ひき肉や野菜などの具材を、キャベツの葉で包んだロールキャベツ。家庭料理としても、洋食屋さんのメニューとしてもおなじみですね。
「ベーコンで巻く」「いや、かんぴょうで巻く」「おでんに入れる」など、皆さんお気に入りの食べ方があるのではないでしょうか?
そろそろ春キャベツが出回る季節。今回は、日本の食卓に根づいたロールキャベツの歴史をお届けします。
そもそも、ロールキャベツの起源とは?
「大きな葉っぱ」で、「肉などの具材を包む」……ロールキャベツの原型とも言える料理が最初に作られるようになったのは、現在のトルコやギリシャの付近。
この地域では古くから、ぶどうの葉っぱで肉や米を包んだ料理が作られており、それがオスマン帝国の拡張などによって東ヨーロッパや中央アジア、アラブ世界に広まりました。
その過程で、ヨーロッパでは古くから栽培されていたキャベツの葉が使われるようになったと考えられています。
ロールキャベツ風の料理は現在も各地で愛されています。
たとえば、ルーマニアで広く食べられているのは、酢漬けのキャベツを使ったロールキャベツ「サルマーレ」。具材にはお肉と、お米が使われるのがポイントです。
ハンガリーでも同様に、ひき肉とお米が入ったロールキャベツが食べられています。
もちろんトルコやギリシャでもロールキャベツは健在。
トルコ料理の「ドルマ」(トルコ語で「詰めたもの」の意味)には、キャベツの葉やぶどうの葉、パプリカをくりぬいて具材を詰めたものなど、バリエーションがたくさんあります。
他にも中東や北アフリカなど、この「ドルマ」の影響を受けたと思われる料理が各地で作られています。
なぜ日本で、家庭料理として定番化した?
ロールキャベツを作るのは、ちょっと手間がかかる……そう感じる方も多いのではないでしょうか。
日常的に料理をする方でも「忙しくてなかなか作れない」という方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、この「手間がかかる」ことが、日本の食卓にロールキャベツが普及した一因だった可能性があります。
1950年代から60年代にかけての、高度成長期。
主に男性が外で働き、女性は主婦として家を守る、こうした家庭が主流になっていった時代です。また、当時の企業には「勤続年数が長い女性を煙たがる」風土があったといいます。
家にいる以外に選択肢がない女性たちは、いかに家事労働に取り組むか、知恵を絞るようになりました。
それは、かつて水汲みや火おこし、農作業、夜なべ仕事などに追われていた時代とは、まったく別の種類の家事労働です。
そして、そんな「別の種類の家事労働」の代表格が、「手間をかけて料理をすること」だったのです。
ロールキャベツは、こうした時代の空気の中で、主婦が腕をふるう家庭料理の代表格としてもてはやされました。
上記を裏づけるような、興味深いデータがあります。
1960年代の前半、いったん減った女性の家事労働時間が、1970年代になって再び長時間化したというのです。
ガスや水道などのインフラ整備が進み、冷蔵庫や炊飯器が普及し、生活は格段に便利になったはず。
にもかかわらず家事労働時間が増えたのは、料理に手間をかけるようになったのが理由の一つだと考えられています。
時代の変化で、ロールキャベツの役割も変わった?
やがて時代が移り、男性も女性も同じように社会参加する時代が到来。スーパーマーケットやデパ地下のお惣菜として、あるいは冷凍食品として、ロールキャベツを買い求める人が増えていきました。
「イチから作るのは面倒だから」と、買ってきたロールキャベツを我が家風に味つけしたり、「プロが作った料理のほうが美味しい」と外食にこだわったり……。
それぞれの生き方、考え方で、色々な楽しみ方ができる時代になったということかもしれません。
メインのおかずにも、「あと一品」のおかずにも、便利に使えるロールキャベツ。
日本では年間おいしいキャベツが出回りますが、まもなく春キャベツの旬。久しぶりにロールキャベツを手作りするのもいいですね!
参考:阿古真理「昭和の洋食 平成のカフェ飯 家庭料理の80年」(筑摩書房)