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空には南へ帰るツバメが飛んでいませんか?


さあ、いよいよ秋も本番です。第四十四候「玄鳥去(つばめさる)」を迎えました。次には秋の真ん中、秋分が控えています。

現在は9月にあたる陰暦の8月は燕去月(つばめさりづき)とも言われます。

春にやってくるツバメを「燕来る」「燕の巣」「燕の子」と季語にしてながめながら新しい命を歓迎していました。もう秋空を飛びながら南へ帰っていく時期です。日本人は季節をともに過ごしながらツバメに親しみを持っていたのでしょう。大きく目立つ鳥ではありませんが馴染みのあるツバメのエピソードを探してみようと思います。旅立つツバメになごりを惜しみながらちょっとおつき合いください。


渡り鳥の神秘をツバメに感じてた日本人?

春にあらわれて秋に去るツバメに、身近な鳥とは違うなにか不思議なものを感じていたのかもしれません。空を疾風のごとく飛びながら虫を捕まえるツバメの姿にこんな昔話が伝わっています。

「昔、スズメとツバメは兄弟だったそうです。ある日、親の病気にスズメは仕事着のまま駆けつけて死に目に会えましたが、ツバメはきれいに化粧してよそ行きの服に着替えていたため遅くなり、死に目に会えませんでした。親はスズメには孝行者だから米を食べてよい、ツバメには虫を食べよ、と遺言したそうです。だからスズメは米を食べるが、ツバメは空を飛びながら虫を捕まえなければならなくなったのです」

これは「雀孝行」として知られるお話です。スズメは大事な作物のお米を食べてしまう困った鳥のはずですが、孝行者だからと温かい目をを向けていますね。ツバメにも空を飛んでばかりいないでスズメのようにたまには遊びに降りてきて欲しかった、そんな思いがあったのかもしれません。

またツバメが巣をかけるのを喜ぶ、というのはいまでも残っているようですが、家に不幸があると次の年からは来ないとか、火事などの悪いことを予知して巣をかけないなどの俗信も伝わっています。春から秋に軒下に巣をかけるツバメは、やって来ては去って行く渡り鳥。スズメやカラスといった鳥とは異なった神秘性を感じていたのでしょう。


ツバメは巣立った子供たちをつれて南の地へ!

「秋燕」とは、春に渡ってきた燕が南の地へ帰って行くことで俳句では秋の季語になっています。夏の日本でツバメは子供を産みます。軒下につくられたツバメの巣で雛たちが餌を待っている姿はなんとも愛らしいものですね。雛たちは秋には何千キロと飛んで南へ行くのですから、この時期しっかりと食べて飛ぶ練習をしておかなければいけません。夏は頑張るときなのです。

「乙鳥(つばくら)は妻子揃うて帰るなり」 一茶

春に生まれた子を連れて帰るツバメの親子をすなおに詠んだ句ですね。

一茶が60歳頃の句のようです。初めての結婚が52歳と晩婚だった一茶は、24歳年下のきくとの間に4人の子供をもうけます。不幸なことにみな幼くして亡くしてしまうのです。そして10年連れ添った妻きくも亡くなります。そんな一茶の人生を思ってこの句を詠むと、やっと得た家族をつぎつぎ失う一茶が、胸の内にある苦しみをぐっと抑えている姿が浮かんできます。辛かったことでしょう。しかし失意の中にもめげず、一茶はすぐに再婚します。


超特急「燕」から新幹線「つばめ」へ!

鉄道ファンには「ツバメ」と聞いたら頭に浮かぶのはやはり颯爽と走る列車ではないでしょうか?

超特急とよばれた「燕」は昭和5年(1920)に東京と大阪を8時間20分で結ぶ特別急行として導入されました。現在の「のぞみ」でおよそ2時間半と考えるととんでもなく時間がかかるように思います。でも、引っぱっていたのは蒸気機関車なんです。きっとさまざまな工夫がされていたことでしょう。

ひらがなの「つばめ」と呼び名も替わった特別急行は、昭和31年に東海道本線が電化されて東京と大阪の所要時間は7時間30分と50分短かくなりました。東海道線で活躍した「つばめ」は新幹線の開業で「こだま」と「ひかり」にその席を譲ります。

「つばめ」は 西に活動の場を移します。しかし昭和50年(1975)山陽新幹線の開業でとうとうその名は消えることになったのです。ところが国鉄民営化が行われると九州で豪華な車両として復活します。その後九州新幹線が開業され「つばめ」の愛称は新幹線へと引き継がれたのです。

ツバメの平均飛行速度は時速40~50Km、餌を取ったり天敵から逃げる時は時速200Kmにも達するといわれます。高速鉄道の夢を自在に大空を飛翔するツバメに重ねていったのも納得するところですね。

旅立ちはじめるツバメに無事の旅をいのり、春にふたたびやって来る姿を期待して見送りませんか。

参考:

『日本百科大事典』 小学館

『肥後の民話』 日本放送協会出版

「トレたび 国鉄&JR列車名研究所」

URL:http://www.toretabi.jp/history/vol27/01.html

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