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男のロマンか無謀な挑戦か…62歳が球速130キロに挑む 当初70キロ→現在110キロ台後半


【写真】不慣れな傾斜のあるマウンドから投球練習する小澤秀寿さん(撮影・小沢裕)

<球速130キロを目指す還暦男の挑戦:上>

男のロマンか、それとも無謀な挑戦なのか。還暦を超えた年齢で、130キロのスピードボールに挑戦している人がいる。

横浜市に住む小澤秀寿(おざわ・ひでとし)さん(62)は2年前、目の前で見た150キロの速球に魅入られ、「ああいうボールを投げたい」と思った。本格的な野球経験はなく、挑戦を始めた当初は球速70キロにも満たなかったが、現在は110キロ台後半の速球を投げるまでになった。小澤さんの挑戦の様子を3回にわたってお届けします。

  ◇  ◇  ◇

7月下旬、都内。地下1階に広がる室内施設の一角で、小澤さんはうつぶせになっていた。

「右手を伸ばして、そのままの姿勢でプレートを思い切り押してください」

佐藤颯トレーナー(30)の指示に従い、真上、右斜め、真横に手を伸ばして、金属製のプレートを押す。連動するパソコンに表示された数字を見て、佐藤さんは驚きの声を上げた。

「メジャー投手の平均値に近いですね」

小澤さんが訪れていたのは野球専門ジム「DIMENSIОNING」の東京本店。楽天荘司康誠投手(25)や西武武内夏暉投手(25)らが学生時代から通っている事でも有名だ。

計測したのは「フォースプレート」。オーストラリアの「VALD」という企業が開発し、MLB30球団にも提供している身体能力可視化システムの一つで、肩関節のインナーマッスルの力や体幹との連動性を示す。この数値がMLB投手の平均値に近いということは、速い腕の振りに耐えられる肩の構造・出力が、小澤さんには備わっているということになる。

小澤さんは身長177センチ、体重86キロ。40代半ばからウエートトレーニングを継続しており、62歳とは思えないほどたくましい上半身をしている。一方で、課題も明確になった。同じく「VALD」社のシステムで、地面を押す力や地面からの力を伝える速さなどを測る「フォースデックス」では、ジャンプ高が23センチ。145キロを投げるのに必要と言われる43センチには遠く及ばなかった。佐藤トレーナーからは「上半身はメジャー投手の平均に近い数字ですが、下半身は中学生レベル。球速を上げるならば、下半身を鍛えましょう」と指摘された。

「課題が明確になって良かったです。地道に基礎体力をつけて、安定したフォームで投げられるようにします」

2年前、自宅で何げなくテレビを見ていたら、神奈川・相模原の米軍関連施設跡地につくられた人工芝の野球場のニュースをやっていた。グラウンドの色鮮やかな緑に目を奪われ、「こういうところで野球がやりたいなあ」と直感的に思ったという。

野球は中1でやめてしまったが、小5の時は学校で誰よりも遠くにボールを投げることができた。やるなら昔のように「いい球」を投げたい。それも憧れの硬式球で投げることができたらかっこいいな。そう考えた小澤さんは自宅近くの公園でネットに向かってひとりで投球練習を始めた。さらに、横浜市内の野球専用の室内施設を時間借りし、マウンドから投げ込んだ。そこで偶然隣で投げていた現役の社会人野球投手のボールに衝撃を受けた。

「150キロは出ていたんじゃないですか。おれもこういう球を投げてみたいと思ったんです」

仕事を続けながら、休みのたびに硬球を握り、ひとりで黙々と投げ続ける。たまに知人がキャッチャーミットを持って受けてくれることもあるが、基本的にはいつも単独。60歳を超えた「おじさん」が、孤独に黙々と投げ続ける姿は、失礼ながらかなり奇異に映る。

「他人の立場ならば、私だってそう感じると思いますよ(笑い)。この歳で130キロの球を投げたい、投げるぞなんて、誰にも理解されないだろうなとは思っていました」

ほぼ毎回、投球練習の様子を動画に撮り、フォームを分析している。ピッチングの技術書を読み、YouTubeで参考になりそうな動画をみて、研究する。取り組み始めた2年前には60~70キロ台しか出ていなかった球速は、1年後に90~95キロ台に上がり、今では最速117・7キロ(弾道測定器ラプソード3.0による計測。回転数1800~2000、回転効率95%以上)。2年間でなんと40、50キロの球速アップに成功している。

60代の草野球投手の球速は一般的に80~90キロ台と言われる。東大の元エースで、テレビ朝日「報道ステーション」の大越健介キャスター(65)は、2年前から130キロ復活を目指して練習を積んでいるが、球速は100キロ前後に止まっている。熱の入れ方も含め、小澤さんはかなり異例の存在と言える。

なぜ、ここまで前のめりなのか。小澤さんの62年の人生をひもとくと、その理由がおぼろげながら見えてきた。(つづく)【沢田啓太郎】

◆小澤秀寿(おざわ・ひでとし)1964年(昭39)8月5日生まれ、長野県松本市出身。横浜市内の中、高校を卒業後、銀行系システム関係の会社に就職。現在はJCOM株式会社に勤務。40代からジムに通い、ウエートトレーニングに精を出す。野球経験は中学1年生まで。177センチ、86キロ。

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