今年も残り2ヶ月を切りました。日本列島は紅葉前線が南下中、日に日に気温も下がりいよいよ本格的な冬の到来ですね。年末に向け忙しくなってくる季節。なかなかゆっくりできる時間は取れなくなりそうですね。
本格的に忙しくなる前に暖かいお部屋で、映画観賞はいかがですか。秋の最後の夜長は、過去の大ヒット作品をいつもと違う視点で観てみませんか。今回ご紹介する映画は全て日本の作品がネタ元!?と言われています。見較べるのも楽しい作品です。
※下記、映画紹介本文、ネタバレがございますので、未見の方はご注意くださいませ!
「スピード」1994年公開
今や押しも押されぬ大スター、キアヌ・リーブスとサンドラ・ブラックの出世作となった大ヒット映画「スピード」。
爆弾魔の犯人(デニス・ホッパー)が仕組んだ爆破装置はラッシュの大都会・ロサンジェルスを走るバスに仕掛けられ、バスが時速50マイル(80km)に達すると起爆装置が作動、スピードが落ちると爆弾が爆発するという恐ろしい仕掛け。この緊迫感あふれる展開が、当時大流行中だったアクション映画の中でも斬新で、筆者も2回も映画館へ足を運んだのを覚えています。筆者には斬新だったのですが…。当時、筆者より先輩世代の映画ファンの方々には、このプロット(あらすじ)はどこかで観たぞ、ソックリではないか、と話題になっていたようなのです。後に、筆者もその情報を知り早速DVDで観賞したのが高倉健主演の日本アクション映画の大作「新幹線大爆破」(1975年公開)です。千葉真一、宇津井健などなど出演者も豪華、今観ても緊迫感あふれる名作です。どちらも大ヒット作なので、この2作品が似ている、というのは、映画ファンの方には有名なトピックだと思います。
まず、冒頭、犯人デニス・ホッパーは本番のバス爆破計画の前にオフィスビルのエレベーターでリハーサルをします。「新幹線大爆破」でも主犯・高倉健の共犯者・山本亘が列車の操作場でリハーサルの爆発を起こします。そして「スピード」の一番の見どころ、上記の速度による爆弾爆発の危機の展開が全く同じなのには驚かされます。バスと新幹線と、乗り物の種類は違えど走行速度が落ちると爆発するというプロット。又、人質の乗客を犯人に悟られないよう救う手段も全く同じなのです。爆弾が仕掛けられたバス(新幹線)にもう一台を並走させ乗降口同士にステップとなる板を渡し、一人一人乗り移らせるというもの。他にも似通った点はいくつも…。解釈はそれぞれですが、「スピード」は「新幹線大爆破」のリメイク版!?といってもいいほどです。監督や脚本家が参考にしたと発言しなかったり、クレジットされなかったとなると「パクリだ!」という意見もあるかもしれません。でも筆者は、日本映画が世界の大ヒットメーカーに真似されたのがちょっぴり誇らしかったり、再度見較べる楽しみも増えたり、おおらかににそれぞれの映画を楽しめれば良いのでは、と思います。また、この2本はそもそも巨匠・黒澤明原案の「暴走機関車」(後の1985年にハリウッドで映画化)をベースにしているのではないかとも言われているそうです。これは「暴走機関車」も観なければ、です。筆者は今年最後の秋の夜長のお供は未見の「暴走機関車」に決めました!
「ロード・トゥ・パーディション」2002年公開
大人気スター、トム・ハンクスが珍しくギャング役を演じ話題になった、2002年の作品「ロード・トゥ・パーディション」。愛する家族を殺された主人公、トム・ハンクスが、生き残った幼い息子と共に、家族の復讐をするべく、ギャングのボスが仕向けた刺客から逃げながら続ける旅路を描いています。このプロット、乳母車こそ出てきませんが、70年代テレビドラマ・映画で大ヒットした「子連れ狼」とソックリですね。
「ロード・トゥ・パーディション」、ギャングのボス役にポール・ニューマン、トム・ハンクスに仕向けられた不気味な刺客をジュード・ロウ、そして現在の007・ボンド役を演じるダニエル・クレイグも卑劣な悪役として登場、オールスターキャストで見応えも充分です。いつもは善人やヒーロー役を演じる彼らが皆ひと癖ある悪役を演じているのも見どころです。ぜひ2作品、見較べてみてください。
「A.I.」2001年公開
巨匠・スタンリー・キューブリックが晩年、企画していたのに実現かなわず、スティーブン・スピルバーグに託し映画化された「A.I」。人間に仕えるために作られた子供型ロボットが人間の愛を求めて長い旅をする物語。原作はブライアン・オールディスの作品ですが映画化にあたり、手塚治虫原作の日本アニメ「鉄腕アトム」イタリアの童話「ピノキオ」が参考にされたと言われているそう。人間よって作られた子供型ロボット(ピノキオは人形ですが)。まるで人間のように、精巧に作られた彼らは人間に近いからこそ人間の愛を渇望するようになります。健気な子供型ロボットの悲哀に涙を誘われました。
スタンリー・キューブリックもスティーブン・スピルバーグも「鉄腕アトム」好きを公言していたそう。
また、スティーブン・スピルバーグは製作スタッフに直接「ピノキオ」みたいに撮って、と言っていたとかいないとか。
しかし、出来上がった作品は巨匠たちの思いのつまった重層的な物語となり、「鉄腕アトム」「ピノキオ」(筆者世代はテレビアニメ「樫の木モック」も)に子供の頃慣れ親しんだ世代にはノスタルジックな気持ちにもさせられるSF映画となり、筆者は心を動かされました。
「鉄腕アトム」作者の手塚治虫とスタンリー・キューブリックの関係と言えば、キューブリック監督作「2001年宇宙の旅」(1968年公開)のアドバイザーとして、キューブリックが憧れの手塚治虫にオファーをしたのは有名な話ですね。当時手塚治虫が多忙を極めていた為実現はしませんでしたが、実現していたらどんな映画になっていたのかと、日本の映画ファンにとっては夢が広がるエピソードです。
パクったパクられたと言うとネガティヴなイメージになってしまいますが、ハリウッドのヒットメーカー達が日本の様々な作品にオマージュを捧げてくれている、と思えば又違った視点で映画を楽しめそうですね。
今年最後の秋の夜長の映画観賞、暖かいお部屋でぜひ楽しんでみませんか。