大きな高気圧に日本列島が覆われたことによって日中の気温が上昇し、東京では桜が見頃を迎えています。春は冷たい空気と暖かい空気の入れ替わりが激しい季節なので、雨が多い季節でもありますが、満開の時季には必ずと言っていいほど「花散らし」の雨が降りますね。そんなときは残念ながら、のどかな花見もなかなかできません。
そんな「のどかさ」は、落語の世界でもテーマとして扱われています。今回は、なんとものんびりした花見を題材にした落語を紹介します。
大根と番茶でお花見?
大家さんから呼び出しがかかった長屋で暮らす連中。
「また店賃(たなちん = 家賃)の催促か?」と、大家さんのもとにおそるおそる行ってみます。なにしろため込んでいるのはまだいいほうで、「店賃てなあ、なんだ?」という豪傑もいるくらいの貧乏長屋なのです。
案に相違して、大家さんが言うのには、「うちの長屋は貧乏長屋だなんて噂されている。みっともないから豪勢に上野の山で花見をして景気をつけようじゃないか」ということでした。
「酒肴(さけさかな)の用意は俺のほうでした。かまぼこと卵焼きもある」……。
ところがなんと、かまぼこは大根を切ったもの。卵焼きは黄色く漬かったタクアンでした。「しょうがない、お酒さえ本物なら」と念のため尋ねてみると、これがなんと番茶を薄めたものだというのです。大根をかじりながら、番茶を飲んだって、景気がつくものではありません。
でも、みんな半ばヤケの心持ちで出かけることにしました。
「陽気に行こうじゃないか。それ花見だ~花見だ~」と大家が音頭を取ろうとすると、みんなは「それ夜逃げだ~夜逃げだ~……」と合いの手をうつ始末。
歯をくいしばる花見かな
上野のお山は、花は満開、花見客でいっぱい。長屋で暮らす連中も場所を決めて「花見」が始まりました。
ところが、「どうだい、かまぼこを食べないか」と大家さんがなんとか盛り上げようと声をかけると、「大家さん、あっしゃあ、これが好きでね、毎朝味噌汁の実につかいます。胃の悪いときにはかまぼこおろしにしまして」……と、まるで盛り上がりません。
「じゃあ玉子焼きはどうだい」。すると「シッポじゃねえとこをくんねえ」。
大家さんが熊さんに「おまえは俳句に凝ってるそうだから、一句どうだ」と水を向けると「長屋中 歯をくいしばる 花見かな」……。これでは、陽気な花見どころではありません。
月番は景気よく酔っぱらえと命令され、「酔ったぞ。オレは酒のんで、酔ってるんだぞ」と変なクダを巻きはじめます。大家さんが「酔った気分はどうだ」と聞くと、答えは「去年、井戸へ落っこちたときとそっくりだ」。
一人が湯のみを見て「大家さん、近々長屋にいいことがあります」とつぶやきます。やっと景気のいい話かと思って「そんなことがわかるかい?」。……「酒柱が立ちました」
── 本来はこの調子でもう少し話は続くのですが、最近はこのへんでオチとすることが多いようです。みなさんはできれば本物のお酒を用意して(笑)、せひお花見を楽しんでください。