
日本代表に初選手された横浜F・マリノスFW谷村海那(28)が18日、横須賀市内のクラブハウスで会見し、感激をあらたにした。
どこか目が潤んでいた。そのキャリアを振り返れば、順風満帆とはほど遠い。あきらめなかった先に、考えもできなかった日本代表入りが待っていたのだから。
前日に吉報を受けた際には言葉を失った。「練習終わりにみんな集まってそこで代表に選ばれたことを言われたけど、そこで初めて知って驚きが一番でした」。チームメートは明るく盛り上げ、祝福してくれた。
目標としてきた3歳上の兄、元Jリーガーだった憲一さんからも連絡が届いた。「お前すげえなみたいな感じで来ましたけど、いつもサッカーの話とか全然しないので来たこと自体にびっくりしました」。比べられること自体が嫌で、兄に負けたくない思いでずっとやってきた。その兄からも脱帽されたことが少し誇らしかった。
国士舘大を経て20年に当時JFLだったいわきFCへ加入し、プロキャリアがスタート。だが1年目から壁にぶち当たった。
「自分本当に1年目とかはもうダメダメで、腐ってるったらおかしいですけど、本当にダメダメだった状況をコーチとかにいろいろ話しかけてもらって、それを乗り越えてここまで来ました」
1年目はシーズン通じて出場時間は100分にも届くかどうかだったという。「時にはもうやってられるかよとか、そういう感じにもなったことありますし。そういう時に(田村雄三)監督だったりコーチがこのままじゃダメだぞって。このままじゃ1年で終わるぞみたいなことずっと言ってくれて。それでもう自分は走れなかったんですけど、そういう細かいランニングから始めて、食事とかも全部変えて変わろうと思って、それをここまでやってきました」
トレーニングと食事管理で体を絞った。サッカー選手としての基本。体づくりから地道に取り組んだ。大学時代はボランチだったが、高校時代にやっていたFWへ再びコンバートされた。動き出し、駆け引き。FWに求められる動きを学び、1つずつ手にしていった。
JFLからJ3、J2といわきでステップアップ。5年目の24年に38試合18得点と頭角を現した。今の姿のベースはいわき時代に作られた。
だからこそ、最も影響を受けた人物は? と問われると「自分が変わるきっかけを作ってくれたいわきの監督の雄三さんだったり、(大倉智)社長だったり、(渡辺)匠さんっていうコーチだったり。3人がずっと言ってくれたんで、その3人だと思います」。潤んだ目の理由は、その3人のことを思い出していたからなのだろう。
「海那のがんばりがあったから、ここまで来たんだよって言ってもらえてうれしかったですし、もっと期待に応えなきゃいけないと思いました」
昨夏に横浜からオファーを受けてJ1に昇格。この1年のJ1で22試合12得点、しかも今季は7試合6得点と得点ペースは加速している。
昨日の会見で、森保一監督は谷村の持ち味について得点力に加え、「チームの戦術の中でより多くの場面に関わりながら得点を取ることができるということ。全員攻撃、全員守備ということで考えた時にチームにフィットし、最後に点を取ってチームを勝たせてくれる」と説明した。
同様にコリカ監督も「彼は我々のクラブのためにたくさん点を取ってくれていますし、それは紛れもない事実です。プラス彼は本当にチームのために働ける選手、ハードワークを惜しまない、必ずこうチームのためになってくれる選手だというふうに思っていますので、それを代表でも見せてくれるんじゃないかなと思います」と話した。
その代表にはエースFW上田綺世(リヨン)がいる。学年は自分より1歳下だが、そのプレーはお手本そのもの。「体の使い方がうまくて、そういうプレーを動画で見ているし、意識しています」。謙虚な学ぶ姿勢こそが、成長をより高めているのは言うまでもない。
まだ日本代表としての扉が開いたに過ぎない。だからこそ、ここから自分らしさであり、得点力というものを証明していく。
「日本代表は全員攻撃、全員守備だと思うので、自分の守備能力だったり、そこから前に出ていく力だったりを求められていると思う。それでゴールを取ることが評価されて選ばれたと思うので、そこを表現できるように頑張りたいと思います」
今回の日本代表は、24日に宮城県利府町のキューアンドエースタジアムみやぎでウルグアイ代表、28日に広島市のエディオンピースウイング広島でベネズエラ代表と対戦。さらに10月には4カ国で争うキリンカップが行われ、1日に横浜市の日産スタジアムでエクアドル代表、5日に東京・MUFGスタジアム(国立競技場)でパナマ代表かニュージーランド代表と顔を合わせる。
国際舞台でもゴールを量産し、日本代表に定着するのが次の夢だ。28歳、来年3月には29歳を迎える。だが何事も遅すぎることはない。一途な思い、努力を重ねられる強さがあれば、道は続いていく。今回の代表入りによって、谷村は自身の軸がより固まった。
人一倍ピュアで大きな可能性を持った男が、森保ジャパンに加わった。【佐藤隆志】
