【宇宙からみた気象現象シリーズ第八弾】 2017年1月にタイで発生した大雨についてリポートします。この豪雨により、1月前半の期間だけで数十人の死者や160万人以上の浸水被害者が出るなど、多くの被害が発生しました。JAXAのGSMaPやGPM/DPR、天気図や降水量のデータを用いて、タイでの異例の大雨の状況をまとめました。
●背の高い雨雲と激しい雨
図1は、全球降水観測計画(GPM)主衛星に搭載された二周波降水レーダ(DPR)による、2017年1月7日の雲と降水の強さです。この時間は、タイ南部に発達した雲がかかり、時間雨量が25ミリ以上の激しい雨の降っている所があります。
また、図2は、同じくGPM/DPRによる、2017年1月7日の降水の鉛直分布を表したものです。タイ南部やその周辺には、高度10kmをはるかに超える背の高い雨雲があって、その下では激しい雨を降らせていることが分かります。
図1と図2を含んだ動画は、YouTube(以下のURL)で見ることができます!
GPM/DPRが捉えたタイの大雨(2017年1月7日)
https://www.youtube.com/embed/end4aC3qoG8?rel=0
●1月の降水量が平年の9倍以上に
図3、上図はタイや周辺諸国の2017年1月1日から1月9日にかけての降水量です(気象庁HPより引用)。タイ南部の東側の地域では、この期間の降水量が600ミリを超えた所がありました。また、下図はタイのチュムポンにおける、月毎の気温と降水量のグラフです(気象庁HPより引用)。降水量は棒グラフで表されていて、緑色で塗られた細い棒が最近の12ヶ月間の値、緑色で縁取られた太い棒が平年値です。チュムポンでは、2017年1月の降水量が593ミリとなりました。これは、平年の降水量(65.8ミリ)の9倍を超える降水量となりました。
タイでは、この大雨で市街地の浸水、道路や線路の冠水による通行止めや橋が流されるなど、交通機関に多くの影響が出ました。また、1月前半の期間だけで30人を超える死者や160万人以上の浸水被害者が出るなど、多くの被害が発生しました。
●大雨の原因は北東モンスーンと動きの遅い低気圧
図4、上図は1月7日9時(日本時間)のタイ周辺の地上天気図です(タイ気象局のHPより引用)。タイ南部付近には動きの遅い低気圧があります。低気圧は、1月上旬はタイ南部付近にほとんど停滞しました。また、南シナ海では等圧線が南に凹んで気圧の尾根になっていて、タイ南部には北東から南西方向に風が吹いています。この風は「北東モンスーン」と呼ばれ、タイ南部に雨季をもたらす湿った季節風です。大雨の原因は、北東モンスーンが強かったことと、低気圧がタイ南部付近に停滞したことです。
下図は、1月の海面水温の平年との差です(気象庁HPより引用)。これをみると、赤道付近の東太平洋では平年よりも低く、西太平洋では平年よりも高くなりました。このため、対流活動は西太平洋で平年よりも活発になり、西太平洋で低気圧が発生しやすい状況だったと考えられます。
●北東モンスーンと南西モンスーン
タイの気候を大きく左右するのが、図5に示した「北東モンスーン」「南西モンスーン」と呼ばれる湿った季節風です。「北東モンスーン」は秋から冬にかけて南シナ海を渡るため、タイ南部の東側では、概ね秋から冬にかけて降水量が多くなります。また、「南西モンスーン」は、夏から秋にかけてインド洋とシャム湾をわたるため、タイの内陸部とタイ南部の西側では、概ね夏から秋にかけて降水量が多くなります。
前述したチュムポンはタイ南部の東側で「北東モンスーン」の影響を受けるため、例年では10月から11月にかけて降水量が最も多くなり、12月から1月にかけては徐々に少なくなります。しかし、今年は12月から1月にかけても北東モンスーンの影響が強く、大雨の大きな原因となりました。