松の内は15日まで、という地域も多いようです。「幸せだったなぁ寝正月…でも、生きるためにはいつまでもだらだらゴロゴロしているわけにはいかないからね!」と、気持ちも新たにお仕事されている方もいらっしゃることでしょう。ところが、人間界より生存競争の激しい野性の森で、四六時中だらだらゴロゴロしている生きものが!? 「ナマケモノ」の呼び名は、海外でも同じ意味で名付けられているのだとか。世界に認められた怠けっぷりとは、いったいどんなレベル? まさか、トイレやごはんまで怠けてはいないですよね、野性だし。というわけで、念のため確認してみたところ…
動くのをなまけすぎて、体にコケが生えたり小さな生きものたちのお家にされたりしていた!!
ナマケモノには、前あしのカギ爪が2本ある「フタユビ(フタツユビ)ナマケモノ」と、3本ある「ミユビ(ミツユビ)ナマケモノ」がいます。フタユビは目がまんまるでツルっとした顔。ミユビは、いつもうれしそうに笑った模様の顔をしています。フタユビのほうがやや大きくて、やや活発です。
体格は、人間のあかちゃんと同じくらい。一日20時間以上寝ているところも似ていますが、ナマケモノったら起きているときも、ほとんど動きません。たいてい枝にカギ爪を引っ掛けてぶら下がっているか、お団子のように丸まっているだけ。たまに動いても超低速。雨に濡れればボロ雑巾状態…。筋肉がふつうの動物の半分くらいしかないため、太い幹にはつかまっていられないようです。こんな哺乳類が、弱肉強食の森を生きてゆけるのでしょうか?
それにしてもナマケモノの体、なんだか緑色っぽいような…? それは気のせいではなく、あまりに動かないため体の表面でコケが育っていたのです。緑がかったナマケモノは、木の一部みたいですね。そこへ蛾や甲虫など小さな生きものたちがやってきて、「みつけた♪ 私の楽園」などと喜びあいながら(イメージです)わらわらと入居してきました! 1頭のミユビナマケモノの体の毛から、なんと978匹の甲虫がみつかったという記録もあるそうです。
野性のナマケモノを発見するのは「干し草のなかから針を探し出すようなもの」ともいわれています。なぜなら…ナマケモノは、森とほぼ一体化しているから!! 気配が全くないので、天敵もまさか動物がいるとは気づかず素通りしてしまうのですね。それに、ナマケモノの毛皮は高性能。木にぶら下がったままずぶ濡れになっても、外側のごわごわした毛が分かれて雨水を逃がし、内側のふわふわ密生した毛で保温してくれるようです。木と一体化して徹底的に動かないことで危険を回避し、エネルギーを温存して生き残る方針なのですね。じっさいナマケモノは、元気に動きまわる同じサイズのサルたちより、ずっと長生きしているみたいですよ。
木から下りるのをなまけすぎて、トイレに行くのは10日ぶりだった(でもグッドマナー)!!
ナマケモノは「約1週間〜10日おきに排尿・排便する」そうです!! 人間でさえ布団の中では「トイレ行きたい…でも眠いからあとに…」などと葛藤するくらいですから、ナマケモノがトイレごときで起きるわけなかろうと、思っていました。思ってはいましたが、…10日おき。やっぱり、枝にぶらさがったままポロッと?
なんと、ナマケモノはトイレのときだけは木から下りていたのです。しかも、木の根元にわざわざ尻尾で穴を掘り、その中にまとめて排泄するという手間のかけよう。このときだけ別人(獣)格になっているとしか思えないようなグッドマナーです。
ナマケモノは筋肉がないぶん軽いので、高い木のてっぺんにあるエンピツくらいの細い枝にもラクラクぶら下がれます。もし天敵のジャガーやピューマにみつかっても、筋肉質の重い体では上まで来られないから、とっても安心。睡眠も交尾も出産も木の上で! そんなナマケモノが、たかだか排泄のために自分から下りていくなんて。地上をのそのそ這う⇒見つかる⇒食べられる!! 「トイレ」はナマケモノにとって、命がけのミッションだったのです。これじゃ10日おきでも仕方ありませんね。…という問題じゃなくて。そんな危険を冒す理由が、何かあるのでしょうか??
ナマケモノがポロポロと用を足すやいなや、なんと体に住んでいた小さい生きものたちが穴の中へまっしぐら! 楽しく食事したり、卵を産んだりしているではありませんか。どうやら大家さんのトイレは、入居者の特典になっているようです。ちなみに、ナマケモノは歩くよりは泳ぐほうが得意。その際も、店子が溺れないよう頭や肩をちょっと出して、高台をキープするのだといいます。それほど気遣うからには、何か「ウィンウィンの関係」がありそうです。でも、はっきりしたことはわかっていません。「虫たちが危険を察知するセンサーとなっているのでは(昆虫学者・西田賢司氏)」という説なども。虫の報せでトイレのタイミングを教えてもらっていたりして。
飲み食いをなまけすぎて、ごはんがあるのに飢え死にしてしまうこともあるらしい(1日8g)!!
ナマケモノの食事は、木の上で手近な葉っぱや果実、自分に生えているコケなどをでれ〜んとしたままもぐもぐ(グッドマナーはトイレだけのようです)。すぐそばに食べ物があっても、口に入れるのを怠けて食べなかったりします。1日の食事量は、わずか8gほど! そもそも、ナマケモノは食べたものを自力で消化しないで、お腹に住んでいるバクテリアに消化してもらっているそうです。そのうえ、哺乳類なのに変温動物。体温が上がらないと消化するエネルギーもなくなり、お腹に食べ物が入っているのに飢え死に、という事態すらあるといいます。
ところで。
◎ほとんど動きまわらない
◎トイレのマナーが良い
◎食事は野菜果物などを少しだけ
◎癒し系
…そんな習性をもつナマケモノって、もしや…ペット向き!?
じつは、海外ではナマケモノをペットとして飼っている人もけっこういるようです。超ゆるい生活態度に癒され、自分は急ぎすぎていたのでは…などと気づかされたりするのだそう。動きがスローなので入浴などのお世話もしやすく、トイレも砂場をつくっておけば躾いらず。特別なエサ代も不要。おっとり優しく、あかちゃんやネコとも共存OK。至福の抱っこ! ただし、南米熱帯雨林の動物なのでお部屋を暖かくして湿度を保ってあげたり、エサを自分で食べないときは口に入れてあげたりする必要があるそうです。もちろん、何かぶら下がれるものの用意も。
ミユビナマケモノは(輸入が禁止されているため)現在日本では会えませんが、フタユビナマケモノは動物園などでも飼育されています。可愛い「怠け」を見て癒された〜いという方は、お出かけになってみてはいかがでしょうか。関連リンクの動画で、お食事するナマケモノの怠けっぷりもぜひどうぞ。
<参考文献>
『ナマケモノ』M.フォグデン・ P.フォグデン(平凡社)
『ナマケモノの不思議な生きる術』本川達雄(講談社)