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槙野騒動に「穴あきゴール」レフェリングが話題となった1週間、スポーツパーソンシップとは何か


【写真】槙野智章監督(2026年6月撮影)

レフェリングが話題となった1週間だった。

■2試合停止と罰金10万円

10月24日に行われたJ2第13節・藤枝対徳島。後半24分、ペナルティエーリア内でボールを浮かせてかわそうとした藤枝の選手に対し、徳島の選手は広げた左腕に当てて防いだ。しかし主審はハンドとみなさず、猛抗議した藤枝の槙野智章監督に毅然(きぜん)とイエローカードを掲示した。

その試合後、槙野監督は「マジでJ2の審判のレベルが低い」と繰り返し発言した。これに対し、Jリーグは規律委員会を開き、映像を確認した上で「この言動は審判員に対するリスペクト精神に著しく欠けるもの」と判断。2試合の出場停止(ベンチ入り停止)と罰金10万円を科した。

この場面は、紛れもないハンドだった。10人見たらほぼ全員が「ハンド」と回答するだろう。それだけに槙野監督の心情は理解できる。だがスポーツという競技は他者へのリスペクトの上に成り立っている。その大事なファクターを毀損(きそん)すれば、処分が出るのは妥当である。

ではなぜ誤審を招いたのか? あの場面を再現すれば、ペナルティーエリア右での両者のプレーに対し、主審は左側から見て、副審と両サイドを挟み込む適切なポジションにいた。

ただ主審の視界からすれば、防御側の選手の右側の半身しか見えていない。左腕は体に隠れていた。一方の副審側の視界には、攻撃側の選手の体が重なり、左腕部分は見えていない。つまり「死角」だった。

見えなかったものに対し、判定できないのは当然。それを場の空気感で覆していたら、審判員としての軸が根底から崩れてしまう。自身の目が基準となるからこそできなかった。

その一方で、藤枝側のベンチからすれば防御側の選手の姿を真っ正面から見えるだけに、反則は一目瞭然だった。それはDAZNの中継を見ている人もしかり。だから藤枝側や視聴者からすれば、なぜあれがハンドにならないのか?となる。結果的に「J2はレベルが低い」発言へとつながった。

つまりVARがあれば騒動にはならない案件だった。

■「現実的にミスはする」

今回の処分に合わせ、Jリーグ側は「レフェリング環境向上に向けた取り組み」を説明した。日本サッカー協会の扇谷健司審判委員長は「1つの判定に対して、レフェリーには何もないんですか? っていうご質問をいただくんですけど、審判にはアセッサーがいて、試合毎に評価をしています。それによって、(評価が悪いと)下のカテゴリーに行ってもらうことがあります」と断った。

審判の死角をカバーするVARだが、J2やJ3には導入できない。そこには費用、会場、審判割り当ての障壁がある。あらためてそういう環境面の説明と、正しいレフェリングができるようにどういう取り組みを実施しているのか、そんな話が主旨だった。

どうすればミスは撲滅できるのか? そんな質問も出たが、「どんなレベルでも現実的にミスはする。じゃあ、これをやったらミスはなくなるという知識は申し訳ないですがないです」。ゲームとは、選手、スタッフ、審判団がリスペクト精神のもとに協力して作り上げていくものということだろう。「スポーツパーソンシップ」というものだ。

ただ一つモヤモヤすることがある。選手やスタッフ側は試合後にコメントする場があるが、審判団は何も発言する場がないこと。以前、オランダでプレーした日本人選手からこんな話を聞いた。

「審判が任意でインタビューを試合後に受けるんですよ。そういう何か判定の基準を示す方法があれば、みんな納得せざるを得ないというか、それはすごい感じています」

つまり審判側の見解が試合後にあれば、スッキリする。特にJ2やJ3の審判員は別に職業を持つ傍らで、サッカーには不可欠かつ大役の「陰の大黒柱」。最もリスペクトされるべき存在である。その立場を守るという意味でも、やった方がいい。社会の慣習などの違いはあれど、欧州にできて日本でできないはずがないと思う。

■SNS動画が真実伝える

そしてもう1つ。話は変わり、全国高校サッカー選手権の東京都予選で「穴あきゴール」が話題になった。こちらも同じ24日の出来事だ。

東海大高輪台対駿台学園戦はPK戦に突入。その13人目、ここで決めれば勝利という場面で東海大高輪台のキッカーのシュートはゴール左隅に決まったかと思われたが、ネットを抜けてゴール外へ。審判団はゴールに穴が開いていたことに気づかず、ここはシュート失敗とみなした。PK戦は継続された結果、駿台学園が勝利を収めていた。

しかし穴を抜けたシュートの動画がSNSで拡散されると、その事実が白日のもとにさらされた。日が暮れたナイター照明という見づらい状況であったが、しっかりポストの内側を通過していた。

過去に決まったはずのゴールが取り消され、敗れた試合はあった。

2002年11月に行われた全国高校選手権の岡山大会決勝。のちに日本代表としてワールドカップ(W杯)にも出場した作陽MF青山敏弘が、Vゴール方式の延長戦で放った決勝点となるはずのミドルシュートが、主審の誤審によって見逃された。ゴール内の後方にある支柱部分に当たってボールが跳ね返り、これがノーゴールとされた。そして試合に敗れていた。

当時は大きな議論となったが、判定が覆されることはなかった。一度試合終了のホイッスルが鳴らされ、完了したゲームをやり直すことはなかった。

「マラドーナの神の手」などが有名だが、かつてサッカーに誤審は付き物と呼ばれていた。見えないものは見えない。それも含めてのゲームであり、不完全な人間の織り成すゲームを受け入れてのスポーツ文化だった。

だが誰もが簡単に映像を取れ、可視化される現代は話が違う。

■駿台学園がXで「協議」

今回の高校サッカーでも、すぐに東京都高体連専門部は協議に入った。ただ過去の流れに沿えば、一度完了したゲームの結果を覆すことはないという見方が予想された。

だが、結果は覆った。駿台学園ではなく、東海大高輪台が進出するという異例の逆転進出となった。

何より注目すべきは駿台学園側のXの投稿だ。

試合の翌25日に「昨日の試合に関しては現在協議中となりました。結果が分かり次第ご報告させて頂きます」と先手を打った。それを受ける形で高体連サッカー専門部もXで「現在協議中」と続いた。

そういう中での結論だ。駿台学園側は「先日の選手権試合結果につきまして、高体連サッカー専門部より裁定の変更に関する通知がございました。当初の結果が覆り、敗退として処理されることとなりました」と報告した。

こういったセンシティブな事情は決して表には出てこないが、駿台学園側の「グッドルーザー」を深く感じ入るものとなった。

見えたものに対し、頬かぶりしない。真摯(しんし)に物事と向き合い、正しい道を選択する「スポーツパーソンシップ」「インテグリティ(高潔性)」というものを教えてもらった気がする。まさに心あらわれる英断だと思う。【佐藤隆志】

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