宇宙からみた気象現象シリーズ第七弾では、今年の2月、山陰や近畿北部を中心に大雪となった事例について解説します。2月10日、数年に一度の非常に強い寒気が西日本の上空に流れ込み、中国山地を中心に雪雲がかかり続けて大雪になりました。ひまわり8号による高解像度の気象衛星画像と、JAXAの全球降水観測計画(GPM)主衛星搭載の二周波降水レーダ(DPR)による立体降水分布で、宇宙からこの気象現象を見てみましょう。
●関東の雪の後は、中国・近畿地方で大雪に!
2月9日(木)、東京都心でも雪が舞ったことを覚えていますか?
立春を過ぎても2月上旬はまだまだ寒く、この日は日本の太平洋南岸を進む低気圧(通称:南岸低気圧)の影響で太平洋側でも雪が舞い、茨城県水戸市では積雪12cmを記録しました。
南岸低気圧が通過すると、西から冬型の気圧配置になることが多く、日本海側は荒れた天気となり、大雪や暴風などへの注意・警戒が必要になります。
2月9日の南岸低気圧が日本の東へ離れた後、10日(金)から11日(土)にかけて、日本付近は強い寒気を伴った冬型の気圧配置になりました。日本海から発達した雪雲が次から次へと中国山地にかかったため、山陰や近畿北部を中心に記録的な大雪になりました。
鳥取県鳥取市では、9日時点で積雪0cmだったにも関わらず、その翌日10日の24時間で降った雪の量は65cmで、1953年の統計開始以来1位の降雪記録となりました。この2日間だけでも、普段から積雪の多い鳥取県の大山で110cm、兵庫県の兎和野高原で104cmの降雪がありました。雪に慣れている地域でも、これだけの大雪となれば、除雪作業中の事故や、車の立ち往生などの交通障害が発生する結果となりました。
●西日本の上空に「数年に一度の非常に強い寒気」が流入
さて、どうして中国山地に雪雲がかかり続け、山陰や近畿北部を中心に大雪になってしまったのでしょうか。
その理由を説明するのに欠かせないのが「上空の寒気」です。気象庁の高層気象観測データによると、島根県松江市の上空5000m付近で、10日21時に氷点下40.3℃と、数年に一度の非常に強い寒気が西日本の上空に流れ込んでいました。
実は、寒気の強さは気象衛星画像を見るとよく分かります。ひまわり8号による高解像度の気象衛星画像(図2)を見ると、日本海は寒気による筋状の雲に覆われており、大陸と筋状の雲との間との距離(これを離岸距離と言います)が近いほど、寒気が強いことを示しています。
寒気のピークであった10日21時と、寒気の流入が弱まってきた12日21時の気象衛星画像を比較すると、10日21時の方が離岸距離は短く、太平洋側の筋状の雲も多いことがわかります。10日は寒気が非常に強かったため、冬型だと晴れやすい太平洋側にも寒気の影響による雲がかかり、曇ったり雪や雨が降ったりと変わりやすい天気になりました。
●雪雲がかかり続ける、雪雲の収束帯JPCZ
上空の寒気によってできた日本海の雪雲をよくみると、より発達した雲の帯が存在することがわかります(図3)。
これは、日本海寒気団収束帯(通称:JPCZ)と呼び、日本付近が冬型の気圧配置のときに、大陸から吹き出す寒気が、朝鮮半島北部の標高の高い山々に阻まれて一旦ふた手に分かれ、再び日本海でぶつかりあうときに、明瞭に現れます。風がぶつかり合うと、積乱雲(冬なのでこの時期なら雪雲)が発達し、JPCZの付近では特に荒れた天気になります。
10日は、このJPCZが山陰沖で明瞭に現れ(図3の赤い点線の部分)しばらく同じ位置に存在したため、中国山地に向かって次々と発達した雪雲が流れ込んだのです。
●JAXAの3次元動画で見ると、四国まで雪
JAXAのGPM主衛星による立体降水分布(図4)を見ると、冬の積乱雲は、発達していても雲の高さ(雲頂高度)は低く、地表間近まで雪で存在している所がほとんどです。また、瀬戸内海を超えて香川県や愛媛県でも雪の降っていた所があることがわかります。
降水量1ミリでも雪の状態で地上に届くと、雪の湿り具合にもよりますが1cm程度の降雪になります。雨の場合は大きな災害にならない量でも、雪の場合は様々な所に影響が出てくるため、雨雪の判別は大変重要な気象資料になります。
図4のような降水分布の三次元構造はJAXAによる動画(Youtube)をご覧ください。
▶GPM/DPRが捉えた山陰地方の大雪(2017年2月11日)