
取材歴40年の編集委員が今年のプロ野球の注目ポイントを3つ紹介していきます。1回目は「長嶋茂雄賞」。日本野球機構(NPB)は今季から、昨年6月3日に89歳で亡くなった長嶋茂雄さんの名を冠した賞を新設しました。NPB所属の野手の中から、プレーだけでなく人々を魅了する姿勢で球界発展に寄与した1人を選出します。ただ、投手に贈られる「沢村賞」のような選考基準は今のところなく、イメージが先行しています。「長嶋賞」にふさわしい選手とは-。長嶋さんとゆかりのある3人に聞きました。【取材・構成=沢田啓太郎】
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ファン歴は55年以上、TVディレクターとして30年以上、追いかけさせていただきました。もっと詳しく親しい方がいらっしゃるなかで、私などが出しゃばるのは大変おこがましいのですが、長嶋さんの偉大さを後世に伝えたいという気持ちは誰にも負けないつもりです。
この賞を一言で言うと「今シーズン最もファンを喜ばせた野手」でしょう。長嶋さんはファンを喜ばせるために陰で血のにじむような努力をしてきました。そして試合に出続けること。一生に1度しか球場に来られない人のためには休んでなんかはいられない、というのが長嶋さんの考えでした。ですから「全試合出場」は大きなポイントになると思います。
その上で、3つの項目を挙げます。
(1)勝負強さ 長嶋さんと言えば天覧試合のサヨナラホームラン。プロ野球はここから国民的なスポーツに発展していきました。サヨナラホームラン、サヨナラヒットを筆頭に、土壇場で勝負を決する一打をどれだけ打ったか。かつて年間表彰対象だった「勝利打点」(※1981~88年に採用されていた)も参考になるでしょう。
(2)魅せる野球 長嶋さんはお客さんやファンを興奮させるプレーを追求してきました。例えば三塁打は、打って、走って、滑り込むまで視線を集めるエキサイティングなプレーと好んでいました。攻守を問わず、これぞプロというプレー、ワクワクさせる華やかなプレーは大きなポイントになると思います。守備のファインプレーでも魅せる、スライディングでファンを沸かせることでもいい。みんなにチャンスがあります。
(3)言葉と発信力 長嶋さんが不世出のスーパースターである理由の1つが「言葉」を残したことです。引退セレモニーの「巨人軍は永久に不滅です」もそうですし、1996年の大逆転V「メークドラマ」もそう。1994年10月8日、シーズン最終戦同率決戦で中日ドラゴンズを破った時、インタビューで「竜の背中にまたがって天に昇るような気持ち良さ」と表現しました。ファンを巻き込み、ファンを喜ばせる手段として「言葉の力」を熟知していました。マスコミを通して、ファンにどういう言葉を残したかもポイントに挙げたいと思います。
公式戦の成績を中心に日本シリーズの最中に選考する「沢村賞」と違い、「長嶋茂雄賞」はポストシーズンを終えてから選考します。大舞台で活躍した選手はポイントが高くなるでしょう。公式戦(4000打数以上)とオールスター、日本シリーズ(ともに50打数以上)で、いずれも通算打率3割以上残したのは、長嶋さんただ1人です。
「長嶋茂雄賞」の表彰式は、長嶋さんの「あのプレー」を思い出させるような機会にして欲しいと思います。選手みんなが、「長嶋茂雄賞」を目指してファンが喜ぶプロのプレーを追求すれば、日本のプロ野球界はさらに発展すると信じます。
◆鈴木カッパ(本名・鈴木孝)1962年(昭37)3月27日生まれ、山形県出身。95年2月にテレビ放送された「長嶋茂雄と戦後50年」という番組を端緒に、長嶋さんにかかわるコンテンツをいくつも手がけた。長嶋さんから「カッパちゃん」と呼ばれ、かわいがられた。
◆長嶋茂雄賞 公式戦とポストシーズンで走攻守に顕著な活躍を見せ、ファンの心を動かすプレーでNPBの価値向上に貢献した野手1人に贈られる。25年11月の12球団実行委員会で新設が承認された。選考委員はいずれもプロ野球OBの王貞治氏、山本浩二氏、岡田彰布氏、栗山英樹氏、松井稼頭央氏の5人。日本シリーズ終了後に選定され、表彰式は「NPBアワード」で行われる。記念品、メダル、副賞300万円が贈られる。
