あの総理大臣!
日本におけるフグ食の歴史は非常に古く、縄文時代の貝塚からもフグの骨が見つかっており、その当時よりフグを食べる習慣があったと推測されています。室町時代以降になるとフグ中毒による死亡者が続出し、「フグ禁止令」がたびたび出されましたが、隠れて食べる者も多かったようです。徳川秀吉の時代にも、朝鮮出兵に向かう武士たちがフグ中毒で次々と倒れ、それ以降、フグは長きにわたって食用が固く禁じられていました。
そして1888(明治21)年、江戸時代から続いたフグ禁止令を解いたのが、初代総理大臣の伊藤博文です。博文は日清講和条約の舞台となった下関の料亭でフグを特別に食し、この美味を禁じるのはもったいないと、山口県知事に命じて県内の禁止令を解かせました。
その後、フグの集積地となった下関は、身を極薄にそいで盛り付ける「フグ刺し(薄造り)」の調理法や、有毒部位を取り除く「身欠き」の技術向上・管理整備に力を入れ、全国屈指のフグの本場として知られるようになったのです。
超ヘルシー&旨み成分たっぷりなフグ。地方によってさまざまな呼び方も
白身魚の中でもフグは、低糖質&高タンパクで低カロリー(100gあたり84キロカロリー)なヘルシーフード。脂分がほとんどなく(脂肪分は約0.1%)、鍋物に入れても醤油につけても、その表面にまったく脂が浮いてきません。その分、アミノ酸・イノシン酸などの旨み成分を豊富に含んでいるため、さっぱりとした上品な甘さと、奥深い微妙な風味を堪能することができるのです。
トロなど脂の乗った魚が人気とされる中、その対極にある異次元の味わいこそが、食通を魅了してやまないフグの醍醐味ともいえるでしょう。
ちなみに、フグは地方によってさまざまな呼び方があるのをご存じですか。
下関や北九州では「福」につながるとして「ふく」と呼びます。
シャレ好きな大阪では「(毒に)当たると死ぬ」にかけて「鉄砲(てっぽう)」と呼ばれ、「てっさ(刺身)」「てっちり(鍋物)」という料理名もそれに由来しているそうです。
家庭で簡単・手軽に作れる、フグ料理のおすすめレシピ2種
専門店で味わう贅沢なフグ料理もいいですが、安全に処理した身欠きフグ(むき身)を使ってオウチで調理すれば、たっぷり堪能できてリーズナブル! ちょっとしたおもてなしメニューにもピッタリです。
【フグの唐揚げ/ホロリとした食感と香ばしさがクセになる一品】
●材料(2人分)
フグのむき身(350g)、片栗粉(大さじ4)、塩(少々)、サラダ油(適量)、ビニール袋(1枚)
●作り方
(1)フグのむき身をサッと水洗いして一口大のぶつ切りにします。すぐに塩を軽く振って10分ほど置き、出てきた水分をペーパーなどで拭きとります。
(2)ビニール袋に1のフグと片栗粉を入れ、袋に空気を入れて風船のようにふくらませ、袋を振ってまんべんなく片栗粉をまぶします。
(3)180℃に熱したサラダ油に、片栗粉をまぶしたフグを入れ、こんがりキツネ色になるまで揚げれば(3~4分程度)完成。
(4)お好みでレモンやスダチ、自然塩、ポン酢などをかけて召し上がれ!
《ワンポイント》
しょうゆ・おろし生姜などでフグに下味をつけて揚げたり、揚げ立てに大根おろしをトッピングしてもGOOD。アイデア次第で味のバリエーションも広がります。
寒い日は「てっちり湯豆腐」で決まり!
【てっちり湯豆腐/フグのダシが豆腐にしみこむ大人のシンプル鍋】
●材料(2人分)
フグのむき身(400g)、絹ごし豆腐(1丁)、日本酒(2カップ)、水(1カップ)、切れ目を入れた昆布(5cm角)、シメのご飯(適量)、溶き卵(1個分)、塩・しょうゆ(少々)
●作り方
(1)フグのむき身をサッと水洗いして食べやすい大きさに切ります。豆腐はやや大きめの角切り(八等分ぐらい)にします。
(2)土鍋に日本酒と水、昆布を入れて火にかけ、煮立ったら1のフグと豆腐を入れ、そのまま5~6分煮込んでフグに火が通れば完成。
(3)しょうゆやポン酢のタレに、ユズコショウやモミジおろしなどの薬味を添えてどうぞ。
(4)シメはやっぱりフグ雑炊! 鍋に残った汁(フグのダシが効いてます)を塩・しょうゆで軽く味付けし、ご飯を入れて煮立ったら溶き卵を回しかけます。鍋にフタをして、卵がお好みの固さになるまで軽く火を通します。
《ワンポイント》
お好みでネギや春菊などを入れても美味しいですが、フグと豆腐の絶妙なマリアージュを堪能するなら、具材はできるだけシンプルな方がGOOD。熱燗とともに味わえば、身も心もじんわり満たされること間違いナシです!