一年で最大のイベント、クリスマスが近づいてきました。
クリスマスはイエス・キリストの誕生日ですが、キリストがどのようにして十字架の上で最後を迎えたかも皆さんご存じでしょう。
今回は、このキリストの受難をテーマにしたバッハによる名曲中の名曲「マタイ受難曲」をご紹介します。
クラシック音楽の最高峰
「マタイ受難曲」は、1727年に初演されました。
「受難曲」というのは、キリストの弟子であるマタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの4つの新約聖書の福音書に記されているキリストの受難の物語に基づいた声楽作品です。バッハ以前にも作られていました。
キリストがユダやペテロに裏切られ、捕縛され、審問され、鞭打たれ、審判が下る場面が続き、十字架上で息絶え、そして復活するまでが語られます(「マタイによる福音書」第26章~第27章の部分)。
バッハは生涯に5曲の受難曲を書いたとされていますが、完全な形で残っているのは、「マタイ」と「ヨハネ」のみ。
その中でも「マタイ受難曲」は規模も大きく、完成度の高い感動的な作品です。この曲をクラシック音楽の最高峰と考える人も多いでしょう。
福音史家(エヴァンジェリスト)が物語を語り、イエスをはじめとするソリスト、2部の合唱が加わります。歌詞は「マタイによる福音書」の章句を中心にして説教集、ドイツ・プロテスタントの賛美歌であるコラールなどが挿入されています。
美しい曲の数々、おすすめディスク
レチタティーヴォ(語るような歌)やアリア、楽器の独奏などを含めて、美しいメロディの宝庫なのですが、特に印象的な曲を挙げておきましょう。
第1曲「来たれ、汝ら娘たち、来たりてともに嘆かん」は、前奏曲に当たりますが、全体を象徴するような悲劇的で荘厳な響きに満ちています。
第47曲アリア「憐れみたまえ、わが神よ」は、イエスとは無関係だ、といってイエスを裏切ったペテロの悔いをアルトが歌う曲。ヴァイオリンの旋律が有名です。
全体の最後に近い、第75曲アリア「汝を潔くせよ、わが心よ」は、キリストが埋葬される場面で歌われます。透明感のある感動的な音楽です。
初演以来「マタイ受難曲」は、忘れられていましたが、100年後の1829年にメンデルスゾーンが再演して、再評価されました。
「マタイ受難曲」の定盤はなんといっても、緊迫したドラマを感じるカール・リヒター指揮によるもの、ゆったりと大きなスケールのオットー・クレンペラー指揮が挙げられるでしょう。
バッハの時代の演奏を徹底的に再現した古楽器によるアーノンクル指揮のディスクも外せません。鈴木雅明指揮によるマタイは、日本人の手になるとは信じられないほどの水準です。
バッハは、「マタイ」をはじめとする、たくさんのカンタータや「クリスマス・オラトリオ」などの宗教曲を書いています。堅苦しい印象があるかもしれませんが、特に「マタイ」から感じるヒューマニズムは特別なものです。
クリスマスももうすぐ。ぜひ聴いてみてください。