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思い出と期待が交錯する ── 12月の詩歌


先週は東京で11月では史上はじめての積雪がありましたが、箱根の降雪を報じるテレビのニュース画面に、降りしきる雪の中で静かにたたずむ、とある美術館のツリーが映りました。

その様は、まさしくロマンチックなホワイトクリスマス!でしたが、クリスマスまであと1カ月。明日から一年の終わり・12月を迎えます。

そこで今回は、年末の行事や風景を題材にした詩歌を選んでみました。

クリスマスシーズン到来!

クリスマスシーズン到来!


何となく昔を思い出す年の瀬

年末に独特の気分を言うときに使われる季語が「年の暮れ」です。「歳晩」などとも言います。昔は商店などの支払いも年末にまとめてでしたから、その気苦労もありました。孝作の句はそのころの雰囲気が主題です。三鬼句の「玻璃窓」はガラス窓のこと。昔のガラス窓は外の風景が微妙に歪んで見えたものです。

12月に入ると忘年会が始まりますが、俳句では「年忘れ」といいます。万太郎は、どこか古い料亭で忘年会でしょうか。仕事納めは「御用納め」。

〈ぜにかりにゆく家のあり年の暮れ〉瀧井孝作

〈玻璃窓を鳥ゆがみゆく年の暮〉西東三鬼

〈紙屑をもやしていても年の暮〉細見綾子

〈拭きこみし柱の艶や年忘〉久保田万太郎

〈酔(すい)の眼も歌ふも艶(つや)や年忘れ〉上野信夫

〈何もかも御用納めの風邪ぐすり〉有働亨

忘年会シーズンですが、ビールの酒税、どうなるのでしょう?

忘年会シーズンですが、ビールの酒税、どうなるのでしょう?

年の暮れは、今年あったことだけでなく、何となく昔のことが思い出されるものです。和歌ではこんなふうに詠まれます。

〈隔てゆく世々のおもかげかきくらし雪とふりぬる年の暮かな〉藤原俊成女

遠い昔の情景を雪をかき集めるように思い出しているのでしょう。「雪」と「かき」「ふる」は関連した言葉を読み込むという「縁語」という和歌技法です。「ふる」は「降る」と「古い」が重ね合わされる「掛詞」です。


クリスマス、イルミネーションと初雪、新しいカレンダー

クリスマスは言うまでもなく、キリストの誕生日です。「降誕祭」「聖誕節」などとも呼ばれます。クリスマスケーキが「聖菓」です。

〈聖菓切るキリストのこと何も知らず〉山口波津女

〈子へ贈る本が箪笥(たんす)に聖夜待つ〉大島民郎

最近ではクリスマス近くになると、あちこちでイルミネーションが点灯されます。そういえば、夜空にチラチラと舞う雪はまるでイルミネーションのようですね。

先週関東で降った初雪は早朝でした。雪が振り始めるときには、心せかされるような気分がします。

〈初雪を見てから顔を洗ひけり〉越智越人

〈初雪や外出の刻(とき)せまりつつ〉星野立子

〈初雪や水仙の葉の撓(たわ)むまで〉松尾芭蕉

雪が降りかかると植物の葉が重みでたわみます。芭蕉の句とは信じられないような、近代的な味わいの句です。

新しい年の予定帖、カレンダー、日記帳などが売り出されるのもこの時期です。

〈書かざれどすでにわがもの新日記〉山口波津女

〈暦買ふうしろの日々の重くあり〉藤田湘子

新しいカレンダーの後半を見ると、なんだか気が重くなる、という湘子の句です。

過去の思い出と新しい年への期待が交錯する季節、風邪に注意して新年の準備をしましょう。

横浜赤レンガ倉庫のイルミネーション

横浜赤レンガ倉庫のイルミネーション

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